美容トレンドの呪縛
最近TikTokを中心に話題と議論を集めている"morning shed"。寝る前にスキンケア用品、口閉じテープや小顔ストラップなど数々の「美容グッズ」を重ね付けして、朝起きる時に全て外す様子を撮影するトレンド。このトレンドが現代の様々な問題を映し出しているとして、多くの媒体が取り上げている。
allureのこの記事が掲載された9月頭の時点では、9千6百万回以上の再生数を稼いでいる、急上昇中のトレンドだ。
そもそもたくさんのスキンケア用品を重ね付けすることが肌に良いとは限らなかったり、仰向けで寝て顔につけたものがずれないよう体制に気をつけなきゃいけなかったり、「美容」のために睡眠のあり方を変えること自体に注意が必要だとも言われている。精神的な側面で言えば、
「寝る時にブスであるほど起きた時にホット(美人)」というセリフがよくこの類の動画に使われるが、起きた瞬間から綺麗、「常にホット」「毎日垢抜け」じゃなきゃいけない焦燥感やプレッシャーはいったいどこからきているのか、ということは考える必要があると指摘されている。
「ベストな状態で常に見られたい望み、努力するのは自然なことだが、美しくなること(垢抜けること)自体がひとつの文化となり、美容への執着、安全性や効果に疑問のある製品や施術の過剰な消費、達成不可能な美的理想による自己嫌悪などを引き起こす可能性がある」
外見的な意味での「自分磨き」をしないといけないと思わされるような強迫観念はどこからきているのか?女性は常に美しく、そしてその美しさに磨きをかけなければならないという社会からの呪縛、そしてそれに密接している美容業界とインフルエンサー経済圏からの直接的な影響は無視することができない。
「現代のSNSトレンドでは、美容や健康法を過剰に"最適化"し、段階的な長大なマニュアルにまとめ、それによって最高の自分へと近づけると謳う。しかし、その過程で、"自己の理想化"のために、自分を極限まで磨き上げるために無数の時間と費用を費やすことを求められている。この文脈における"完璧な"自分とは、常に流動的でありながらも。依然として硬直的な社会の美の基準に最も適合する自分という意味に過ぎない」
寝ている間さえも「最適化」や「効率性」の重要性を刷り込まれ、結局たくさんの商品を使うことで寝ている間に「生産性」が得られるという発想をインフルエンサーエコノミーはノーマライズしている。結局利益を生み出すためには、あらゆる生活の側面が消費主義に吸い込まれるのだ。
睡眠の質向上が世間一般的なトレンドになったら、今度は美容業界がそれに加担して商品を売り込んだり、「楽して自分らしく綺麗に」という謳い文句が「自分磨き」や「セルフケア」の文脈に捩じ込まれていることなどについて、Jessica DeFinoが詳しくSubstackのインタビューで語っている。
「背景にある深い意味について考えるならば、この傾向は、我々の生活のあらゆる瞬間が商品化されていない瞬間はないということ、そして可能な限り"美しく"なることを目的としたプロジェクトのために、あらゆる経験が利用されていない瞬間はないことを示している。」
総じて、美容愛好家たちは、皮膚科医に止められても、常識的に考えても、基本的な論理から"低メンテナンスになるには高メンテナンスになるべき"という愚かな格言に異論があっても、美容製品を購入し、使用することを止められないようだ」