進むオフィスの「集約と分散」。「集中できるワークプレイス」の争奪戦は加速する。

2020年も残すところ1ヶ月。12月はどうしても毎年バタつくので、11月下旬頃から1年を振り返る準備をしはじめているのですが、今年は「コロナ禍」によって仕事にもプライベートにも大きな変化がありました。

我々の生活にもたらした影響は数知れず、計り知れないレベルですが、僕個人にもたらした最大のインパクトは「ワークスタイル」の変化、とりわけ「ワークプレイス」(働く場所)の変化でしょう。

振り返ると、今年のCOMEMOでも「ワークプレイス」をテーマにしたコラムを多く執筆しています。

こちらのコラムでは、

「職住近接」から「職住一体」へシフトすることによって、

①通勤という概念がなくなることでオフィス街へのアクセスの良さが不要に
②在宅ワークを実現するために広い間取りの住宅ニーズが高まる

という変化が生まれ、都心から地方(または郊外)への移住(都心離れ)が加速するのでは、ということを書きました。

あれから半年経ってどうなったか。

総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京都は7~9月、転出した人が転入者を上回った。3カ月連続の転出超過は外国人も統計に含めた2013年7月以降で初めてという。

とのこと。「都心離れ」は確実に進んでいます。

さらに3ヶ月後の9月にはこんな記事を書きました。

この記事では

これまでは、毎日出社して「仕事」をするための「ケ」の場所として日常的に利用されていた空間であったはずのオフィスが、時折みんなで集まって関係性を深めたり、相互理解を促す、オフサイトミーティングのような「非日常」のコミュニケーションを行うための「ハレ」の場所へとシフトしてゆく

ことによって、メンバーが集まる時だけ必要なスペースを借りる、というような形で「オンデマンド型のオフィス」で十分なのではないか?ということを書きました。

こちらについてはどうでしょうか。

10月には東急不動産が「曜日単位でオフィス貸し出し」をする新サービス「QUICK(クイック)」をリリースしていますが、こちらはまさにオンデマンド型のオフィスの一つの形ですよね。

全体のトレンドとして、都心オフィスの空室率の上昇傾向は続いています。

10月の都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は前月から0.5ポイント上がり3.93%となった。渋谷区は需給均衡点とされる5%を超えた。8月に下落へ転じた5区の平均募集賃料も下げ幅が拡大した。

空室率の上昇は8カ月連続となる。5区で空室率が最も高い渋谷区は5.14%で0.66ポイント上がった。5%台となるのは2014年2月以来だ。IT(情報技術)企業を中心に経費削減や在宅勤務の浸透でオフィスを縮小する動きが続く。

空室率が上がり、賃料が下がれば「需要と供給」がバランスしてまた一時的に空室率が下がることもあるでしょうが、今後も「企業のオフィス離れ」はじわじわと進んでいくことでしょう。

ここまでは過去のコラムの振り返りですが、以下では前回書ききれなかった「ワークプレイス」の話をしたいと思います。

大手企業に広がるオフィスの「集約と分散」

上記のコラムでは、

PCに向き合って行うような作業や、打ち合わせや会議も含めて、「仕事」をするだけならオフィスは不要です。

「仕事に最適化された空間ではないので、自宅だと集中できない」という人も少なくないですが、自宅の近くに「作業や会議に集中できる空間」があればカフェやコワーキングスペースでも良いわけで、わざわざ通勤電車に消耗しながらオフィスに通って「みんなで同じ場所ではたらく」必要性はないわけです。

と、わざわざ通勤電車に消耗しながらオフィスに通って「みんなで同じ場所ではたらく」必要性はないことにフォーカスして話を進めていましたが、「作業や会議に集中できる空間」はそもそも確保できているのか?どう確保するのか?という点については触れていませんでした。

テレワーク×住まいに関する意識調査によれば、

「オンオフの切り替えがしづらい」
「子供を見つつ仕事可能な環境(部屋・スペース)がない」
「一人で集中するスぺースがない」

といった理由で、在宅勤務に不満を感じてる人は少なくありません。

それもそのはず。「職住分離」(住む場所と働く場所は分離されているもの)という前提で、今の住居を借りている/買っているわけではないので、「自宅が働くことに最適化されていない」のですよね。

「自宅を働くことに最適化させる」手段として、「引っ越す」という選択肢ももちろんあるわけで、実際に移住・引っ越しを選んでいるわけですが、そもそも持ち家だったり、賃貸でも契約更新のタイミングがまだ先だったり、コロナ収束後はまたオフィスへの出勤モードに戻るかも?とかいろいろ考えると、おいそれと簡単に移住なんて出来ない!という人が実際のところほとんどだと思います。

