東京都の新型コロナ検査陽性者数の減少状況について考えること
東京都の新型コロナ新規検査陽性者数は8月13日の5773人をピークに前週比でほぼ1000人近い減少が続いています。検査陽性率も7月末からわずか数週間程度で30%近くまで増加したにもかかわらず、9月10日までの7日間平均で10.4%に戻っています。入院者数も9月4日に過去最多の4351人を記録した後徐々にではありますが減少に転じている印象です。しかしながら数としては依然として高い水準であり、医療提供体制に余裕があるというわけではありません。これを踏まえた上での私見です。
多くのメディアでは識者に対して「検査陽性者数が減少している理由は何でしょうか?」と連日問いかけており、私も何度か回答はしているのですが、今回の減少理由、特に「前週比1000人レベルで激減」している理由は正直なところ「わかりません」。人流は全く減っていないのに「ワクチンの効果」「天気の影響」なかには「緊急事態宣言の効果」などの理由を挙げている識者もおられますが、それだけで一気に減少するのか何とも腑に落ちません。SNSなどでは「適当なことを言うな」とか「科学的に解析していない」とかクレームが出る一方で、「わからない」と言えば「それでも専門家なのか」と言われてしまい、どう答えても非難されるのでこれ以上言及するつもりはありませんが、科学的な解析はビッグデータをもつ研究班にお任せするとして、今回は私が発信できる外来診療での現状をありのままにお伝えしようと思います。減少に転じ始めた8月中旬以降の診療状況が以下です。
発熱患者さんの検査陽性率が急激に減少した
7月下旬から8月上旬までの3週間程度に限っては、発熱患者さんが毎日数名受診され、検査をすればほとんどの方が陽性、濃厚接触者として検査をした家族は全員陽性、しかも小学生や乳幼児までもほとんど陽性であり、陽性者はすべてデルタ株、ウイルス量を表す指標であるCt値が子どもでも10台とかなりウイルス量が多い陽性者が目立っていた状況が、8月中旬以降は発熱患者さんの受診も突然少なくなり、検査をしても陽性になる方は週に1-2名程度となり、濃厚接触者として検査をしても家族全員陰性(あるいは一人だけ陽性)というような状況となっています。
ワクチンを2回接種していた場合には検査が陰性となることが多いのですが、ワクチンをしていなくても陰性となる方が明らかに増えました。陽性となった方はやはりデルタ株であるのですが、Ct値は20-30台の方が目立っています。特にワクチンを1回でも接種した方はCt値が高い傾向にありますので、ウイルスの増殖は抑えられていることが推測されます。これは1回接種でもワクチンの効果があらわれていることを示唆しますが、ウイルス量が少なければ他の人にうつす可能性も低くなります。
緊急事態宣言発令中ではありますが人流は減っておらず、ワクチン接種が進んでいるとは言え、その効果が急激にあらわれたとも言い難いところです。これまでにない急激な感染者数の増加と感染力が強いデルタ株の脅威から、ひとり一人の危機管理意識の向上に伴い、リスクの高い行動を避けるような変容の影響と、東京五輪やお盆の期間が終わり一連のイベントが終わった時期であったことが基盤にあるとも思えるのですが、それだけが理由とも言えないような感じです。しかしこれまで陽性になった方のほとんどは家族以外の飲食機会や長時間マスクを外しての会話の機会があった方だったのですが、最近の発熱患者さんの問診をするとほとんどの方が「飲食の機会はない」「自宅以外でマスクを外す機会もない」「ほぼテレワーク」といった感じであり、感染リスクのある行動はほとんどしておらず、感染対策の意識が高まっていることを感じます。そしてその多くの方の検査結果は陰性です。
ここで「感染源・感染経路・感受性」という感染症が起こるための3要素を見直してみます。「感染経路」である「人との接触機会は減っていない」「感受性」をさげる「ワクチン接種の効果は限定的」とみた場合、残る「感染源」はどうかということになりますが、実行再生産数も減少傾向であることから「感染源がうつす可能性が低くなったのでは?」と考えたりもしています。
ウイルスは常に変異を繰り返しながら感染力や病原性を変えてきます。短期間に前週比で1000人近い数の減少が続いている理由ですが、感染源の可能性のある人の(他の人にうつさないという)感染対策意識の向上に加え、感染源そのものである「デルタ株の感染力」が落ちたような印象もあるように思えるのです。
以上が東京都の検査陽性者数の減少状況について考えることです。いずれ科学的な分析結果が公表されるとは思いますが、今回の投稿はあくまで「臨床現場でのつぶやき」と思ってください・・・。