課題が多い「脱ガソリン」
日本政府は2030年代半ばまでに国内の新車からガソリン車をなくし、全てをハイブリッド車や電気自動車などにする目標を発表しています。背景には、これまで日本の基幹産業を担ってきた自動車産業における経済構造転換を早めに促す大きな狙いがあります。また、欧米に対して出遅れているグリーン・デジタル投資で巻き返しを図る狙いもあるでしょう。
こうした中、日本は脱ガソリン車の動きが遅れています。技術的には、環境に配慮した自動車生産に関して日本はトップクラスと言われています。しかし、日本が優位性を有するハイブリッドやプラグインハイブリットはガソリンを使いますので、「脱ガソリン」ということになると、世界における日本の自動車産業の技術的地位が覆る可能性があるでしょう。
一方、自動車産業は日本の基幹産業であり、最もすそ野が広い業界です。総務省の平成27年産業連関表によれば、生産誘発係数が2.73と187部門中一位となってますので、それだけ関連する企業を支えている産業といえます。しかし、自動車が家電化されれば日本の優位性が失われる可能性が出てきますので、政府は資金的な面も含めて自動車関連産業を後押ししていく必要があるでしょう。
そして何よりも重要なのは、そうした分野に対応できる人材を育成することが必須の課題になるでしょう。世界がグリーンやデジタルの技術開発でしのぎを削る中、ゼネラリストが優遇され、スペシャリストを蔑ろにしてきた現状を改善しなければ、いくら予算をつけて有形無形資産の投資が増えても、それを扱う人材が育成されなければ、満足のいく結果を出すのは難しいでしょう。また、ガソリンスタンドに変わるインフラ整備が不可欠という意味では、そうした環境整備を進めるための税制面の優遇なども必要になってくるかもしれません。また、現状の車体価格を今後の量産化や技術革新でどれだけ下げられるかもカギを握るでしょう。
このように、日本が脱ガソリン車に向けた動きを進めるには、産業構造の変化に伴い労働市場の移動が余儀なくされるでしょうから、労働者が新たなスキルを身に着けることやアップデートするための学び直し=リカレント教育の機会を増やす必要性も出てくるでしょう。また、自動車関連産業の場合、それ自体が地域の基幹産業であることも珍しくありませんので、それが傾いて町ぐるみの不景気にならないためにどう支えるかも重要となってくるでしょう。そして、何よりも脱ガソリンは経済問題と同時に環境問題でもありますから、双方の面で国際的に何が求められているのかを冷静に判断し、バランスの取れた政策を進めていくことが必要になってくるでしょう。
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