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波長と固有振動数と和音と倍音 〜well-beingな組織と社会のための振動論

お疲れさまです。uni'que若宮です。

少し前に「共鳴のマーケティング」という記事を書きました。

これからは提供者→ユーザーという一方向的な関係や「獲得」「囲い込み」という用語で使われるようなマーケティングではなく、組織や社内外を超えて主客が合一しともに鳴るような「共鳴」が大事な時代になると考えていて、最近よく「共鳴」という現象について考えています。

共鳴には「波長」って大事だなと感じていて、組織のwellbeingにも関わることなので、今日はちょっとそんな話を書きたいと思います。


共鳴に必要な「波長」が合うこと


「共鳴」は、ある振動体の振動が伝播し周りのものを震わせていきます。こうした「共鳴」が起こるために必要なのは「波長が合う」ことです。

人間関係でもよく、なんとなく気が合う人を「波長が合う」と表現することがありますよね。

スタートアップでは「ヴィジョン共感」や「カルチャーフィット」が大事、と言われますが、同じような志向性や思想を持つこと(ベクトルが合うか)に負けず劣らず、波長が合うことも重要な気がします。


ちょっとここで昔習った物理を思い出してみましょう。

「波長(λ)」というのは「振動数(f)」の逆数です。振動数とは毎秒あたりの振動回数ですが、波長が長ければゆっくり揺れるので振動数は低く、波長が短ければ振動数が高いことになります。

早く振動するか、ゆっくり振動するか。色んな振動数の人がいます。たとえば短期の目標達成やスピードや効率を重視する人、自分も時間には正確な代わりに電車が2分遅れると起こる人は波長が短く、周波数が高い人でしょう。一方で自分も含め少々の失敗や遅刻があってもゆったり構えている人もいて、そうした人は波長が長く、周波数が低い人だと言えます。


気をつけなければいけないのは、あまりに波長がちがうと(同じ目標に向かっていても)衝突が起こることです。多くの組織で「方向性(ベクトル)のすり合わせ」はちゃんとしていると思いますが、波長のちがいを考慮しないために衝突が起こってしまっているケースがあります。なぜなら方向としては同じ方を向いた「目標の達成」でも、どれくらいのタイムスパンで考えるかで結果や評価が異なるからです。

たとえば、波長の短いマネージャーはマイクロマネジメントをしがちです。短期で成果を出すため失敗が出ないように先回りして手をうつので、そうした人から波長が長い人をみると「結果へのコミットがゆるい」とか「怠けている」ように見えるかもしれません。

一方で、少々の失敗があっても短期の成果より長いスパンで物事を見ようとしている波長の長い人からすると、波長の短い人は「目先のことに振り回されている」とか「短期は損気」というように見えるかもしれません。


衝突を避けるエキスパンション・ジョイント


留意したいのは、これはどちらが正しいというのではなく、どちらも自分らしく成果に向かっているということです。同じ目標に向かっているにもかかわらず、波長のちがいを理解できずにお互いの「べき論」を押し付け合うと、慢性的にチームがストレスフルな状態になって余白がなくなり「ギスギス」して、衝突が起こります。

こうしたことを避けるため、あまりに波長がちがいすぎるものは無理に接続をしようとせず、いい感じの距離を取ることも重要です。

建築では「エキスパンション・ジョイント」という考え方があるのですが、これは剛性(堅さ)が異なる建物をつなぐ時に用いられます。

たとえば本建屋の隣に別館をつくるような場合、両者できるだけがっちりつないだほうが強度的に有利になりそうに思うかもしれません。しかし、地震が来たりして建物が揺れた時、堅さがちがう2つの建物は別々の振動数で揺れることになります。この時がっちりと遊びなくつないでいるとつないだ部分から破損することになり、かえって建物全体の安全性が低くなってしまうのです。

そこでエキスパンションジョイントの登場です。エキスパンションジョイントでは、実は2つの建物はつながっていません。建物の躯体はつながらずに別々に隙間を空けて作られ、可動なカバープレートを載せたりしてその隙間を塞いでいます。こうすると両方の建物が別々の周期で動いても双方はぶつかったり破断したりせず、共存できることになるのです。

波長のちがいがある時、組織のwell-beingやレジリエンスを高めるためには、直接つながってぶつかり合うのではなく、いい具合に距離や余白をとる、というのも大事なのです。


