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これがアート? 上野の森で芸術の秋を感じよう

© phreaky

いきなり便器の写真で申し訳ないが、これは現代美術を語る上で避けては通れない重要な作品である。作者のマルセル・デュシャンは「現代美術の父」と言われた芸術家であり、それまでの伝統的な西洋芸術の価値観に衝撃を与えた。この作品は、それまでのアートの概念を根底から覆し、彼が生み出した「レディメイド」などの芸術観やスタイルは、いまなお現代美術に影響を与え続けている。

この作品をはじめとした世界最大のデュシャンコレクションを所有するのが、米国フィラデルフィア美術館である。その協力のもと、東京国立博物館 平成館で開催されているのが、「マルセル・デュシャンと日本美術」展。フィラデルフィア以外でまとまったコレクションが展示されるのは初めての機会であり、貴重なコレクションを会社帰りに見られる幸運を噛み締めながら、さっそく出かけてきた。

http://www.duchamp2018.jp/

現代美術というと、「難解」であり「なにを表現しているかわからない」と印象を持つ方も多いのではないか。この展示会ではより多くの人にその魅力を伝えようとするべく、彼の生涯を時系列で追って、それぞれに丁寧な解説がついている。むしろ、前知識なしで飛び込んでいただきたい展示会である。美術館からのメッセージも以下に引用しておく。

この展覧会では「芸術」をみるのではなく「考える」ことで、さまざまな知的興奮を呼び起こしてください。

芸術の鑑賞のあり方は人それぞれであり、自由である。わたしがアートが好きな理由は、まさに「さまざまな知的興奮」を呼び起こしてくれるものであるからだ。学校では「一般教養」の枠組みに入るのであろうが、これはリベラルアーツ、つまり「自由になるための手段」を学ぶことである。そのためには常識を知り、また常識を打ち破る。もしくは、本質的な問いを立てる力が重要となる。デュシャンが成し遂げたことは、アートの世界においてその常識を破り、「アートの定義は何か?」という本質的な問いを投げかけたことだ。

この点について、ネットを中心に活動するアーティストが集まる「カオス*ラウンジ」を主宰する黒瀬陽平さんが、10月12日の東京新聞夕刊文化面に美術評を寄稿しているので、以下に紹介したい。

https://twitter.com/kaichoo/status/1050757078573244416

https://twitter.com/kaichoo/status/1050757078573244416

https://twitter.com/kaichoo/status/1050757078573244416

デュシャンは「便器をアートに変えた」のではなく、一体誰が、何によってアートかアートでないかを決めるのか?を問うたのだ。「アートを何でもアリにした」のではなく、自分自身が信じる表現と、そうではない退屈な表現との間に、明確な線引きをしようとしただけだ。

デュシャン本人の言葉によると、以下のようになる。

「わたしはアートってものを信じない。アーティストってものを信じてます。」『マルセル・デュシャン アフタヌーンインタヴューズ』 河出書房新社より

アーティストであるデュシャンがなにを信じ、表現しようとしたのか。ぜひ実際に足を運んでみていただきたいと思う。

また、本展示会では第2部として日本美術が展示されている。千利休作と言われる花入を日本における「レディ・メイド」として紹介していたり、日本の美の新たな楽しみ方を提案している。これ自体は大変意欲的な試みだと思うが、1部と2部をよく見れば例えば「レディ・メイド」と「侘び茶」とは全く異なる性質のものであることがわかるだろう。せっかくきてもらったのだから国立博物館の収蔵品にも興味を持ってもらいたいという学芸員の気持ちは理解できるが、ちょっと無理があるのではないかなとも思う。展示作品それぞれは大変素晴らしいものなので、企画展と常設展というくらいの割り切りを持って観ていただければと思う。

※ 初稿では不適切な引用があり、記事を修正しました。黒瀬陽平様に深くお詫び申し上げます。

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