「ブランドツイッター問題」について
英語圏SNS(特にアメリカ)において、「ブランドツイッター問題」が話題になっている。
「ブランドツイッター」の変遷のまとめは、このVultureの記事が年代ごとにまで分けていて見事だ。
「では、次に何が起こるかは誰にもわからない。インターネットは今やアテンション・エコノミーだ。広告は誤った情報を与え、文化に溶け込むようにデザインされている。誰もが無関係ではいられない。だからこそ、気を引き締めて、次のことを覚えておいてください。ブランドTwitterの円弧は不条理で、売上に向かって曲がっていく。」
SNSの発達とインターネット文化の変化に伴い、ミームやスラング、人気のセレブや話題のニュース、そしてSNSアカウントの「ノリ」も変化してきた。今やブランド(または企業)がまるで「面白い個人」のような投稿をし、「バズる」ことでアカウントのフォロワーやエンゲージメントを増やすことに勤しんでいる。著名なアカウントだとBagel BitesやArby'sなど、「大衆向け」の飲食店チェーンや食品ブランドが特に個性の強いキャラクターのアカウントを推進しがちだ。さらに、ブランドアカウント同士でコメントをしあったり、意図的に「会話」を仕掛けに行き、まるでセレブやインフルエンサー同士がやりとりしているのをファンが喜んで眺めるような構図を作ろうとしている。
"Brands are not your friends"というタイトルの記事が幾つも公開されていることからわかるように、資本主義社会において「接しやすさ」をマーケティングやSNSの力量で構築しようとすることは、一種の「暴力」だとも批判されている。
これは今に始まったことではなく、2019年のこの記事でもブランドアカウントの「異様さ」について言及している。
「ツイッターは基本的に、お互いに積み重なる内輪ネタの集合体として機能している。あまりにも多くの皮肉、悪口、メタ意識に支えられたメディアで、何が誠実なのかを理解するのは困難だ。この種のブランドが差別化を図るためには、「目立つと同時に、不快感を与えないようにしなければならない」と、ハーバード・ビジネス・スクールの経営学准教授ユージン・ソルテスが教えてくれた。現在、ブランドが注目を集めるためのより伝統的な方法は、もちろん、社会的な問題に対してスタンスをとることだ。(ナイキの広告にコリン・キャパニックを起用したり、巨大なカミソリ会社が有害な男らしさについて考えたりするのは、そのため。) しかし、Twitterは、製品についての対話を誘発するために計算された目的を持つ、数百万ドル規模の広告キャンペーンとは全く異なる。考えようによっては、Twitterはより迅速な思考を要求するし、逆に思考を減らすこともできる。シカゴ大学ブース・ビジネススクールで行動科学を教えるジョン・ポール・ローラート助教授は、「自然発生的で即興的なマーケティング」だと主張していますが、実際のところはどうなのだろうか。今、私たちは、ブランドのSNSアカウントの背後には人間がいることを理解している。ブランドがTwitter上でますます人間味を増していくことの問題点のひとつは、それが個人の声なのかブランドの声なのか、時として不明瞭になる可能性があることだ。」
また、ブランドアカウントが倫理的におかしい発言や根本的に「行き過ぎたジョーク」に対して送られる、巧みなカウンターコメントをまとめたTwitterアカウント @BrandsOwned なんてものも存在する。具体的にどのようなことが批判されたり、呆れられているのかはこのアカウントを見るとわかりやすい。
最近大きな話題になったのが、ブランドアカウントがNetflixドラマの「イカゲーム」ブームに乗っかり、さまざまなミームやジョークを投稿したこと。作品自体が資本主義への批判をグロテスクに描いているにも関わらず、「バズ」のためにユーモアとしてそのテーマを消費してしまう無知さ、そして誠実さに欠ける姿勢が大きく問題視された。
「しかし、Squid Gameには、大人サイズの子供のゲームや、それに賭けに来る億万長者のほとんど一面的な描写など、すでに風刺の要素がある。上記の動画を見て、無神経だと決めつけるのは簡単すぎるだろう。Squid Gameのミームサイクルは、その嬉々とした派手さゆえに、風刺的なものをさらに風刺的にしているのだ。最も軽率なのは、TikTokでイカゲームの世界に入り込んで笑いをとっている若者たちではなく、ミーム作りの常連であるブランドだ。まるで、企業が流行に敏感であるかのように振る舞うことに必死になっているがために、Squid Gameの中心にあるメッセージを実際に把握することができなかったかのようだ。」
昨日発表されたFacebook社の「Meta」への名義変更なども、「話題」になっているが故にブランドたちにネタにされた。さらに「Meta」のアカウントがそれと内輪のように「絡みに行く」ことで笑いを誘うことを目的にしているようだが、実際にはひどくディストピアンな気持ちになってしまう。
特段、Facebookが性的人身売買や差別、人間関係への悪影響などについて内部告発や外部からの批判を受けつつも対応をとっていないことについて、現在厳しく言及されている真っ只中だ。Wallstreet Journalの"Facebook Files"が特にわかりやすくまとまっている。ライターのWarzel氏は(皮肉として)
「この会社は、メタバースの中にある性犯罪のページやグループを阻止するためにリソースを投入するのだろうか? Wendy'sのアカウントにツイートしてもらえば、より良い答えが得られるかもしれませんね。」
また、ブランドの政治的意見なども強く求められるようになっている。中でも著名なのがBen & Jerry'sのアカウントのスタンスで、Black Lives Matter等のアクティビズム・社会問題や政治についても模範となるような投稿をしていることで取り上げられがちだ。
「Ben & Jerry'sは、暴動の原動力と広く考えられているトランプ大統領の弾劾を呼びかけるという、これまでで最も大胆な姿勢をとっている。社会正義の問題について発言し、疎外されたグループを擁護することで知られるBen & Jerry'sは、ソーシャルメディアで共有されているTwitterの8つのスレッドでその姿勢を示した。かつては、ブランドが政治について沈黙を守る時代もあったが、消費者が社会問題、さらには政治問題に対するスタンスをブランドに求めていることから、ブランドがどちらかの立場に立つことが多くなっている。声明を出しているブランドの大半は、暴動を糾弾し、平和的な政権交代を期待していると述べている。」
日本においても、ブランド・企業アカウントの運営方法やSNSの方針については議論され続けている話題だが、このように倫理や社会問題、そしてブランドの社会的責任や資本主義的な観点からの責任について考える必要性も強まっている。
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