「いい仕事は会社を救うね」という言葉をくれた尊敬する上司からの学び
日経COMEMOの投稿企画で、 #褒められてうれしかったこと というのがあり、そんなことあったかな?と、このところ人生を振り返ってました。
20代の頃は、自分の甘さから厳しいフィードバックをされることが多かったし、30代になってマネジメントをするようになってからは、顧客や社員・メンバーからも厳しい指摘をもらうことが多かったです。
なので褒められることは少なかったのですが、その数少ない経験が、自分の人生に大きく影響を与えていたなとも感じています。
そこで今日は、そのときの個人的な経験と、組織カルチャーを形成する上でそこから得られた示唆について書いていきたいと思います。
「もう君とは話したくない」と上司に言われた4年目
僕は、新卒で日本マクドナルドに入社し、マーケティング部門に配属されました。
(その頃の記事👇👇👇)
新卒で入社した頃、「マーケティング部門のエースになる」って決めてました。
エースの定義とかよくわからないし、今思えば不明確で計測不能なダメな目標の典型例ですが(苦笑)、とりあえず誰よりもたくさん働いたように思います。
そんなこんなで3年ほど必死に働くと、同じ部門の中で担当するプロモーションの数は一番多く任されるようになりました。
「僕、エースになったんじゃない?」と、調子に乗り始めるわけです。
そんなときに、いわゆる「戦略商品」と言われる、重要な新商品導入のプロジェクトメンバーにマーケティングの担当者としてアサインされました。
プラットフォームとなる大型商品のため、テスト販売などを経て、慎重に全国展開を意思決定します。
プロジェクトのオーナーは、当時社長だった原田泳幸さんの懐刀と言われた、コンサルティングファーム出身のキレキレの経営戦略本部長が直々に務めるという力の入れようでした。
プロジェクトが始まってすぐに、その本部長から「商品の価格決めたいから、提案くれる?」と言われて。「了解っすー」という感じで、すぐに提案しました。
僕は、マクドナルドの他の商品の原価や販売価格、利益率などをベースに比較し、収益的に「この辺の販売価格だろう」ということを提案しました。
そこで本部長からのコメント。
本部長「君は思考が浅い。君と話してるとこっちまで思考が浅くなるから、もう俺に話しかけないでくれ。」
僕「え?はい??」
本部長「プロジェクトも外すから。」
もう大混乱です。いつも通りの仕事をして、いつも通りに提案しただけなのだが、なぜここまで言われるのか最初は訳がわかりませんでした。
今でもよく覚えてますが、その提案は金曜の17時からで。そのまま19時まで2時間延々とフィードバックをいただましたが、内容は全然頭に入ってきませんでした。
(俺、外されるのか。プロジェクトってこうやって本当に外されるものなのか・・・)
という気持ちでした。
そして、2時間経って、やっと絞り出した言葉。
僕「月曜までにもう一度やり直すんで、チャンスください。」
この言葉を出すので精一杯でした。
「そんなに言うならやってみれば」ということで、月曜の朝までチャンスをもらいました。
「作業」と「仕事」は違う
そこからは本当に必死でしたが、金曜の夜から、土日にかけて、価格の提案に必要なことが何か、改めて見つめ直しました。
よく考えたら、基本的なマーケティングのプロセスを抑えてなかったんですよね。
自社の類似商品の原価・売価・利益の率や額との比較のチャート一枚で提案をしていました。
でもプライシングって、マーケティングで言えば4P、つまりProduct, Price, Place, PromotionのうちのPriceなんです。(ちなみにマクドナルドでは、サービスする人材が大事なので「People」を加えて5Pと言います)
ということは、マーケティングプロセスで言えば、3C分析など、外部環境・内部環境の分析をして機会を特定し、STPと言われる、Segmentation・Targeting・Positioningをして、そしてやっと、4Pの一部としてプライシングを検討するのです。
なので、僕は改めてマーケティング戦略を一から練り直しました。
市場や顧客がどう変化していて、競合は類似する商品をいくらで販売していて、ターゲット像はどういう人で、その人たちはいくらくらいをランチに使うのか。。。
こういった、考えてみれば当たり前とも言えることを改めて整理しました。
そして、50枚くらいのパワーポイントにして、月曜の朝に持っていきました。
本部長からの回答は、
本部長「ふーん、やればまぁできるんだ。一応プロジェクト残すから、もうちょっとこの辺詰めて最終化して。」
という言葉をいただいて。なんとか生き残りました。
このときに気づいたことは、作業と仕事は違うということです。
誰よりもたくさんのプロモーションを回すようになっていましたが、それは作業を回しているだけであって、仕事はしていなかった。仕事とは作業ではなく、自分で思考し、価値を生み出すことだ、と気付かせてもらいました。
「いい仕事は会社を救う」という言葉
価格は、先の再提案を経て、元の提案より低い価格で数店舗でのテスト販売をすることになりました。
顧客の受容性が不透明だったので、最大限に下げた価格でテストして、「価格が要因で売れなかった」ということが起こらないように、受容性をシンプルに把握することをテストの目的としました。
