「家計の円売り」は腰折れたのか?
「家計の円売り」は13か月ぶりの低水準
ドル/円相場の騰勢が話題を集めています。約4か月ぶりに156円台に到達しました:
第二次トランプ政権を当て込んだリフレトレードの一環としか言いようがなく、ラフに言えば実需ではなく投機が主導している円安相場という印象は強いものです。この点は下記noteでも議論した通りです:
ちなみに需給の観点からは10月分の対内・対外証券投資の数字も特筆されるものでした。年初から「家計の円売り」の代理変数として注目されている投資信託等委託会社(以下投信)経由の対外証券投資は+3930億円と昨年9月以来、約13か月ぶりの小さな買い越し額にとどまっています。
商品別に見ると株式・投資ファンド持分が+2717億円、中長期債が+863億円、短期債が+350億円といずれも買い越しを確保しつつ、新NISA稼働後としては極めて小規模な水準にとどまっています。理由は定かではありませんが、振り返ってみると10月はトランプ氏勝利の期待が先行する中、米9月雇用統計などの劇的に弱い結果にもかからず、米金利上昇・ドル高・株高というトリプル高の傾向が強まっていました:
かかる状況下、投信(≒家計)を含めて米国債を手放す(損切りする)動きが先行したという観測は根強いものがあります。中長期債に限って言えば、FRBの利下げ局面入りが話題になった8月と9月で4000億円前後と歴史的に見ても大きな買い越しが続いてきました。その損切りが先行したとの解説は確かに説得力はあり、むしろ売り越しではなく買い越しが維持されたことについて評価すべきかもしれません。
対外証券投資全体では過去最大の売り越し
外国債券の売り越しは10月全体のテーマでもありました:
10月の対外証券投資全体で見ると▲6兆4987億円で、これは過去最大の売り越しでした。図示されるように、やはり中長期債が▲4兆4881億円と過去最大の売り越しとなったことが全体感を規定しました。しかし、8月には+7兆3370億円と過去最大の買い越しだったこととセットで評価すべき話です。上述した「8月に買って10月に損切りした」というストーリーはやはり相応に説得力を感じるところです。
片や、対内証券投資に目をやれば+6兆5934億円の買い越しだったので対外・対内証券投資のネット合計では+13兆921億円(6兆4987億円+6兆5934億円)の資金流入超となります。これも過去最大です。
しかし、為替市場で実際に起きたことは150円台定着に象徴されるドル/円相場の急伸でした。対内・対外証券投資は為替ヘッジ付きフローのボリュームも相応に大きいことからネットの資本流入額と相場動向の間に安定した関係を見出すのは難しいものです。特に、現状では対内証券投資の多くが株式・投資ファンド持分であるため、その部分は為替ヘッジ付きフローを前提として考えることが妥当でしょう(為替リスクをヘッジせずに生株を買いに来るケースは稀でしょう)。
「家計の円売り」は腰折れたのか?
そのような中、投信の動向が注目されてきた背景には新NISA稼働に伴う「家計の円売り」の多くには為替ヘッジ付きが付いておらず、アウトライトの巨大な円売り主体となっている疑いが指摘されるからです。
実際、そのフローが2024年上半期の円安局面に寄与してきた疑いは大きいと私は考えています。9月、10月と失速したとはいえ年初10か月間における投信の買い越し額は+10兆1045億円に達しています。残り2か月間の買い越しペースは読めるものではありませんが、既に昨年実績(+4.5兆円)の倍以上の円売りが投信から出ている事実が円安相場と無関係とは考えにくいのではないでしょうか。
だからこそ「家計の円売り」がこのまま萎んでいってしまうのかは要注目したいところです。11月以降、金利差に応じた投機的な円売りがかさんでおり、NYダウ平均株価なども史上最高値を模索する地合いが続いていることを考えると、恐らく家計部門による外貨建て資産への投資意欲は復調に至ると筆者はまだ考える立場ですが、8月の経験などを脳裏に焼き付けつつ「高い内に売る」といった短期的には賢明にも見える決断が優先される可能性はあります(元々、日本の家計部門がリスク回避性向の高い投資家であることは周知の通りです)。
そうなると、このまま投信経由の売買動向が売り越しに転じるリスクなども視野に入れる必要がはあるかもしれません。仮にそうなった場合、円安の潮流に影響する話(円安の歯止めになる話)であり、インフレ税により個人消費が滞る日本経済全体にとっては朗報でしょう。片や、資産運用立国という観点からは「躓き」と評価する向きも出てくるはずです。つくづく為替、金利、物価、株価と全てが望み通り動くことはできない、、、隘路に嵌まっている日本経済の現状を感じざるを得ません。