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牛肉が食べられなくなる環境社会の到来/代替肉が求められる理由

温暖化ガスの排出量ゼロを目指すカーボンニュートラルの推進は、農業分野にも及んでいる。その中でも食肉を生産する畜産業は、世界全体で排出されるCO2排出量の14%を占めているため、2020年の欧州議会では食肉税をかけることで、肉の消費量を減らすことも検討されている。

牛肉は100グラム当たり0.47ユーロ(62円)、豚肉は36ユーロ(47円)、鶏肉は0.17ユーロ(22円)の課税が必要という議論がされており、それが実行されると、2030年までに牛肉、豚肉、鶏肉の消費量を、それぞれ67%、57%、30%減らせるとの予測が立てられている。

脱炭素社会の食生活は、肉食を少なくして、緩やかな菜食主義へと移行することが推奨されるようになる。植物性の食品を中心として、たまに肉や魚も食べるスタイルは「フレキシタリアン」と呼ばれて、環境と健康に良い食生活のスタイルとして注目されるようになっている。

食品メーカーや飲食企業では、最もCO2排出量が多い牛肉を中心とした食肉を使いにくい風潮が高まっているため、植物をベースにした代替肉の開発が、新たなビジネスチャンスになっている。

牛には4つの胃袋があり、その中で生育する微生物が発するメタンガスがゲップやオナラとして放出されている。その量は1頭につき1日あたり160~320リットルにもなる。メタンガスは二酸化炭素と比べて20倍以上の地球温暖化効果があることから、牛肉を食べることへの社会的な風当たりが厳しくなっているのだ。

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■画像出典:「亜麻仁の恵み」牛への挑戦(ニチレイ)

2009年に米ロサンゼルスで創業した「Beyond Meat(ビヨンドミート)」は、エンドウ豆や米のタンパク質やココナッツ油を主原料とした人工挽肉を開発している会社で、マクドナルドやバーガーキングでも、ビヨンドミートを利用したハンバーガーの試作をスタートさせている。

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ビヨンドミートの特徴は、肉の食感や肉汁までが再現されていることで、ジューシーなハンバーグやハンバーガーとして調理することができる。消費者からは、人工肉であることを知らされなければ、本物の肉と区別することが難しいという好評なレビューと、やはり本物の肉にある風味が感じられないという、両方の意見がある。

米国のスーパーでは既に代替肉が販売されているが、ビヨンドミートの価格はハンバーグ1枚あたりが約2.5ドル(275円)となっている。本物の牛挽肉によるハンバーグは1枚が1ドル未満で買えるため、かなり割高な価格設定だが、現在の主な購入層は、環境と健康のためにプレミア価格を払っても良いと考える、「テスラのEVに乗るような消費者」と言われている。

Beyond Meat(ビヨンドミート)

代替肉の開発は、他の食品メーカーでも行っており、今後の需要が拡大していけば、生産コストは下げることができる。欧米では、豆腐のような大豆食品よりも「やはり肉が食べたい」ということで代替肉のニーズが高い。しかし、代替肉の成分には、風味を重視するための塩分が多く使われているという指摘もあり、これから商品改良をしていく余地が多く残されている。

人類はコロナ禍を経験したこともあり、20世紀のように環境問題を無視した経済活動では、世界が存続できない危機感が強くなっている。地球を守り、資源を枯渇させないためには、企業と個人が、それぞれ環境保全のコストを負担していくことが不可欠となり、それが商品価格の上昇へと繋がっていく。その影響は食品分野にも次第に及んでいくことになるだろう。

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