戦略的リサイクリングの時代
コンサルティング会社のメニューには、「戦略的調達(ストラテジック・ソーシング)」という、地味ながら手堅い一大分野がある。私自身、何度かプロジェクト経験があるが、単価をベンチマークと比べながら長年の業者との付き合いを外からの目で見直し、場合によっては新しい調達先を開拓する仕事だ。
製造業でいうQCD(クオリティー、コスト、デリバリー)を最適バランスにすることが目的だが、どうしてもコストに対する意識が最も強くなる。自然とソーシング・プロジェクトの成果は、コスト減という形で測られた。しかし、地政学的なリスクが高まる昨今、調達の強靭(きょうじん)性-地政学リスクが顕在化したとき、代替サプライヤーを持っておくなど-がQCDに加わる重要な目的関数となるだろう。
調達が企業活動の「動脈」とすると、実は裏側の「静脈」も同等に大切だ。すなわち、製造過程で出る副産物や、使われた後に残る「ゴミ」をどう始末するかという問題だ。多くの企業にとって「作る」執着に比べ「使った後」への興味は薄く、長くこの分野は日陰扱いだった。「戦略的ソーシング」プロジェクトはあっても「戦略的リサイクリング」は聞いたことがない。
しかし、この不均衡は早晩変わるべきだろう。まず、環境問題が深刻化し、資材のリサイクル比率に関心が高まった結果、リサイクルされた資材の取り合いが起こっている。例えばPET樹脂の単価は、いまやリサイクル品が新品を上回る勢いだ。まずコスト面から、企業はどのようにリサイクルするかを考える必要がある。
さらに、ソーシングと同様、リサイクリングに地政学的な考慮も必要だ。将来的にグローバルな供給網が途絶えるかもしれないとき、リサイクル資材を野放図に海外に輸出してしまってはもったいない。リサイクル資材は、ゴミではなく資産とみなす発想が求められる。
廃棄された携帯電話や家電を「都市鉱山」と呼ぶように、リサイクルされるPETボトルは「地上油田」。国土に自然資源の少ない日本にとって、貴重な存在だ。例えば、今後、電気自動車が普及すれば、当然そのリサイクルも考えなければならない。電気自動車を作るばかりではなく、希少なレアメタルを取り出し、循環させるインフラを合わせて準備する必要がある。
お金さえ出せば、グローバルにものが手に入るという楽観的な時代は終わった。Just-in-timeからJust-in-caseへ―常に維持するべき資源とその量を特定し、国家レベルで備蓄しなければならない。
循環経済は環境のためのみならず、日本自体のサステナビリティのために必要なのだ。ここで「循環」の範囲が大切だ。自由に地球上どこでも循環すれば良いわけではない。国内資産は国内で循環させる―そのための戦略的リサイクリングを、官民が連携して取り組む必要がある。
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