日本的組織から、スタートアップカルチャーへのアップデートが始まる2023年
2023年1月4日、岸田首相の年頭会見がありました。
経済の面では、賃上げによる消費増加による経済成長と、研究開発や設備への投資による日本の競争力向上を掲げておられます。
特に投資の面では、昨年策定したスタートアップ育成5ヵ年計画を実行に移すことで、挑戦できる社会を作ることを宣言されています。
このように、スタートアップは国家の成長戦略の柱となり、ここから実行フェーズに入っていきます。
そこで今日は、スタートアップという成長戦略が実行フェーズに入る2023年、あらゆる組織が目指すべきと僕が考える「スタートアップカルチャー」についてご紹介し、どのように次なるカルチャーへと日本の組織がアップデートしていくべきか、検討していきたいと思います。
スタートアップカルチャーの必要性
急成長し世界で活躍するスタートアップを輩出するには、スタートアップ自身が岸田首相の言われるアニマルスピリットで頑張るというだけでは足りません。
スタートアップに関わるあらゆるプレイヤーたちが連携しながら、自律的にスタートアップの成長が促進されていくようなエコシステムの構築が欠かせないのです。
そこで昨年設立され、私も理事を務めているのが一般社団法人スタートアップエコシステム協会です。
理事会でもよく議論していますが、効果的なスタートアップエコシステムを形成するには、関連するあらゆるプレイヤーが「スタートアップカルチャー」でなくてはならないと考えています。
たとえば、スタートアップに出資を検討してるCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)が、「社内の稟議に1ヶ月かかるのでお待ちください」と、大企業のカルチャーのまま接していたらどうなるでしょうか?
待ってる間にスタートアップはキャッシュが尽きてしまうかもしれません。
スタートアップを本気で推進するのであれば、関わるプレイヤーがスタートアップと同じかそれ以上のスピード感を持って、オープンかつフラットにコミュニケーションをしながら連携していく必要があるのです。
日本的組織 vs スタートアップカルチャー
あらゆる組織がスタートアップカルチャーとなる必要があるなら、まずスタートアップカルチャーが何かを定義しなければなりません。
そして、自身の組織とはどこにギャップがあり、どう埋めていくのかということを組織づくりにおいて設計する必要があります。
まず、伝統的な日本の組織(=日本的組織)との対比において、その特性を整理してみました。
日本的組織のカルチャーとは
まず、従来の日本的組織についてみていきます。
従来の日本的組織の前提は「市場が成長している」ことでした。
高度経済成長期の日本は、人口が増え、市場がガンガン成長していて、前年と同じことをしていれば勝手に売上が伸びていったわけです。この中で世界を席巻していったのがJapan as No.1と言われた時代です。
そこから人口の増加が止まった中にあっても、これと同じことをし続けていたのが日本企業です。過去の成功体験に倣い踏襲した結果、日本のGDPはほぼフラットとなりました。これは、言い換えれば、国全体として生み出した価値は伸びなかったということです。これが、失われた30年の正体だと考えています。
日本的組織特有の強み
日本的組織が特に優れていた点は、組織の凝集性をもとにしたカイゼンだったと言えます。
失われた30年、GDPはほぼフラットでしたが、企業の利益は増加しています。これは、イノベーションによる急成長や市場創造はあまり起こせていない一方、カイゼンを積み重ねて効率を向上したこととで利益を増やしてきたと言えます。(残念ながら、その利益は賃金や投資に回らず、内部留保として留まったわけですが)
日本的組織がカイゼンにより利益を積み上げ続けてこれたのは、日本的組織ならではの強みを最大限に生かすことができたからです。
それは、メンバーシップ型雇用をコアとした、新卒採用・配転教育に基づく、年功序列による横並びの組織です。
新卒から定年まで所属し、配置転換により様々な部門を経験しながら、社内に広いネットワークを構築していきます。そうやって、先輩の背中を見ながら「その企業らしい人材」へと育ち、先輩・後輩・同期といった広いネットワークをもとに擦り合わせを行うという、強い凝集性が生まれるのです。
だからこそ、カイゼンを積み重ねることが可能であり、これこそが日本的組織の強みだったと言えます。
