マーケティングで、「バーチャル」という単語は、一つの意味か?
カンヌクリエイティブフェスティバルで注目された「飲めないビール」
あなたは、ビールを飲む理由をきちんと言えますか?
夏とビールは、なぜこんなに相性が良いのでしょう。ビールが冷たいから。ビールの適度な酸味がよいから。いやいや実際には、あまり理由を考えずビールを準備して、飲んでからやっぱりビールだと「思う」のである。
この思考は、とてもマーケティングに重要な視点です。多くの消費者は、消費時に明確な理由がないという視点を、みなさんは考えたことがあるだろうか。。消費活動には、「じっくり考えて消費」する場合と、「ほぼ考えずに消費」する場合がある。
多くの、そして私のようなシニアなビジネス・パーソンが、居酒屋で「まずは、生ビール」と注文するのは、「ほぼ考えない消費」の典型である。それに比べて、最近の若者は、最初の一杯を熟慮する。シャンディー・ガフや、生レモンサワーなど、最初の1杯目が、個人ごとに異なる。結果、「ほぼ考えない消費」をした私は、「はやく乾杯しようよ。ビールの泡が消えるよ」などと、クレームを漏らしがちなのである。「まずは、生ビール族」より、最近の「一杯目入魂オーダー族」の方が、熟慮した消費者で、関与の高い消費者なのである。
ところで、このストリーにもあるように、ビールは人との集まりで消費されることが多い。結果、ビールをお店で頼んだら、日本では「乾杯」、アメリカでは「チアーズ」、ドイツでは「プロースト」と言葉を交わす。
ビールは、バーチャル空間では流行らない?
ところで、ビールは人との集まりで消費されることが多い。結果、ビールをお店で頼んだら、日本では「乾杯」、アメリカでは「チアーズ」、ドイツでは「プロースト」と言葉を交わす。そのことを、深く考えさせられる、広告を紹介したい。
それは、2022年のカンヌ・クリエィティブ・フェスティバルで話題になった、ハイネケンの広告だ。
"Launching the new virtual Heineken® Silver"というこの広告は、メタバース空間に、ハイネケンがビールを登場させたというものだ。今話題の、バーチャル空間のメタバースにビールを登場させたら、メタバースでもビールの体験できるでしょ、というものである。確かに、メタバース空間で、缶ビールを開けて、缶ビールをぶつけて、「乾杯」と挨拶することもできる。しかし、問題は、メタバースに参加している「人間」はビールを飲めないのである。
このバーチャル空間の疑似体験と、実空間の実体験をあえて比較し、ビールは実空間のモノであると印象を植え付けることで、ビールの価値を再確認させるのが、この広告の目的だろう。
最近、一部のマーケターが、バーチャル空間を利用したマーケティングを検討し、実行している。その可能性は高いが、このハイネケンの事例のように、バーチャル空間と親和性の高くないものもあることは、要注意である。
ところで、バーチャルインフルエンサーって?
そんなことを、考えていたら、今度はバーチャルインフルエンサーの記事を目にした。
CGで作られた、バーチャルインフルエンサーを、マーケターが活用したいというのである。この記事では、
ところで、このバーチャルインフルエンサーは、「人」つまり「タレント」の代わりなのであろうか?私の考えは、バーチャルインフルエンサーは、「コマーシャル・タレント」とは大きく異なる点があると考える。
以前のコマーシャル・タレント起用は、お客様像の投影
テレビ・コマーシャルは、今の重宝されており、多くのマーケターが活用している。中には、タレントが登場するテレビ・コマーシャルがある。
以前、具体的には、2000年くらいまでは、テレビ・コマーシャルのタレント起用は、買って欲しい、興味を持って欲しい、お客様像を投影することが多かった。「私が使っているから」、「私が薦めるから」という無言のメッセージングをテレビ・コマーシャルを見ている生活者に伝え、あのタレントが良いと言ったから、商品買ってみようと思ってもらったのである。
今のコマーシャルのタレント起用は、とても複雑である。その理由は大きく2つある。一つは、マーケティングの対象となるお客様像が明確に定まらない。残りの一つは、タレントのイメージが、コマーシャルを見ている生活者ごとに多様である点だ。
売りたい相手が明確で、それに相応しいタレントが明確なら、タレント起用を行いやすい。しかし、今はマス・マーケティングの時代が終焉し、生活者の中に多様性が存在する。結果、売りたい相手が、複数のターゲットになり、タレントも複数起用したい。しかし、実際にはタレントの契約金はそんなに潤沢にないのであり、タレント起用に困窮するのである。
多様な時代だから、バーチャルインフルエンサーなのかも
このような時代、実はバーチャルインフルエンサーの価値は別にもあるのではないだろうか。お客様のタイプ別に、お客様に受け入れ性の高いバーチャルインフルエンサーを生み出し、きめ細かいコミュニケーションを行うのは、アリなのだろう。バーチャルインフルエンサーであれば、タレントよりも起用が簡単にできるのではないだろうか?
つまり、タレント vs. バーチャルインフルエンサーではなく、タレントにできないことを、バーチャルインフルエンサーに力を借りるのである。
そう考えると、バーチャルインフルエンサーを、私が勝手に「バーチャル」という言葉を強調して理解していたが、実は「無限に創造できる」という意味の方が価値が高いのかもしれない。
このように、マーケティング世界では、「バーチャル」空間の議論が盛んだ。しかし、実際には「バーチャル」という「夢の空間」の意味が強いのか、「人工的に創造」できる方の意味が強いのか、整理しないいけないのだろう。
「バーチャル」の言葉の真の意味の理解。この意味理解を間違うと、マーケティングを失敗してしまいそうだ。