「自宅では仕事に集中できる環境をつくるのが難しい」
「かといって今すぐ引っ越すのは現実的ではない」

とすると、選択肢は一つしかありません。

ずばり「自宅外に集中できるワークプレイスを確保すること」です。

「集中できるワークプレイス」の代表格が、働くことに最適化された場所、すなわちオフィスなわけですが、長い時間をかけて通勤しないといけない、となると本末転倒です。

オフィスの近くに住んでいる方であれば、オフィスで事足りるかと思うのですが、都内の平均通勤時間が45分~60分がボリュームゾーンだという事実を踏まえると、ほとんどの方がオフィスからある程度距離のあるところに住んでいることがわかります。

可能な限り通勤にかかる移動時間を削減して、自宅の最寄り駅や、15~30分程度で移動可能な範囲内で「集中できるワークプレイス」を確保できると理想的です。

こうしたニーズを受けて大手企業を中心に急速に広がっているのが「オフィスの集約と分散」です。

三菱ケミカルは、2021年4月に本社機能がある東京都内3カ所のオフィスを1カ所に集約する。新型コロナウイルスで在宅勤務が増え、出社率が2~3割に低下。柔軟な働き方を定着させ、賃料などのコストを削減する。

三菱ケミカルは東京都内で本社機能を持つオフィスが千代田区丸の内、中央区日本橋、品川区大崎の3カ所にある。丸の内では約2500人、他の2カ所では約500人ずつが働く。21年4月からはオフィスを丸の内に集約する。

丸の内のオフィスの社員は約1千人分増加することになるが、出社率は既に低下している。さらに社員の席を固定しないフリーアドレス導入や書類の電子化などを進めてスペースを確保した。サテライトオフィスの活用も進める。

在宅勤務の定着でオフィスを集約する動きが広がる。LIXILグループも20年度から21年度にかけて東京都江東区にある本社に、東京23区内にあるグループの計23拠点の集約を進める方針だ。化学大手では昭和電工も、6月に完全子会社化した昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)の本社を昭和電工に集約する方向で検討している。

三菱ケミカルの他にも、SMBC日興証券が従業員が自宅近くで働けるサテライトオフィスを整えたり、みずほフィナンシャルグループは事務の効率化で生じる支店の空きスペースを使い、従業員が自宅近くで働けるサテライトオフィスを整えたりしています。

まとめると、

(1)在宅勤務(を含めたテレワーク)が広がったことで、必要なデスクの数を大幅に削減できた
(2)コストカットを主目的にオフィスを一箇所に集約
(3)外部のサテライトオフィスを活用することで社員のワークプレイスニーズにもしっかり応える

という流れですね。

集中できるワークプレイスの争奪戦がはじまる。

こうしたオフィスの「集約」と「分散」の流れがある中で、オフィスビジネスを展開している不動産各社も手をこまねいているわけではなく、機を見るに敏に対応をすすめています。

例えば、野村不動産はサテライト型シェアオフィスを27年度までに現在の約6倍の150拠点に増やすとしていますし、東京電力が提供している郊外型テレワークオフィスの「SoloTime」は上記の野村不動産との提携を発表しています。

さらには、このオフィス分散のトレンドを捉えたNECグループが企業が都心のオフィスを分散させるのを支援するサービスを開始しています。

サテライトオフィスに適した首都圏近郊の物件情報を検索できる独自システムを開発。社員の居住地や勤務状況などから、最適なオフィスの配置、必要なコストをシミュレーションして顧客企業に提示する。2021年3月末までに100社の受注を見込む。
(中略)
同社によると、社員500人が都心の本社で働く企業で約半数が在宅勤務を継続する場合、賃料や通勤定期代の減少で年2億円弱のコスト削減が期待できる。新たにサテライトオフィスを設けても初期費用は2年あまりで回収できるという。

引用:日本経済新聞

また、サテライトオフィスを「シェアリングエコノミー」的に作っていく動きとして、カフェやレストランなどの空席を一覧化して、テレワークプレイスとして利活用できるサービス「Suup」のβ版が三井物産グループで新規事業を手がけるMoon Creative Labからリリースされています。現時点では新宿や渋谷など都心の店舗が中心ですが、今後郊外など住宅エリアにも拡大していく予定だそうです。

こちらのnote👆でも書きましたが、今後は「オフィスの集約と分散」の流れがますます加速し、集中できるワークプレイスの争奪戦がはじまり、従業員の住まいに近い郊外型のサテライトオフィスのニーズが急速に高まっていくと予想します。

ニーズが高まり、価格が高騰する前に、早めにサテライトオフィスや、テレワークプレイス提供サービスの契約を進めたほうが、結果的にコストを押さえられる可能性が高いので、「善は急げ」ですね。

激動の2020年でしたが、2021年の「ワークプレイス事情」がどうなってゆくのか、個人的にはとっても楽しみにしています。

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