私自身、デジタル庁に所属して日本的な行政組織を経験する中で、「XXさんは経産省の後輩だから言っておくよ」「○○さん経由だと話が進めやすそうだ」といった会話をよく耳にします。
そうやって、必要な擦り合わせをネットワークの中で行っているのです。
アップデートが欠かせないワケ
こうした伝統的日本組織は日本の強みだったのは間違いないと思います。過去、海外の学者も多くが成功事例として日本企業を研究していましたから。
しかし、これからの社会では、この強み一辺倒では立ち行かなくなるということをここでお伝えしなければなりません。
ここに人口の推移図がありますが、ここからの人口減少というのは、単に減るというだけでなくて、高度経済成長期の熱狂的なあの勢いと同じくらいの勢いで落ちるということです(と言ってもあの勢いは僕には実体験はないですが。笑)
このように人口が減少し市場が縮小すると、前年と同じことをしていてはマイナスする一方です。これからはフラットではすまなくて、同じことをしたら落ちていくしかないのです。それは、人口が止まったらGDPの成長が止まったこの30年が証明しています。
だからこそ、国策として成長領域を作らないといけない。それがスタートアップです。
ただこれは、スタートアップだけが成長領域を作り出せばいいというわけではありません。既存事業を抱える従来のあらゆる組織が、成長領域を新規に作っていかないと、企業の業績が低下していくということでもあります。
よって、あらゆる組織において急成長する領域を求めないとなりません。
成長とは、変化の差分です。
成長を求めて変化の激しい領域を作り、そこでイノベーションを起こしながら非連続な成長を求めなければならないのです。
スタートアップカルチャーとは
安定的でない非連続な成長を求めるには、変化を自ら起こす姿勢が求められます。そうした変化の激しい環境下でパフォーマンスを上げ続けられる組織文化を「スタートアップカルチャー」と僕は呼んでいます。
そもそもスタートアップは、既存業界の常識をディスラプト(破壊)することによって、業界の平均的な成長率とは全く異なる急成長を目指します。
タクシー業界に対するUberだったり、ホテル業界に対するairbnbなんかはわかりやすいですよね。
ここで、スタートアップカルチャーの定義の一覧表に戻りましょう。
不確実性の高い環境を前提とする
確実性や安定性というのは、過去からの延長により成り立ちます。「過去の経験を踏まえるとこちらが確実だ」「過去に倣えば大きく外すことはない」と言えるからです。リスク(=不確実性)を抑えた従来の日本的な経営スタイルではこうした志向になりがちです。
一方、非連続な急成長を遂げるには、リスクをむしろ好んで取りに行く必要があります。リスクがあるからリターンがあるわけですからね。
つまり、スタートアップは不確実性の高い道をあえて選択することになります。スタートアップの経営が、不透明で何が起こるかわからない環境下で行われることは必然なのです。
では、「不透明で不確かな環境において、長期的な戦略を描き、それを徹底して実行すれば勝てるのか?」というと答えはNOだと思います。
先が不透明だからこそ、想定していた仮説は外れ、前提とする外部・内部環境は日々変わってゆきます。だとすると、綺麗な戦略と緻密な実行よりも、スピーディーに実践し、失敗して学び、また次のアクションを起こしという、経営と実行のスピードが勝負になります。
経営のスピードを高める自律型組織
経営のスピードを上げていくために欠かせないのは、権限委譲です。いつまでも全てを経営者が判断し、承認を待っていてはスピードが下がります。
大胆に権限委譲し、現場が自律的に判断し行動し、成果を上げていく。そういた経営スタイルがスタートアップには欠かせないのです。
そして、現場に任せるには、現場で変化に対応しながら成果をドライブしていける強い組織でなくてはなりません。このように任せても各々が適切な判断と行動を取れる自律型組織の構築こそが、スタートアップを成長に導く源泉になるということです。
自律型組織を志向するからこそ、人材を資本と捉えて積極的に人材に投資し人材からリターンを得るという人的資本経営の考え方が基本となります。
そのためには、ジョブ型雇用をベースに、スキルと成果に応じたメリハリのある市場価値を踏まえた報酬を付与することにより、専門性の高いトップタレントを中途採用で集める必要があります。
