AI時代は、ピボットをしてはいけない
昨日、とても胸が熱くなるニュースが舞い込んだ。
それは、牡鹿半島の牧浜という小さな集落で生まれたプロダクト”OCICA”に関するニュースだった。
OCICAは、一般社団法人つむぎやが、男性漁師のサポートをしていた 女性たちに、わずかでも収入をもたらすこと、各々の役割としての仕事をつくること、そして、住民同士の交流機会創出によるコミュニティづくり(再生)を目指してスタートした事業。
そう、311で甚大な被害を被った石巻で、被災地に入って復興支援活動をしていた友廣くんが主となり、害獣となってしまっている鹿の捨てられてしまう「角」と、震災で漁に出れず使用できない「漁網」を使って、被災者の生活を支えられないかと始めた事業。
「チャリティグッズではなく、息の長いものを」
「利益を最大化することではなく、お母さん方の笑顔を最大化させる」
というミッションを定め、これまで8年間多くの笑顔を生み出してきた事業だった。本当に素晴らしいアイデアだと思うし、僕も一度2012年初頭に現地を訪問して、つむぎやのみんなと一緒に部屋に泊めてもらって活動に直に触れて、心が熱くなったのを今でも覚えている。
それから、僕としてのOCICAへは、いち愛用ユーザーとしてOCICAを買って身につけていたり、"OCICA"の本を出版しようという話になった時に、MOTIONGALLERYとしてクラウドファンディングで一緒にプロジェクトを頑張った。
それからかなりの年数が経ったが、LTVが高い事業とでもいうべきか、僕のなかではかなり思い出深く、いまだにOCICAを見につけていたり、話題に登ることが耐えなかった。
一番驚いたのは、昨年末に台湾のアートブックフェアにMOTIONGALLERYとして出店し、OCICA本を販売していたら、
「OCICA」知っている!!
と声を何人にも掛けられた。
そんな事ってあるのかって本当に驚いた。
石巻で生まれ、じっくりと丁寧に、規模を追わないで継続していたOCICAが、
いや、だからこそと言ってもいいかもしれない。グローバルに届いていたのだ。すごい話だと思った。
そんな中の、今回のニュース。
最初は驚きと、切なさが先にたったが、本質はむしろもっと深かった。
そう、最初から「終わり」がプログラムされていたのだ。
お母さん方の笑顔を最大化させることが事業目的であるならば、それを実現させる為に「終わり」が必要になれば、ゆっくりと終わりを志向する。
"属人性を残して、終わりを見据えて。友廣さんがつくるビジネスのかたちは、変わりゆくものに対して柔軟で、とてもしなやか。そのイメージは、ガツガツと経済的成長を目指す動物的なビジネスとは対象的で、控えめなのに芯の強さを持つ植物的なものに感じられました。"
そう、冷静に考えると、当初からのビジョン・ミッションを初志貫徹しつくしただけだったのだ。これは本当に凄いことだし称賛されるべき事だと思う。
むしろ、グローバルに届くくらいになっていたOCICAを、これからももっと広げたい、もっと続けたいと考えれば、続けることはいくらでもできたと思う。
初志を捨てる事さえできれば。
ビジネスとは、永続的に成長する・規模を拡大することが求められ、それができるものが称賛されるというドグマがある。
しかし、そのドグマのスイッチが入った瞬間に、そもそものビジネスのミッションや初志が揺らぐようでは何の為に事業をやっているのかという事に向き合える。その友廣くんの強さ。凄い事だと思う。
今迫りくるAI時代に向けて、「この仕事はなくなる」「職がなくなる」「こういう仕事の仕方をすればビジネスチャンスがありそう」という文脈で、フォーカスされていると思う。
でも、AIが進化するということは、事務処理やデータに基づく作業を人間が行う優位性がなくなる世界である。
まさに、僕の前職であるコンサルティングを筆頭としたホワイトカラーが一番むずかしいかもしれない。
では、意思決定者となる経営者がいいのではという議論もOCICAを見てちょっとまてよと思った。いくら意思決定者でいたとしても、その意思決定のベースが、永続的に成長する・規模を拡大するドグマのままでは、結局最終的にはAIに取って代わられるのではないだろうか。
常に、シンギュラリティ、データでは推測できない動きがこれから求められるのではないだろうか。
そう、事業を成長させ続けることを考えるとついつい、事業を当初ミッションから離れてでもピボットしていかなくてはと考えられるが、それではAI時代では逆に汎用化してしまい、人がやる仕事として続かない事業になるかもしれない。
「お母さん方の笑顔」というミッションに愚直に向き合い続け、
・最初掲げたミッションからぶらさないという意思決定
・プロジェクトの終わり自体を避けない
そんな事業のあり方を繰り返していく。
そんな社会課題解決を最大の目的に据えるプロジェクト型の仕事が、これから生きる人達に求められるのではないだろうか。
なぜならば、既に築き上げられ運用フェーズに入っている事業は、AIがほとんどをこなしてしまうのだろうから。