新しい未来を創り出そうとする人たちと過ごす時間を増やしたい
いわゆるエッセンシャルワーカーとしての仕事の行き帰りに通る飲食店街で、ここしばらくで「昼飲みやってます」という掲示が目につくようになった。気がつくと、店を閉めたところもだんだん増えて来た。
新型コロナウイルスでどんな仕事も多かれ少なかれ影響を受けているし、特に「リモートで」というわけにいかない業種では深刻なマイナスの影響が出ていることを、空き店舗となったり別な店になったりして様子が変わった街を歩くとリアルに感じる。
会食が感染拡大の原因になっているとしても、人々が食事をすること自体をやめるわけではない。そうだとしたら、8時以降に一律に営業自粛という方法以外にも、たとえば少し極端だが「おひとり様」に限っては食事ができるようにするなど、何らかの別な方策が取れなかったのだろうかと思う。
一方で、昨春の緊急事態宣言中にランチのテイクアウトを提供していた店が、宣言あけとともにテイクアウトを止めてしまったり、ランチ営業自体を止めたりしていた店も少なからずあって、そういう店がここに来て「昼飲み」をアピールしているのを見たりすると、何とも言えない気持ちになるのもまた、正直なところだ。
このデンソーの鈴木さんの独自の分析によれば、日本は新型コロナウイルスの問題が落ち着くに伴って、「元に戻っていく」であろうという将来を予測している。
上に挙げた飲食店の動きを見ても、そうした傾向を感じることができる。それはそれで致し方のないところだろうとは思うのだが、鈴木さんの分析にあるように、それで日本は経済的に沈んでいくことになるのだとしたら、個人的には残念な気持ちになる。
他方、新型コロナウイルスの影響で大きく状況が変わったことを前向きに受け止めて、今は苦しくてもその次にくる新しい未来のために動き出している人たちもいる。
例えばこうした状況になって初めて、トップ層が新しい動きに否定的な見解を出すことをやめ、それによって次の時代を担う若手のリーダー層が新しい動きを始めている、といった業界もある。
こうした時であるからこそ、次の時代のビジネスに取り組まなければならないということで、新規事業開発サポートの打診を頂いた会社もある。
ビジネスではないが、日本の伝統的な文化に関わる寺社でも、新しい動きがあり、これまでは見られなかったオンライン・リモート参拝の取り組みが始まっている。ここにある2つの事例は、いずれも地方都市にあるお寺なのが興味深い。
先が見えない今の状況は、誰にとっても先を見通すのが難しく、業績が落ちこんでいる会社では経営的にも苦しい状況である。こうした中で新しい動きを始めようとする人や組織は、なおさら大変であることは想像に難くない。
それでも新しいことに挑戦しようとする人がいるのは、今のままではいけないという危機感もそうだが、大変な思いをしてでも次の新しい明るい未来を求めたいという希望が勇気と行動をドライブしているのだ、ということを切に感じる。
猪瀬直樹さんの著書「ミカドの肖像」に書かれていた、忘れられないくだりがある。それは、戦後焼け野原となって皆が茫然自失となっている中で、後の西武グループを作った堤康次郎氏が、安い値段で売りに出されていた都心の一等地を買うために電話をかけ続けていたというエピソードだ。
そしてホンダやソニーといった、今となっては世界中で名前を知られている企業も、戦後の焼け野原の中から立ち上がった企業である。こうした人たちは、数は少数派だったが、多くの人が立ちつくしているなかで行動したことが、その後の時代を作ることになった。
「誰かのために考えたり行動する時間=やさしい時間」を、私はこの難しい状況の中で、新たな変化を起こそうとする人たちとともに過ごしたいと思う。こうした取り組みをしている人たちが次の時代を作っていくことは間違いがないし、未来を一緒に考えて行動に移すことは、とてもワクワクする楽しい時間でもある。自分の力などたかが知れているが、志を同じくする人たちの動きが大きなうねりになるなら、世の中に良い変化が生まれるかもしれないと思うと、気持ちが躍るのだ。