20代で課長になるには〜スローリーダーシップは出世が早い
女性の管理職登用の推進に続いて、いまは若者の管理職登用が花盛りだ。だがよく読んでみると、「20代でも課長になれる制度にした」という表現ばかり。つまり、「今までは20代では管理職になれないようになっていた」ということが事実であり、「その障害を撤廃した」にすぎない。「20代が管理職に次々と抜擢されるようになった」というニュースでは、まだない。
20代でも課長になれる人事制度改革
次の記事は富士通の人事制度について記している。「若手を登用するとその後に長年管理職を務め続ける必要があることなどが、登用の妨げになっていた。若手でも管理職に就ける制度を導入する企業はあるが、富士通のように期間限定で管理職級に登用する制度は珍しい。」とある。管理職は出世のハイライトであり、たんなる役割ではないという終身雇用文化が壁になっていることがよくわかる。期間限定の管理職登用という裏技である。
次の記事は、「塩野義は週休3日制度や副業解禁など働き方改革を進めてきた。転職志向の高まりなど働き手の意識が変わる中、透明性の高い評価制度や市場競争力がある報酬制度を導入することで優秀な人材の定着や中途人材の獲得につなげる。」とある。つまり、20代課長を生み出せる制度への改革は、人材獲得・定着のために不可欠だということがわかる。
次の記事には、テルモが「18年に導入した研修制度SOULは新入社員の希望者から数人を選抜。5年間、部門横断的な新製品開発など、人材マネジメントも必要なタスクを委ね、外部の大学院で会計やマーケティングの知識も学ばせる。」といった選抜研修によって20代課長を生み出そうと後押ししていることが紹介されている。
また、「損保ジャパンは能力に応じた登用の推進に併せて社員の再教育にも力を入れる。10月からは社内外の講師による年間40種類のライブ配信の授業と、グローバル戦略や地域創生などの取り組みを現場で担当するSOMPOグループの社員が講師となる20人前後のゼミを8つ開講する。」など、あらゆる世代が一歩も二歩も先の社員教育を受けられるよう、教育の柔軟性を高める会社も増えているようだ。
せっかくなので20代課長をめざそう
さて、このように20代でも課長になれるよう、人事制度が変更されているなかで、当事者である20代の社員は、何をすればいいのだろうか。私もビジネススクールで教員をしているわけだから、ぜひビジネススクールにきて、マネジメント知識を充実させてほしいと思う。
しかし、ただ勉強して備えるだけでは、20代課長になって活躍することに、ダイレクトには結びつかないだろう。そもそも、課長になるということは、上司(たぶん課長)に評価されるだけでは、全く不足だからだ。上司を乗り越えて、自分のラインの部長、役員、さらには他部門の部長や役員から評価されていないと、20代課長というキラーパスを受け取ることはできないからだ。
であれば、コツコツいまの仕事をがんばって課長に評価されるのではなく、どうやって、幅広く役職者の支持を得られるようになれるだろうか。
スローリーダーシップほど出世が早い
結論は、20代で課長になりたいなら、スローリーダーシップを身につけるべきである、ということだ。
スローリーダーシップは、一般的なリーダーシップ(あえて「ファストリーダーシップ」と呼ぶ)と比較することで理解しやすくなる。ファストリーダーシップは、ゴールを示し、人を巻き込み、影響を与え、効率的に結果を出すことで評価される。いわば、決まったゲームで勝つことをめざしたリーダーシップの発揮の仕方だ。
一方、スローリーダーシップは、答えのないとき、新しいゲームのルールを作らないといけないようなときに発揮すべきリーダーシップだ。スローリーダーシップは、答えが見えない中で無理に「ゴールを示す」のではなく、「自分の信じていること」を大切にするところから始まる。自分は何をどうしたいのか、心の声を聴く。こうして心の中に旗を立てたら、関係者全員の想いをとにかく聴いて聴いて聴きまくる。なんの評価もせず、しっかりと聴ききるのだ。
自分のことを真に傾聴してもらったときに、人は変わる。この根本原理が、組織を超えて「ともに変わる」ことを可能にするのだ。「変える」ではなく、「変わる」という状況がくるまで粘り強く対話することが大事だ。
ファストリーダーシップが権限やインセンティブで他部署を動かすのに対して、スローリーダーシップは、共感により他部署の主体的関与を促すアプローチだ。そのため、スローリーダーシップの発揮に役職はいらない。そして、他部署のキーパーソンの話を聴ききることを続けるため、深い知識も部門を超えた信頼関係も醸成することができる。
その結果、スローリーダーシップを発揮すれば、他部門の役職者からも理解され、幅広い評価がなされることになる。逆にファストリーダーシップでがんばると、短期的な成果が出て直属上司からは評価されるが、他部門から評価されることにはならない。管理職への抜擢は、当然他部門役職者の賛同がなければ難しいし、なにより抜擢後に他部門役職者との信頼関係がなければ、その先の成功を勝ち得ることもできない。
急がば回れなのかもしれないが、早く出世したければ、目の前のタスクに注目してファストリーダーシップに走るのではなく、自分自身の軸をもって、社内様々な部門の役職者の話を聴ききることで、幅広い強力な信頼関係を作ることに意識を集中する必要があるだろう。
スローは早い、ということだ。