固有振動数


ものには「固有振動数」があります。たとえばグラスを叩くとそれぞれちがった音程が出ます。大きなグラスほど低く、小さなグラスほど高い音が出ますよね。

ここでもう一回物理の時間です。

固有振動数は、式で表すとこんな感じです。

2πは定数ですから、固有振動数はmとkで決まります。mは質量(重さ)、kは剛性(堅さ)です。mは分母側にあるので重くなればなればなるほど固有振動数は低くなることになります。一方、kは分子側なので堅ければ堅いほど固有振動数が高くなるのです。

アナロジーとして、ひとの振動数を考えてみましょう。たとえば小さな子供(mが小さい)は振動数が高いイメージ。よく子供は落ち着きがないように感じ、大人からすると「うるさい」と思ってしまうことがありますが、それは固有振動数のちがうのです。

一方大人になりmが増えると固有振動数は下がってきます。どっしり構え、ゆったりと過ごすようになり、聞く音楽も変わって来ます。子供からみると退屈に見えるかもしれませんが、気も「長く」なり、より長期的に物事を考えられるようになるでしょう。

これだけ聞くと大きさや年齢だけで振動数が決まってしまうように思うかもしれませんが、しかし大人になると振動数が下がるか、というと必ずしもそうは言えません。

先程の式を思い出しましょう。振動数はもう一つ、剛性kによってちがうからです。大人になってmが増えても、柔らかい考え方ができなくなり頭が「堅い」状態になると、これまた固有振動数が高い状態になります。(「堅い」状態とは、過去の経験やルール、自身の価値観に「のみ」こだわり、他の意見や価値観を受け入れられない、いわば「価値観が凝っている」状態です)


振動数が高いものは、高い振動数に共振します。

偽りのニュースほど広く、速く伝わる

こうしたことは人々の固有振動数が高い時に起こる気がします。

例えばギターの弦を想像すると分かりますが「緊張(テンション)」が高いほど弦は「堅く」なり、振動数が高くなります。コロナ禍の今もちょうどそんな感じかもしれませんね。人々が緊張状態にあると、デマや陰謀説のような恐怖心を煽るような噂ほど高速でシェアや拡散され、高い振動数の人々に共振(そして狂信)的に伝播されていくのです。


ダイバーシティと和音、そして倍音


こうしたことを考えると、不安や不確実性が高い時代ほど、振動数の高い人しかいない組織は危険な状態になりかねない、といえるかもしれません。とくにSDGsの観点からは、短期的なゴールだけではなくタイムスパンを広く見て考えることも重要です。

とはいっても、最初に述べたように、波長が長い(振動数が小さい)方が「よい」と言いたいわけではありません。物事を遅滞なくきっちりすすめる上では堅さや頻繁にチェックをするような振動数の高さもやはり必要だからです。

ただもしかすると、いまの日本の社会は少し堅い側に寄り過ぎ、振動数が高い方に偏重しすぎているかもしれません。


(「会議に時間がかかる」という発言もこの象徴かもしれませんが)高い振動数ばかりの状況を変えるためには異なる「波長」の人が増えていくことも重要です。

波長が多様になると、周波数がずれるので共振は起きづらくなります。急激な増幅も起きづらい代わりに「共鳴」にも時間がかかるようになるかもしれません。あるいはあまりにそれを直結してしまうと「衝突」が起こって内部から亀裂がはいってしまうこともあるかもしれません。

しかし、そうした異質性を厭って高い振動数とそれに共振する振動数が高い人だけを集めた組織は堅いけれどもポッキリと折れやすいものになってしまうのではないでしょうか。あるいは堅く高い振動数だけで構成された社会においては、一時的な増幅と共振が起こってしまい、社会のwell-beingの観点から考えても脆弱ではないでしょうか。


ダイバーシティというのは、目的(ベクトル)だけではなく、こうした「波長」の多様性の中でバランスを取りながら「和音」をつくっていくことかもしれません。あるいは、よい歌手は「倍音」を響かせ、人の心を動かすことができると言われています。

コロナ禍を含め不確実性が高く不安な時代だからこそ、(高音だけでなく)緊張を解いてより低い振動数の音も鳴らし和音や倍音にしていくことが組織や社会のwell-beingな状態につながり、より広く社会を「共鳴」させていくために必要だと感じています。個人としても組織としても、そのようなあり方・働き方を目指していきたいとおもっています。

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