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ニュータウンからスロータウンへ〜人口減少の余白から生まれる創造性

はじめて泉北ニュータウンを訪れました。泉北ラボの宝楽さんを訪ねるためです。泉北ラボは、少子高齢化の進む泉北ニュータウンで、奇跡のような共有空間とコミュニティを作ることに成功しています。一つひとつの取り組みに、驚くことばかりでした。


泉北ニュータウンの奇跡

泉北ラボの象徴となるおしゃれなカフェでは、高齢の住民がネイルを塗ってもらっていました。そのカフェには共用冷蔵庫があり、余剰の食べ物を寄付する人と、それをもらうことで救われる人がゆるやかにつながっていました。この創造的な活動の場は、泉北ラボのある茶山台の団地全体に広がり、「DIYのいえ」では、ボランティアの支援を受けながら、誰もが無料でDIYをできる居場所ができていました。そのほか、「まちの図書館」、「まちの保健室」など、住民の好きと得意を活かした居場所づくりが、団地の空き部屋を使って、次々と生まれていました。

少子高齢化の進む日本の中で、ニュータウンは論理的にはどんどん課題が大きくなっています。しかし、それを逆手にとって「過疎という課題を余白という資源に変える」ことが可能だということを示してくれたのです。

調べてみると、泉北ニュータウンには泉北ラボが動き出すより、もっと前からコミュニティづくりの伝統があったことが分かりました。次の記事では、会員が自宅の居間などを開放して講座を開く「グループ・スコーレ」を紹介しています。「料理、マージャン、ダンス、パソコンなど得意な会員がリーダーになり、自宅を開放して開く講座は63に上る。講座は無料で、お茶タイムの費用が500円。カルタ会、ハイキングなどの催しも多彩だ」と報じています。

贈与経済を支えるインパクト投資

泉北ラボは、「良いことをしましょう」とボランティアを集めているわけではありませんでした。場所をつくり、そこに来た人と会話し、その人の興味に応じて関わってもらいます。一人ひとりに寄り添うので、その人の「違い」が新たなアイデアになります。たとえば「DIYの家」は、みんなで空き部屋のリフォームをやっていた時に、通りかかったDIY好きの方が「そんなんじゃだめだめ」と手伝ってくれたことがきっかけだったという。

しかし、このようなボランティア経済は、お金が生まれないため、ジリ貧になりやすいのですが、泉北ラボの宝楽さんが得意なことが、その価値を数値化して、補助金やインパクト投資を呼び込むことです。それによって、ボランティア経済を下支えするインフラに投資ができているのです。

次の記事は、インパクト投資の専門家の女性2名が独立し、「暮らしや街づくりなど人々のウェルビーイング(心身の健康や幸福)の向上に貢献するスタートアップに投資する」ためのファンドを立ち上げたという記事になります。

宝楽さんのような社会起業家と、インパクト投資家の双方が増えると、日本の未来は明るいと感じられます。

ニュータウンは「スロータウン」へ

ニュータウンの課題は、一斉に入居した人たちが一斉に高齢化することでした。会社を卒業したシニアたちの「出番」をつくることは、その課題を資源に転換するアイデアです。

次の記事は、「パブリックライフ」という本の短評になります。著者は、アパート経営から出発し、街にさまざまな形で居心地のよい公共空間を増やしていく街づくりを実践してきたといいます。「小さなイベントを重ねて住人同士を結び、アパートが小さな共同体に育つ。コミュニティーづくりの王道だ。これを飲食店や公園などに広げ、地域全体の価値を高める。居心地のよさを追求する多種多様な仕掛けは、こんな大家のいる街に住みたいと思わせる」と記しています。

自分の便利や損得で生きていると、短期的に損することは避けられるかもしれないが、人生の満足度が本当に高くなるのか怪しいものです。自分の幸せの中に、近所の人や子どもたちが入ってくれば、毎日が嬉しいことばかりでしょう。

アドラー心理学でも、そのままの自己を受容し、他者を信頼し、他者に貢献すること、この三つが揃うことで「共同体感覚」を得ることができる、つまり幸せになると言われています。

つまり、ファストに自分の幸せだけを追求するのではなく、スローに他者の幸せを自分の幸せに含めること、つまりパブリックに関わることが、幸せへの最短ルートということになるでしょう。

そう考えると、「社会課題があることも、幸せになるための出番」に見えてきます。

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