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アップサイクル:循環経済の切り札か、あるいはマーケティングにすぎないのか

noteのアーティストさんのイラストで、おもしろい絵を見つけました。パイナップルの葉で帽子を作ってアップサイクル!というものです。アップサイクルとは、本来であれば捨てられるはずの廃棄物に、デザインやアイデアを加えて新しい製品に生まれ変わらせることです。この定義に従えば、パイナップルの葉っぱを帽子にすることは、立派なアップサイクルになるかもしれません。しかし、ここで立ち止まって考えてみましょう。リサイクルやアップサイクルは、廃棄物を減らすことで、地球環境をより良く保つことが期待されているからこそ、意味があるのです。たった一つのパイナップルの葉っぱを帽子にしただけではインパクトがありません。パイナップルの食べられない部分の廃棄をなくすために、パイナップルの帽子を何個つくればいいのだろうか、ということを考える必要があるのです。

ビールカップからできた球場椅子

最近、日経新聞でもアップサイクルの記事をたくさん見るようになりました。たとえば次の記事は、「コクヨは26日、甲子園球場で回収されたビールカップを再利用したスタジアム用の座席を開発し、プロ野球・阪神タイガースの2軍拠点に納品すると発表した。タイガースが2025年3月に開く『ゼロカーボンベースボールパーク』(兵庫県尼崎市)のメイン球場の客席などに採用された」と報じています。

さて、このアップサイクル商品には、どんな意味があるのでしょうか。「ゼロカーボンベースボールパーク」という球場のコンセプトはわかりますし、こういう取り組みは良いことだと思います。球場の椅子という身近な場所に象徴的なアップサイクル商品を使うことで、このゼロカーボンのコンセプトを実現しようとしていることも伝わってきます。それでも疑問に思ってしまうのは、このビールカップ椅子に、どれだけの環境へのインパクトがあるのだろうか?ということです。今後も次々とビールカップが廃棄され続けるならば、この過去にアップサイクルされた少量の資源に、私たちは何の意味を見出せるのでしょうか

もしかすると、ゼロカーボンベースボールパークは「現代の流行の最先端のマーケティングコンセプト」であり、「環境負荷をかけることの罪悪感を取り去る」という付加価値を提供しているにすぎないのではないか、とうがった見方をしてしまいそうです。

レクサス端材のアップサイクル商品

似た取り組みとして、次の記事は、高級車レクサスの端材をアップサイクルした商品を紹介しています。「高級車ブランド「レクサス」のシートレザーの端材を使ったペンケース(3500円)やカードケース(2000円)など文房具を販売する。エアバッグ用基布やシートベルトの端材を活用したトートバッグ(2万3100円)などアウトドア商品もそろえる」とあります。高級素材の端材の廃棄はもったいないので、すばらしいアップサイクル商品にも見えます

アップサイクル商品に問題を感じるのは、「本質的な社会課題解決にまったくなっていないのに、消費者の社会貢献意識に応えることが付加価値になっている」というケースです。アップサイクル商品の作り手たちは、「もったいない」や「資源の循環をできるだけしたい」と考えていると思いますが、結果的に「アップサイクルという付加価値を売りたい」ということが前面に出ている商品が少なくありません。これは、悪く言えば「環境ウォッシュ」(環境に良いことだと表面的に謳うことで利益を得ようとする行為)に近いのかもしれません。

廃棄資源をゼロにするという決意

牡蠣殻の廃棄ゼロなど、環境目標から入ったリサイクル、アップサイクルは、すこし様子が違います。

次の記事は、「カキやホタテなどの貝殻が、スーツや化粧品、建築資材など価値の高いものに生まれ変わっている。日本は世界有数の貝生産国で、これまでも肥料や土木工事の資材として循環はしてきたが、価値は低かった。今、環境に優しい素材として新たな業界から注目される」と報じています。

「牡蠣殻が入ったスーツ」で「環境に良いことをしている」と感じるだけではなく、「牡蠣殻廃棄をゼロにする」という大きな挑戦があり、その一環として、牡蠣殻スーツがあるのならば、これは環境インパクトがしっかりあると捉えることができます。

こちらはリサイクルですが、牡蠣殻は畳にも使われています。次の記事は、「伊藤畳商店(名古屋市)はカキの殻を使った畳を開発した。い草の畳に比べ日焼けしにくく耐久性があり、通常は廃棄されるカキの殻をリサイクルすることで環境にも配慮した商品として売り込む」と記しています。

インパクト目標をもつアップサイクル商品を

アップサイクル商品は、どうしても材料の意外性や、デザイン性などに注目が集まってしまい、ほんとうにその社会問題を削減しているかに目が行かなくなってしまいがちです。ファッション性で売れることは、環境意識の高くない人にもアピール可能という意味で、象徴的な価値はあると思います。でも、どうせなら、象徴的な価値は当然追求したうえで、その本質的な社会インパクトも追求したアップサイクルが広がることを願います。

社会インパクトは、必ずしも社会全体の問題をいきなり解決することをめざす必要はありません。スコープを明確にすることで、小さく始めることができます。たとえば、一つの町で廃棄されるはずの牡蠣殻をすべてリサイクル、アップサイクルする、という目標は現実的かもしれません。

あるいは、先のレクサスのケースであれば、一つのプロダクトの端材廃棄ゼロをめざすというスコープを決めれば、社会インパクトが測定できるでしょう。ノウハウを貯めて、次は他の車種へと広げていくことができます。この逆が、売れそうな数だけ端材アップサイクル商品を店頭に並べる、という考え方です。これだとたんなる商売のアイデアと捉えられても仕方がありません。

社会インパクト優位で進める「循環経済の切り札」としてのアップサイクルか、マーケティング優位で進めるアップサイクルは、根本的に発想が異なります。アップサイクルが、循環経済の切り札として発展するためにも、社会インパクトをどれだけ考えた商品なのかを見る「循環経済の目利き」に私たちはなる必要がありそうです。

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