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日独GDP逆転について~IMF予測を受けて~

遂に日独GDP逆転予測へ

2023年初頭から、「2023年は日独GDPが逆転する年になる可能性がある」という話題が注目を集めていました:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA16D2R0W3A210C2000000/


これは昨年10月のIMF世界経済見通し(WEO)以降、「大幅に進んだ円安によって日本のドル建てGDPが顕著に縮小する」という構図に注目が集まるようになった経緯があります。その後、今年1月、4月、7月とWEOは更新され、いよいよ10月の改定では2023年以降、ドル建て名目GDPの絶対額に関して、日本がドイツに追い抜かれる見通しが示されました:

日本のドル建て名目GDPは2021年から2022年にかけて一段切り下がっています。言うまでもなく歴史的な円安の結果であり、日独逆転は為替変動を受けた価格効果の帰結とも言えます。過去10年を振り返っても、日独GDPの差が極端に拡大した時期(2012年前後)では円相場が史上最高値を付けていました。ドル建てGDPは多分に為替変動の影響を受けます。

こうした過去の経緯を踏まえ、今回の逆転はあくまで市況の乱高下を受けた一過性のスナップショットと考える向きもあるかもしれません。そういった主張もある程度は理解できます。2012年時点のドル建て名目GDPに関して言えば、日本はドイツよりも8割弱も大きいものでした。それが10年余りで追いつかれ、逆転されるに至ったのです。2012年時点でこの展開を予測できた者はごく少数です。同じこと(再逆転)が今後10年で起きるという主張も一蹴できるものではないはずです。
 
人口半分の国に抜かれるという屈辱
しかし、「一過性のスナップショット」だったとしても十分大きな出来事ではあります。2010年には日本が中国に抜かれて世界第3位の経済大国に転落するということが話題になりましたが、中国に抜かれるのとドイツに抜かれるのでは意味が全く異なりま

経済成長の源泉は①労働力、②資本、③全要素生産性(TFP)です。③が容易に変わらない以上、①と②で成長率格差は規定されやすく、人口で圧倒的に勝る国に抜かれること自体、「来るべき時が来た」という側面もあるわけです。この点、日本の人口は1億2462万人であるの対し、中国は14億1140万人、米国は3億3514万人と日本より経済規模の大きな国は人口規模も遥かに大きい国です(人口は2023年10月のWEOで使用されている前提と同じもの)。これがそのまま①労働力の格差になるのですから、名目GDPの規模で競うこと自体、中国や米国に勝つのはそもそも難しいことです。

しかし、ドイツの人口は8389万人であり、日本の7割弱にとどまります。それほどの人口差を持ちながら経済規模で抜かれてしまうという事実は相応にショッキングではあります。上述の①~③で言えば、近年の日本は①の縮小が低迷の主因と指摘されてきました。それでも人口が多い分、①で優位にあるはずの日本がドイツに抜かれてしまったということはやはり②や③の劣化が著しいという可能性を示唆します。
 
結局、行き着くのは「円安は一時的なのか?」という問い
もちろん、ドル建てで比較している以上、多少の変動は割り引く必要はありますが、「為替要因なのでドイツとのGDP逆転は問題ない」という話にはならないと思います

第一に、両国の差は確実に詰まってきたという経緯がありました。前掲図を見ても分かるように、1990年代後半以降、日本のドル建てGDPがはっきりと拡大したのは2008~2012年の5年間に限られており、これはリーマンショック後の超円高局面と完全に符合します。基本的に為替変動がなければ日本のGDPは横ばいが基本でした。一方、ドイツは着実に右肩上がりで規模を積み上げてきました。これまで積み重なってきた「地力の差」に2022年以降の歴史的な円安相場が加わったことで、たまたま2023年、日本の背中を捉えるに至ったというだけの話でしょう。大きな円安がなかったとしても両国の差は徐々に縮小する傾向にあったことは忘れてはならないと思います。

第二に、円安が一時的という保証はありません。今回の日独GDP逆転を「為替の価格効果(円安)を受けた一時的なもの」という評価は論者によってはあるかもしれませんが、それには「円安は一時的」という前提が必要です。しかし、過去のnoteへの寄稿を通じても執拗に論じている点ではありますが、本当にそうなのでしょうか。

既にパンデミック直前(2019年末)と2023年8月末で比較した場合、名目実効為替相場(NEER)で約▲23%、実質実効為替相場(REER)で約▲30%も下落しています。ちなみに同期間の円は対ドルで▲30%以上下落しています。これほど下落した通貨は世界でも極めて稀です。少なくとも国際的な準備通貨の目安と見なされるIMFの特別引き出し権(SDR)構成通貨(米ドル、ユーロ、人民元、日本円、英ポンド)では他の追随を許しません。

その背景は過去のnoteへの様々な寄稿を参照にして頂きたいと思いますが、著しく切り下がった水準が円の新常態だとした場合、ドイツを下回る名目GDPもまた、日本経済の新常態ということになります。日独GDP逆転に際して議論すべき論点は多いですが、まず行き着くのは「円安は一時的なのか?」という、目下注目されるテーマにならざるを得ないように思います。

もちろん、今やドイツも「戻って来た病人(the sick man returns)」と言われるほど凋落しており、中国やロシアにベットし過ぎたツケを払うという厳しい状況に突入しつつあります。それが日本よりも深刻な状況かどうかはさておき、ドイツの長期停滞説を唱える声は確かに強まっています。

とすれば、「為替次第では再逆転も・・・」と考える余地も理解はできるものです。しかし、少なくとも言えることは、両者の差は為替変動次第でいつでも入れ替わるものになってしまったということでしょう。米中に次ぐ「世界第3位の経済大国」というステータスはもう日本の定位置ではなくなっており、その背景に著しく切り下がった円の水準という論点があることを認識すべきでしょう。それは過去3年間で起きた、かなり大きな変化の1つです。

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