ここで、一定以上の販売が見込めれば、全国展開です。
結果は・・・、全然売れませんでした。
価格をできるだけ下げて、必要な店舗周辺でのプロモーション活動も行って、それでも売れなかった。
僕は、マーケターとして「失敗させてしまった・・・」と思いました。
テストの結果を踏まえ、悔しいながらも「全国展開はするべきでない」という提案をまとめ、本部長に預けました。
本部長は社長の部屋にそれを持っていき、しばらくして帰ってきました。
そこでもらった言葉は今でも忘れません。
本部長「あー、あのプロジェクト、止めることにしたから。」
僕「そうですよね、こういう結果となり、すみません」
本部長「いやー、いい仕事は会社を救うね!止めるという意思決定を経営にさせられたのは、しっかり目的とマーケティング戦略を考え抜いてテストしたから。ストップするという判断をさせるのも大事な仕事。」
このように言ってくれました。
全国展開するとなると、全国の3000を超える店舗での投資が必要になり、「その大きな投資を止めるという意思決定をしたことはいい仕事だ」と、そう言ってくれたのです。
「そうか、仕事とはそういうことなのか」とハッとさせられました。
そしてその後、嬉しさのあまり涙しました(恥ずかしいからトイレで)。
それ以来、その本部長は何かと大事な場面では僕に声をかけてくれて、一緒に仕事させてもらうことも多かったです。
調子に乗っていた僕の鼻っ柱を追ってくれて、「考えるとは何か」「仕事とは何か」ということを見つめ直す貴重な機会となりました。
そんな中、甘えた自分を叩き直し、「考えるとは何かを考える」ためにグロービス・マネジメント・スクールでクリティカルシンキングのクラスを受講するに至りました。(ここでのグロービスとの出会いがまた僕の人生を変えてゆくのですが、それはまたどこかで)
褒めることが作り出す組織カルチャー
このときの一連の経験は、僕にとっては作業だけをこなすジュニアな存在から、一人前の社会人に切り替わっていったタイミングだったのかなぁと、後になって思います。
「いい仕事は会社を救う」と褒められたとき、なぜ涙するほど嬉しかったのか?なぜ強烈な原体験として今でも覚えているのか?と考えると、褒められるという経験は、組織を作る上で大切なことなのだろうと思わされます。
この褒めてもらった経験をもとに「どういう褒め方が良い組織を作るのか」について、3点ほど触れていきたいと思います。
(1)本気でやったことを褒める
何より、本人が本気で取り組んだかどうかが大きいのだと思います。
僕はその前にも、「頑張ったね」「よくやったね」と褒めてもらったことはあったのだと思います。でも強烈に人生変わるような経験をしたのはこの時です。
背筋凍るような思いして、必死で取り組んで、それを乗り越えたからこそ、仕事の仕方が根本から変わりました。
そして、そうした仕事の仕方が一つの基準になって、組織全体が強くなっていく。そのためには、こうした強烈なインパクトを残して組織と変えていくというのは有効なのだろうなと、思います。
(2)日々の仕事ぶりを見て褒める
よく、「フィードバックは具体的に」と言います。
それは正しくて、なんとなく「よくやった」と言われるより、「こことここがこうよかった」と言われた方が納得感があります。
でも、全てを見てくれて分かっている上司が、全て分かった上で「いい仕事は会社を救う」と一言言ってくれたら、それだけでいいのです。
フィードバックの技術として「具体的に」も良いと思いますが、それは本質的には「具体的にここまであなたのことを見ているよ」と伝えるためなんですよね。
なので、日頃から全部見てくれていて、詳細まで議論もしていて、本気でぶつかって一緒に走ってきた上司なら、一言言ってくれれば、それだけで十分なのです。
(3)人前でわかりやすく褒める
実は、「あのプロジェクト止めたから。いい仕事は会社を救うね。」という言葉は、オフィスのフロアで少し離れたところにいる僕に大声で伝えてくれたんです。
当然、フロアにいる全員がその言葉を聞いています。もちろんそれによって、大勢の前で褒められるわけですから、嬉しさは倍増します。
それより何より、ロールモデリングの効果があると考えています。
「こういう行動が推奨される」「この仕事の仕方は奨励される」ということが、その瞬間にフロア全体に伝わります。
このように、褒めたり、逆に叱ったりというのは、「褒められるべき」「咎められるべき」行動や仕事の仕方を広く伝える効果があります。
ただ、昨今のリモートベースになると、こうした機会が減ってしまうことが、組織カルチャーを構築する上では難所となりますね。
その場合は、チャットツールなどオープンに見えているところで伝えることもその一つです。ユニポスさんが提供しているピアボーナスの仕組みも、「全員に見える形で」褒めるというのを大事にされています。
と、いうことで、上手に褒める技術とかは巷で色々と本などもあるので、ぜひそちらをご参考いただければと思います。
ポイントは、本人が本気で仕事に打ち込む環境を作り、その仕事中身をしっかりと把握し、周囲にも伝わる形で褒めることで、組織全体に影響を広げていくことではないでしょうか。
そうしたことを日々重ねながら、組織カルチャーとして積み上げていくことが大事だなと思います。
ここまで書いてみて、改めて前向きでポジティブなフィードバックや会話の多い毎日にしていきたいなと、思う日曜でした!!