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バイデン勝利後も法廷闘争を続けるトランプは、往生際が悪いのではなく戦略的に新しい行動を開始した、その理由とは

バイデン大統領が決定(2020.11.8記)

これまで、アメリカ大統領選挙について2回に渡って解説を行ってきました。

そして予想通り、バイデンの勝利が確定しました。

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先程、勝利宣言演説が終わりました。(11/8 11:00am)

CNNもコメントしていましたが、勝利が見えてからスピーチと顔つきが変わってきた気がします。コロナ禍のなかの分断された大国を率いる覚悟が感じられるようになりました。

同時に

Lower the temper (落ち着いて)

There are no Enemies but Americans (敵はいない、同じアメリカ人)

Time to heal (癒やしの時)

Work for all Americans who votes for me and who didn't (投票しなかったアメリカ人のためにも働く)

等、選挙で分断された人々の気持ちの中に連帯(Unite)を取り戻すことに相当配慮していました。

(細かい聞き違えがあるかもしれませんがご容赦ください)

7,300万票という歴史的な得票を得たことについても一言演説で触れただけでそれが、むしろ話題になっています。(もしトランプなら100回くらい言うであろうと)

Being normal is new thrilling thing.

(今のアメリカでは)
普通のことが、とてもドキドキすること

バラク・オバマ元大統領も単純に勝利を喜ぶだけでなく、一人一人が冷静に相手の主張に耳を傾ける努力をつづけ、分断してしまった国を建て直さないといけないとコメントしています。

”私たち一人ひとりが、しんどくてもがんばって意見の異なる人たちのことを聴き、冷静になって、何か共有できるところを見つけて、一歩を踏み出さないといけない。”
each of us, to do our part – to reach out beyond our comfort zone, to listen to others, to lower the temperature and find some common ground from which to move forward  ( - Barak Obama)

国際政治学者のイアン・ブレマーも同様の事を言っています。

”いまこそ、バイデン支持者はトランプに投票した周囲の人に向かい、彼らの気持ちを慮って上げるべきです。彼らに「今の気持ちわかるよ、4年前全く同じ気持ちだったから」と言ってあげましょう。そして何か合意できるアメリカの課題をひとつ一緒に探しましょう。”(意訳)

いま2008年の大統領選挙でのジョン・マケイン候補のオバマ大統領への敗北宣言の言葉が、静かに話題になっています。

アメリカの国民は意志を表明しました。はっきりと示したのです。少し前、私はバラク・オバマ氏に電話をして、私たち2人が愛する国の次期大統領に選出されたことを祝福しました。

私は今夜、この国が直面する多くの課題と向き合う私たちを、先頭にたって率いるオバマ氏を助けるため、全力を尽くすことを誓います

オバマ氏を祝福するだけでなく、この国の繁栄のために次の大統領に善意を送り、共に集い、必要な妥協点を探し、異なる意見を持ちながらも譲り合い、協力する努力をしてください

どんな違いがあろうとも、私たちは皆アメリカ人です。そして、私にとっては、この共通点ほど重要なことはありません。お願いですから、そのことを信じてください。

今読み返すと、ジョン・マケインのノーサイドの精神と政治家としての矜持のある言葉にも感銘を受けますが、改めて気になるのが、既に2008年の時点で、アメリカでは既に相当な分断が懸念されていたということです。

バイデンも、オバマも、ブレマーも、マケインも、共通しているのは、この分断を何とか止めないといけないと危機感を持っていることです。

にもかかわらずマケインの言葉の8年後にトランプ大統領が生まれた事を考えると、これらの言葉が「ただのキレイ事」としてしか届かないアメリカ人が相当数、存在しているということです。

良い大学を出る知力と資力があって、性格も良くて、やりがいのある仕事に恵まれて、素敵な家族にも囲まれてる人に(上から?)

「これ以上の分断は止めよう。意見の相違を乗り越えよう。なぜなら僕たちは同じアメリカ人だから。」と言われても、

「お前とオレはぜってえ違うぜ。F●CK YOU!GET OUT OF MY WAY!」

という気持ちなんだと思います。

コロナ対策軽視で20万人も死者を出し、自分に都合の良い嘘を重ね、人種差別、セクハラ発言で女性蔑視を煽り、前政権の施策というだけで国際秩序を壊し続け、山火事が続く中でも環境問題の存在を無視する。。

そういう現職大統領を半数のアメリカ人が支持し、後4年自分の大統領になって欲しいと7100万人が投票した事実を忘れてはいけません。

トランプ大統領は選挙は「盗まれた」「不正だった」と言い続け、根拠のない主張を続けています。

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昨日の投稿の多くも問題のある発言としてTwitter社によって制限がかかっています。

一見、幼稚で往生際が悪く馬鹿っぽくみえます。

でもこれまでもそうだったようにトランプは、

状況を冷静に分析し自分に利益があることを極めて戦略的に思考し前例のないことを実行に移す行動力と発信力がある天才マーケターです

法廷闘争で選挙の不正を主張しつづけ、負けを認めない姿勢は、何とか大統領職に留まりたいためではありません。

既に落選した元大統領としての自分を認めた上で戦略的に次の活動を開始していると見るべきです。

現職大統領として史上過去最高の7100万票も獲得した自分がホワイトハウスを去らねばいけないなんて不正行為なしに考えられない。」

「やはりアメリカには”Deep State”(合法的に選ばれた政府の中に隠れた政府)が存在した」と主張し続けるでしょう。

そしてその言葉は、今の自分の現状に不満を抱いている人たち、そしてその苦境の原因を他責に求めたい人たちに刺さりつづけるでしょう。アメリカの政治そのものに失望している人も耳を傾けるでしょう。

