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シンギュラリティはあなたの周りに毎日起きている

  
 シンギュラリティという言葉を世の中に広めたレイ・カーツワイル氏は、世の中で最も未来予測を当てている人の代表であろう。その真骨頂は、1999年に書かれた『スピリチュアル・マシーン』の後半の未来年表である。その予測の正確さに驚くばかりである。例えば、20年後の2019年には、世の中の計算パワーのかなりの部分をニューラルネット(今でいうディープラーニング)が担うという、世界で唯一無二の予測を行い、ずばりと当てている。
 その未来を読む秘密は、多くの人が過去からリニア(直線上)に未来を予測してしまうのに対し、現実は「指数関数的」に発展するからだ、と指摘している。
 指数関数とは何か。目に見える結果が単調に発展していくのはリニアである。一方、結果が発展することにより、発展のスピードが同時に変わることが指数関数である。例えば、テクノロジーは我々ができることを変える。だから便利なものを生み出す。ところが、これは必然的に、テクノロジーの進歩のスピードも変える。だから、変化が、変化のスピードを変えることになる。高利貸しの複利計算のように雪だるま式に変化が加速していくのである。これがシンギュラリティの根底にある考え方なのである。指数関数とシンギュラリティは表裏一体なのである。
 大事なのは、この「変化が変化のスピードを変える」状況では、我々の素朴な予想を大きく超える結果が生まれることだ。このため我々は、将来の変化を常に過小評価してきた。これに警鐘を鳴らしたのが、ビル・ゲイツ氏の次の発言である。
 
  我々は常に、今後2年で起こる変化を過大評価し、
  今後10年で起こる変化を過小評価してしまう。
  We always overestimate the change that will occur in the next two years
  and underestimate the change that will occur in the next ten.

 ただしここで、ビル・ゲイツ氏は一つ大きな間違いをしていると思う。
 それは、予測を大幅に超える変化を経験するのに、10年も待つ必要はない点である。実は、1週間後の変化でも、我々は変化を大幅に過小評価することは珍しくないのである。
 私の経験からこれを説明したい。ありがたいことだが、講演やプレゼンの機会を沢山いただいている。ただし、講演毎に内容や話し方を変えざるをえない。聞く相手や会合の目的が異なるので、それにあわせて中身や表現を見直す必要があるからである。
 ある時、とても大事なプレゼンが1週間後に予定されていた。ところが、その前に別件のプレゼンが4件も予定されていた。それぞれ目的やテーマは異なるので、同じものを使う訳にいかない。しかも、4件それぞれの準備やその他の仕事で予定が埋まっており、大事なプレゼンの準備には、別件の4件のプレゼンを済ました後からの、限られた時間しか取れそうになかった。正直言って心配ではあった。
 ところが、別件の4件のプレゼンを終わり、いよいよその大事なプレゼンの準備にとりかかってみると、驚くべきことが起きていた。別件の4件に向けて準備したことが、この大事なプレゼンの準備にもなっており、準備の大事なところは既に終わっていたのである。
 実は1件目のプレゼンの時に入れた小さなアイデアの成功によって、2件目には、プレゼン全体にわたりこのコンセプト取り入れ中身を大きく進化させた。ただ、2件目の実際のプレゼンの時には、新しい要素の語り口が正直言ってぎこちなかった。ところが、3件目のプレゼンの時には、そのコンセプトをスライドに書いてある以上に踏み込んで語ることができた。このような進化が次の進化を可能にする状況が続き、4件のプレゼンが終わる頃には、当初の想定とは大きく異なる状況になっていたのである。
 まさに、1週間前の自分が予想するのとは全く違う自分になっており、全く違う準備状況になっていたのである。1週間前の自分は、1週間後の自分の変化を全く過小評価していたのである。
 これを最初に想定することは、原理的に不可能である。1歩目を進んで初めて見えることが2歩目になり、2歩目により3歩目が可能になるという状況を、1歩目を踏み出していなかった自分が描けるわけはない。
 たまたま、建築を学んでいる娘の就職活動でも同じことが起きていた。複数の会社の応募に向けて、エントリーシートやポートフォリオという作品集をこの2ヶ月準備してきた。実は会社毎にテーマや形式が異なるのだが、1社目に向けた準備で獲得した進化が、2社目の会社への更なる拡大した進化を可能にし、さらに3社目にさらなる進化が起きた。私に起きたことと同じである。即ち、ここで論じた現象は珍しいことではないのだ。
 
 まとめると、シンギュラリティあるいはエクスポネンシャルな進化は、我々の身近な日常にあり、変化は常に我々の素朴な予想を超える。我々は1週間後の変化ですら過小評価することとそのメカニズムを認識する必要がある。
 現状の組織でのPDCAや投資判断や予算認可の仕組みでは、この将来の過小評価の罠に陥っている。一見、合理的な判断や説明を求めることが、実は現実を無視した判断に導くのである。これを乗り越えるのは、今後の社会や企業の大きなテーマだ。日本はその意味で変われるし、今後変わる。


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