心理的安全性ある組織=ただの「仲良し倶楽部」ではない
Potage代表コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。企業さんのコミュニティづくりのお手伝いや、コミュニティ型組織開発のお手伝いをしています。
さて、日ごろVoicyという音声メディアで「コミュニティ思考」について発信しています。
日常の生活や働き方に役立つヒントを、コミュニティ思考の観点から毎日発信しているのですが、コミュニティ型組織開発にも欠かすことのできない「心理的安全性」についてお話していたら、リスナーさんからこんな質問が届きました。
こちらの質問は、心理的安全性を捉えるときに誤解されがちな部分が、ありありと表現されています。心理的安全性という言葉だけとらえると「みんな仲良し、和気あいあい」という雰囲気を想像される方が多い印象があります。そのままの意味で解釈してしまうと、その言葉に触れたマネージャーさんが「メンバーがいいねいいねと言われたくて、周りのウケをとるような、内向きのコミュニケーションに終始してしまうのではないか」という懸念を持っても、ある意味仕方ないことのようにも思います。
さて、この質問に対して僕なりの回答をすると「心理的安全性の高い組織は、ただの【仲良し倶楽部】ではないんですよ」ということになります。以下解説していきます。面白かった!参考になった!という方はぜひ、おひねり代わりにハートマークをポチっと押していただけると嬉しいです。
心理的安全性ある組織=仲良し倶楽部ではない!
仲良し倶楽部ってなんだ、と思われる方もいるかもしれませんが、ヌーラボの橋本正徳さんの著作「会社は「仲良しクラブ」でいい」では、次のように表現されています。
会社はチームとして価値創造をしたい人たちの集団であり、学生のサークルではありません。だから、ただのなれあい集団でいてはいけないし「会社は仲良しクラブではない」という表現には「仲良くやってるだけでは成果なんて出せないよ」という意味がこめられているように思います。
心理的安全性の高い組織においても、ゴールは「組織としての価値創造」にあります。仲がいいことは大事な要件ではありますが、仲がいいだけではダメで、ちゃんと社会に対するパフォーマンスにしっかりと向き合う必要はあるのです。
定義から考える心理的安全性のあるべき姿
そもそも心理的安全性の定義にさかのぼると、次のように表現されています。
ここで表現されているのは「自分の本音を安心してオープンに伝えられる」ことが、心理的安全性ある組織の要件ですよ、ということです。逆に言えば、周りと仲良しでいるために、顔色をうかがって忖度して本音を隠してうわべかつ内輪のコミュニケーションをとる組織は、心理的安全性が低いということなのです。
ということは、心理的安全性の高い組織においては、相手にとってポジティブなフィードバックも、一見ネガティブな「改善したほうがいい」「ここはこうふるまった方がいい」というフィードバックも、率直に伝えられる関係性があることが大事になります。
では、なぜ心理的安全性の高い組織において、直接的なフィードバックが可能になるかと言うと「何を言っても/言われても自身の人格や存在価値は否定されない」という安心感がベースに存在しているからです。
「あなたは大事なチームメンバーであり、普段の仕事への向き合い方も尊重しています。しかし、組織のゴールを考えてみたときに、今必要な行動は、それではないかもしれないとマネジメントとしては思うのですが、ご意見をお聞かせいただけないでしょうか」
例えばこのようなかたちで、自分自身の考えを率直にフィードバックし、伝えあうことができる人間関係こそが健全である。これが、心理的安全性の根幹の考え方なのです。
ということで冒頭の質問に戻ると、心理的安全性の高い場というのは、決してお互いの承認欲求を満たすための場ではないということを、まずは前提としておさえる必要があります。
すべての物事に対して「いいね」と肯定のコメントを残すことは、もしそれがお互いを傷つけたくないという忖度の気持ちから来ていて、本音を隠した結果だとするならば、むしろ心理的安全性の高い組織においては歓迎されないのです。
組織としての方向性を浸透させたうえでフィードバックを重ねよう