彼ら「忘れられた、傷ついた」アメリカ人の負のエネルギーを糾合し、

影の政府(Deep State)によって人生を台無しにされた多くの傷ついたアメリカ人の象徴でありその代表として存在し続ける

そこにブルーオーシャンマーケットがあると判断して法廷闘争を続けるわけです。

敗北宣言は、バイデン支持者を喜ばせるだけでなく、同時に一緒にDeep Stateと闘い続ける同志を失望させるだけの完全にナンセンスな行為です。

慣習の祝福の電話一本、バイデンにかける訳にはいかないのです。

彼のPeople(=顧客)、のためにも負けを認めるわけにはいかないのです。

ドナルド・トランプにとっての新しい敵は、もはや民主党でもバイデンでもなく、もっと大きな既存の民主主義と国家そのものです。

証拠がなくとも不正を訴え続け、法廷闘争に負け続けながらも、決して降伏しない、影の政府(Deep State)というより大きな敵と闘い続けるオレたちの永遠のヒーロードナルドトランプ、、

新しい「セルフマーケティング」戦略の開始と見るべきです。

ドナルド・トランプが敗北しジョー・バイデンが勝利した瞬間にアメリカの民主主義が取り戻された訳でも分断が終わるわけでもないのです。

むしろ、憎悪に満ちた手負いの虎が野に放たれるわけです。

ドナルド・トランプは、2021年も、忘れられたアメリカ人の新しい熱狂の中に存在し続けていると私は思います。

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その後の展開、就任式はどうなるか(12/16記)

11月8日朝、バイデンの勝利がほぼ確定した瞬間から予測されたように、トランプ大統領は一切負けを認めず、大規模な選挙不正があったと訴訟を続けました。公式には、まだ敗北を認めていません。

但し、米国の司法は機能し、徹底して証拠がないと訴えを退けています。但し、それでも選挙不正があった、不正がなければ自分が大統領だったという主張を変えないのは、それが大統領退任後の政治的な影響力の保持に影響するからです。

バイデン氏の就任式は感染拡大防止のため、パレード等は行わず、小規模でオンラインデジタルを駆使した地味なものとなるでしょう。平和的な政権移行を象徴するバイデンサイドは、当然トランプ大統領の出席を望んでいます。

トランプ大統領はバイデン氏の就任式をこれ見よがしに欠席し、大規模な再出馬の集会を同日開催し、再出馬宣言と支持者の熱狂を誇示するでしょう。

トランプ大統領は「あと4年の続投を目指している」とした上で、「そうならなければ、4年後に会おう」と語った。[ワシントン/ウィルミントン(米デラウェア州) 2日 ロイター]

トランプ大統領は新政権誕生に泥を塗る就任式不参加を匂わせて、退任後の不逮捕特権等、取引(ディール)を新政権に暗に求め、揺さぶりをかけていると思われます。

融和を願う新大統領の就任式同日、前大統領が再出馬宣言を熱狂の中行い、今後の4年間の「分断」を宣言する

これこそが、トランプがなしうる最大のバイデンと自分を落選させたバイデン支持者への復讐です。(いくら滑稽に見えても、数千万人の支持者がいるのです。)

調整型のバイデン新大統領とはいえ、もちろんトランプ大統領との取引には応じません。

結果、トランプは、融和と平和の政権移行の象徴となるバイデンの就任式には参加しない。

というか、できない。それは、本文で書いたとおり、多くの支持者を失望させ、

影の政府(Deep State)によって人生を台無しにされた多くの傷ついたアメリカ人の象徴でありその代表として存在し続ける

というこれから4年間の政治的影響力を台無しにすることになるからです。

就任式前は目が離せません。 

その後の展開、最悪の事態としてのアメリカ議会議事堂襲撃事件 (1/8記)

やはり恐れていた事が、民主主義の殿堂で起きました。現職の大統領が暴動を煽り、1人から最大4人が議事堂内で死亡しました。

トランプ大統領も、恣意行動に留まらず暴徒化した事から慌ててクールダウンを呼びかけてるようですが、これが火をつけた本人にもコントロールが効かない状況になったという事です。

これまでは集会で拍手したり奇声をあげたり警官と押し合いへし合いのおなじみの映像しかイメージがなかったですが、今回の一人ひとりの映像でイメージがわきます。彼らは最早政治信条を持ったトランプ支持者ですらないかもしれません。社会からあぶれたMOB(暴徒)です。但し現職大統領の指示に従ってるのです。

1/20の就任式にも、今回のケースで自分達の行動が報道され注目される喜びを知ったトランプ主義者(MOB)がより過激な大規模な行動を取る可能性があります。

唯一の光は、暴動妨害の6時間後、再開された議会での議長ペンスの怒りの表明と、選挙の不正のトランプ支持のを訴える予定だった共和党の女性議員が考えを改めたコメントしたことです。
修正25条による罷免要求、弾劾の可能性がでてきたトランプ大統領は、慌てて軌道修正して動画コメントを発表しましたが、遅いでしょう。
民主主義の聖地で起きた現職の大統領が煽って死者まで発生した暴動が議会人に与えた衝撃は大きく、共和党が党派を超えて民主主義を守る議会人として、1/20就任式に向けた政治の正常化に向かってほしいと思います。

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