終身雇用の崩壊で変わる住み方のカタチ。
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
※ 日経COMEMOの投稿募集企画「#それでも家を買いますか」のテーマへの寄稿です。
持ち家か賃貸か。長らく意見が分かれるテーマかと思います。お題としては、以下のオンラインイベントと連動したものだそうで、家に帰らない日は家賃が下がるという新しい住み方を提案する「unito SHIBUYA」の近藤佑太朗CEOが登壇されます。
テレワークの普及により定住しない「アドレスホッパー」のような形や、週末住宅などの多拠点生活を選択する方も今後増えていくのではないでしょうか。
いまコロナ禍の打撃を受けて低稼働が続いている宿泊施設でも、月額固定プランを提供するところが出てきました。通常に戻ったとしても、季節により需給ギャップが大きい地域(北海道や沖縄など)ではこのような施策が継続するかもしれません。
これがどれくらい普及していくかは未知数ではあります。受け入れのキャパシティーを見てみると、日本全国の宿泊施設数は、2020年1月現在、51,987施設、部屋数にして1,625,219室と言われています(メトロエンジン リサーチプランより)。全てが利用されたとしてもマックス160万人、実際に利用を考えると多くて10万人くらいではないかと考えられます。それでも新しい選択肢が増えることはいいことですね。
今後は国内の住宅数を見てみましょう。総務省が5年ごとに行っている統計調査の最新版である「2018年 住宅・土地統計調査」から分析します。
これによれば、全国の総住宅数は約6,240万7,000戸、総世帯数は5,400万1,000世帯で、2013年の調査と比べると総住宅数は約177万9,000戸(2.9%)増加し、総世帯数は154万9,000世帯(3.0%)増加しました。
居住世帯のない住宅のうち、建築中の住宅や一時現在者のみの住宅を除いた空き家は848万9,000戸となり、総住宅数に占める空き家の割合13.6%と過去最高となりました。
今後の日本は急速な人口減に向かうことから、空き家率は過去最高を更新し続けるでしょう。賃料は需給で決まりますので、人が住みたいところとそうでないところで家賃に相当な差がついてくると予想されます。逆にうまく生活スタイルに合う空き家を見つけられれば、かなり安く購入することも不可能ではないでしょう。
現在のいわゆる持ち家比率でいうと、約61.2%。借家は35.6%となっています。この数字を見て「おっ」と思ったのですが、この数字は奇しくも正社員比率と近しいものになっています。総務省の「労働力調査」(2020年11月)によると、正規雇用は62.5%。非正規雇用が37.5%です。
住宅の購入にはローンを利用する方が大半だと思います。日本の住宅ローンは35年などの長期ローンがほとんどであり、住宅を担保に入れるもののその審査については借り手の属性に大きく依存していると言われています。これは、日本型雇用により終身雇用が保証されていることと無関係ではありません。定期収入が保証されているというのは、なによりローンが組みやすいです。脱サラした途端にローンが通らなくなったという話をよく聞きます。
今後雇用の流動性と多様性が増していく中では、フリーランスや個人事業主の比率もあがっていくと予想されます。また、1社に定年まで勤めることもなくなっていくでしょう。そうなると住宅ローン自体も変化していくことが想像できます。雇用流動性の高いアメリカの場合、州により差がありますが物件自体の担保価値を重視したノンリコースローン(乱暴に言えば物件を渡すことでローンを精算できる契約)が大半です。日本でもそのような形式が増えていくのではないでしょうか。
そうなると長期的に価値を保つような物件、つまり需要が安定している都市部であるとか物件自体が収益を生む賃貸併用住宅などがローンをひきやすくなるでしょう。いままではローンの期間=耐用年数と捉え、ローンが終わった物件は取り壊し新築住宅にして売るということを繰り返してきました。現在の木造住宅の法定耐用年数は22年ですが、日本の住宅は耐震基準も厳しく22年を超えても十分に機能する高品質なものです。個人的には近いうちに耐用年数が伸びる方向に法改正されると予想しています。
現在の持ち家は39.7%が新築です(建て替えを含む)。今後は上記の理由により、中古住宅の流通が増加していくでしょう。持ち家=新築ではない選択をする方も増えていくのではないでしょうか。
住居はライフスタイルのど真ん中にくるものです。今後の働き方の多様化は、ライフスタイルと共に住み方にも大きく影響を与えることでしょう。
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タイトル画像提供:タカス / PIXTA(ピクスタ)