ただし難しいのは、率直なフィードバックが「個人攻撃」になってはいけないということです。心理的安全性の高いフィードバックをする上で大事なのは「いったん相手のことを受け入れる言葉を加える」ことなのです。「あなたがどんな発言をしても、あなたへの信頼は崩れないし、何があっても関係性は壊れませんよ」という前提を整えた上で、お互いの共通の目的に対してもっとも効果的なアクションについて、しっかり話し合うことが大事になります。
その上で大事なのは、経営者やマネジメントが、組織としての方向性をしっかりとメンバーに対して共有をして、合意をとっていくことだと考えています。経営者であるSさんが「内向きにならずに外を向いて、社会に対してかかわりを積極的に持っていく」ことが組織の維持・発展のために大事だと思うのならば、しっかりとメンバーに伝えて、対話をつづけながら浸透させていく必要があるでしょう。
それがしっかりとメンバーに浸透すれば、それが組織にとっての「行動基準」になります。行動基準が明確になりさえすれば、それを物差しにして「組織文化によりフィットする行動」を定義できるようになるというわけです。
しっかりと指針を定義した上で、所属メンバー個々人のパフォーマンスを最大化するために何ができるか、思考を促しながら実践し、常に改善し続けていく必要があります。その思考⇒実行⇒改善のサイクルを支えるのが、マネジメントと所属メンバーとの1on1を軸としたコミュニケーションです。
1on1コミュニケーションにおいては「①Good ②Uniqueness ③More」の3つの要素をおさえると、心理的安全性の高いフィードバックを実現することができます。
①Goodは「まず褒める」ということです。良いところを見つけてスポットをあてることで「これは肯定的な対話なのだ」というメッセージを伝え、対話における心理的安全性を担保していきます。褒められるうちに、対話相手も、オープンに本音を話しやすい気持ちになってきます。
②Uniquenessは、Goodと重なる部分もありますが「相手の個性を認める言葉」を落としていくということです。これはあなたらしい考えですよね、これはあなたの経験があってこそ実現できることですよね、この方とのコミュニケーションはあなたにしかできないですよね、などなど、メンバーの方の経歴や特性を見出して、ちゃんと一人の個人としてあなたのことを見ていますよ、というメッセージを伝えることができます。結果として、対話における心理的安全性は更に高まり、オープンにしゃべっていい雰囲気が生まれてきます。
その上で③More、つまり「その人の成長につながるようなダイレクトフィードバック」を伝えます。Good/Uniquenessを経ると「組織やチームにとって更にプラスになるとマネージャーとしては感じていますがいかがですか?」「組織の向かうゴールはこっちだから、そっちの方向に一緒に向かっていくためにこんな要素が必要だという印象がありますがいかがですか?」という問いかけをしたときに、素直に相手が聞き入れやすく、考えを発言しやすい状態が生まれます。その上で、マネージャーとメンバーが一緒になって考えて、プロセスをブラッシュアップしていくことが大事なのです。
1on1スキルを磨けるオンラインスクール「モデファシ」について
このようなフィードバックが必要とされるため組織の心理的安全性づくりには、マネジメントの1on1スキルが欠かせません。相手の立場に立った会話のつくりかた、リアクションやフィードバックの仕方、話の聞き方伝え方といったスキルが必要となるわけですが、そのいろはをプロファシリテーターの僕がすべてお伝えするオンラインコミュニティスクール「THE MODERATORS &FACILITATORS」が9月1日に開講します。
イベントの進行や、YouTubeなどの番組の進行をしたい人が中心ではあるのですが、人事畑の方、マネージャーの方、ビジネスコンサルタントの方、お医者さんや弁護士さんなど、日常で1on1コミュニケーションを必要とされる方も多く受講されている講座で、これまで100名近くの卒業生がいらっしゃいます。
動画学習と実践を組合わせて、プロ目線でのフィードバックもたっぷりお届けします。コミュニケーションのつくりかたを見直したい方、組織開発に活かしたい方、ぜひチェック下さい。