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会社員先生を採用するための3つの注意点【日経COMEMOテーマ企画_遅刻組】

複業で会社員が教壇に立つ

子供のころから社会に出た後のことを意識して教育を行おうと、会社員が学校の教壇に立つ「複業先生」を推進しようという動きがある。基本的にこの動きには賛成だ。学校の先生では教えることが難しいが、社会的なニーズの高い技能や知識を身に着けるために、実務家が教育に係るというのは効果的だろう。

しかし、社会的なニーズの高い技能や知識を持つ社会人は、概して人手不足な状況にある。通常の仕事をしながら教育にまでリソースを割けるほど余裕のある人は少ない。テーマ募集企画を行っている日経COMEMOの記事でも、人材確保には中々難航していると課題を挙げている。

それでは、複業で会社員が教育に携わってもらうには、どのような工夫をしていくべきだろうか。その解決策を考察していきたい。

実務家を教育者とするときの3つの注意点

大学という教育機関に勤務をしていてつくづく感じるが、教育は向いている人と向いていない人で適正に大きく差がある。そして、その適正は本人には気づきにくい。これは、企業研修で講師を依頼するときにも気を付けるべきところでもある。優れた成果を出す社員だからといって、教え上手かというとそうではない。

実務家に教育者として登壇してもらうとき、注意すべき点は大きく3つある。

第1に、実務家は基本的に自分の経験しか話すことができないということだ。教育者として訓練を受けてきた人と、実務家として活躍してきた人の最も大きな違いとも言える。教育者として訓練を受けていると、教育として教えられる理論や方程式は、数多の検証を繰り返した結果、得られた知見を一般化したものであると教えられる。一般化とは、例外はあるものの多くの場面で適用可能で、反復性があるということだ。

このとき、個人の経験から得られた知見は、一定の真実はあるものの1つの成功事例として扱われる。経験から得られた知見が、どこまで応用できるのか範囲が不明であることと、再現性の有無が確認できないためだ。

このことを理解していないと、自分の経験をあたかも全てに応用可能な正解のように話してしまう。再現性のないことを語られても、受講生は困ってしまう。

第2に、講演以外の教えるスキルを身に着けているかだ。みなさんも学生時代に、教科書を読んでいるだけの先生の授業で、睡魔と戦い続けた経験はないだろうか。どれだけ素晴らしい内容であっても、ただ一方的に話を聞いているだけでは受講生の集中力が続かない。

素晴らしい実務家であっても、喋りが上手なこととは無関係だ。加えて、教えるということは、複雑で難しい内容をかみ砕いて、誰にでもわかるように伝える技術が求められる。

また、人の脳は忘れやすくできており、一方的に話を聞いただけでは直ぐに内容を忘れてしまう。メラビアンの法則と呼ばれるように、講演のような口頭でのインプットが知識として定着する割合は驚くほど低い。

第3に、教え上手な実務家を発掘する必要性だ。実務家に教育や研修の講師として依頼するとき、同じ人ばかりに依頼が集中しがちになる。前職で、人事プロフェッショナルの育成を目的とした異業種勉強会を企画していた時、誰を講師として依頼するのかが毎回の大きな課題だった。人事プロフェッショナルとは何かを教えることができる専門家の絶対数に限りがあり、講師陣の顔ぶれが固定化してしまう。そのため、プログラムを作る担当者にとって、誰が講師として適した人材かを探し、ネットワークを作るハブとしての能力が求められた。つまり、良い講師陣を揃えるためには、プログラムの担当者が豊かな人的ネットワークを構築できるかにかかっている。

担当者が人的ネットワークを構築し、ハブとして機能する。このことは、会社員先生の人手不足だけに言えることではなく、人手不足解消のあらゆる面で有効な解決手段だ。そして、それが認知されているからこそ、(日本を除く)全世界で自分のキャリアを公開・共有するSNSであるリンクトインが使われている。欧米の大企業の人事担当者が「リンクトインを使いこなせない人材は、そもそもいらない」と言い切るほど、リンクトインを前提とした採用活動が浸透している。その背景には、人に何かを依頼する・応募する立場にある担当者にとって、人的ネットワークの構築が重要なスキルであるためだ。

名プレイヤーが名コーチとは限らない

「学校の先生は、社会人としての経験がないからダメだ」という批判は、ステレオタイプのように様々な場面で言われている。それでは、社会人経験の豊富な実務家を、将棋の駒のようにポンと教育現場に入れれば丸く収まるのかというとそうではない。実務家を教育者として活躍してもらうためには、「教育者としてのスキルと適性を有した実務家」という新しいタイプの専門家が必要になる。

リクルートから中学校の校長へと転身して成果を出した藤原和博氏のようなケースは、そう簡単にあるものではない。会社員先生を効果的に使いたいのであれば、藤原和博氏のような人材を明らかにして、適材適所を目指さないと教育現場を荒らしただけで終わってしまうリスクもある。

また、会社員先生を募集するときに、公募に頼るのもお勧めしにくい。中途採用でもいえることだが、現場の第一線で活躍している人は、複業であっても自分で職探しはしない。本人に転職や複業する気がない状態で、誰かに推薦をされたり、口説かれて決めるのだ。これは、ライフネット生命から立命館アジア太平洋大学の学長に転身した出口治明氏がそうだ。出口氏は、学長に推薦されるまで、同校の存在は知らなかったのだ。

そのため、会社員先生を募集する担当者は、立命館アジア太平洋大学の学長に出口治明氏を推薦した人物のように「教育現場にとって最高の人材」とネットワークを構築することに尽力すべきだ。名伯楽は、自分から「私は名伯楽だ」と喧伝したりしない。









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