そして、その多彩・多様な人材が異なる経験・背景に基づいて議論・検討することによって化学反応を起こしながら、イノベーションにつなげてゆくのです。
更に、こうした変化を外部の人材だけに依存することなく、内部でも育成することにより、外部の知見と組織内に精通した人材の経験、双方が組み合わさり、企業が持つ力を最大化させることができます。だから、特に既存の企業のおいてはリスキリングも欠かせない要素となるのです。
このように、昨今、いわゆる人事界隈でバズワード的に叫ばれている上記太字のようなキーワードは、それぞれ単体としてでなく、これからの日本組織のアップデートに欠かせない要素として全てが繋がっているのです。
そして、それらを組織に取り込み自律型組織へのアップデートを通じて、非連続の成長を遂げていく組織こそが、スタートアップカルチャーを持つ組織だと僕は考えています。
既存組織はどうアップデートしていくか
こうした組織カルチャーは、スタートアップだけでなく、あらゆる組織が求められてくることになります。
市場が縮む以上、成長領域は作らないといけないので不確実性を選択すべき場面はどの企業にも出てきます。また、スタートアップが活性化すればスタートアップと協業することも出てくるでしょう。
「働き方改革」から「組織カルチャー改革」へ
「働き方改革」という言葉が広く言われるようになりましたが、働き方改革関連法案が成立したのが2018年です。ここでは、労働時間の問題や、副業解禁や、育児・介護など、働くことに関する社会問題に対応した法案が整備されました。
法の施行は2019年から2023年にかけて段階的に行われるので、2023年の今年で導入は完了することになります。逆に言えば、次のフェーズが始まるべきタイミングが来たのです。
次に必要なことは、「組織カルチャー改革」だと僕は考えています。人的資本経営、ジョブ型雇用、リスキリング、エンゲージメント、パーパス、、、など、さまざまな言葉が広がっていますが、これらを個別の施策としてではなく、一連の策として設計して導入していかなくてはなりません。
こうした要素を一つ一つ、連動して組織内に取り込みながら、スタートアップカルチャーへのアップデートを推進してゆくのです。
組織カルチャー改革の現在地
一方、言葉は広がったものの、まだまだ進んでいない現状もあります。
ジョブ型雇用とこれほど言われ、経団連が2020年1月にジョブ型を提言しているにもかかわらず、未だ導入済みは10%ほどです。
やはり、年功序列・横並びの報酬を前提とした組織が多い中で、全く異なる思想の人事制度にアップデートすることの難易度は非常に高いのだと思います。
確かに違いは大きいので、一足飛びには届きませんし、無理にある一つ突然全員がジョブ型に適応した人材になるわけでもないのも事実です。
日本的組織は何から始めるか
であれば、まずはデジタル化を推進しデジタル系の専門人材が必要な部門など、いくつかの部門からトライアルするなどして、段階的に進めることをまずは検討してみてはいかがかなと思います。全てを変革すれば良いわけではなく、既存組織はしっかりと安定的に経営するという面も重要ですので。いわゆる両利きの経営です。
人事制度が既存組織と噛み合わないからと、あえて別の子会社を作ってそちらで異なる制度をベースに新しい人材を確保する企業も出てきています。そうやって一部を変えていくうちに、小さな成功体験が生まれ、少しずつ全体の組織改革に広がっていく。
そういう流れも想定して、徐々にアップデートしていくことは、日本的組織でも可能だと思います。
実際、日本的組織の代表とも言える行政組織においても、僕の所属するデジタル庁では民間出身のデジタル人材を200名規模で採用し、ジョブ型雇用を始めています。
メンバーシップ型で働く全ての公務員がいきなりジョブ型に切り替わるということでは当然ありませんが、できるところから始めることで、民間出身でデジタルの専門性の高い人材の確保も少しずつです進んでいます。
こうした事例を、デジタル庁から他の省庁などにも成功例として広げていくことで、インパクトは少しずつ大きくなっていくのではないかなと、個人的には考えていたりもします。
さいごにメッセージ
組織も人も、急には変われません。
そして、組織カルチャーの変革は一人では決してできません。
日本の変革はもう総力戦です!!
だからこそ、最後にお伝えしたいことを書きます。
経営・人事の方々へ
組織カルチャー改革は、一足飛びには実現しません。ジョブ型雇用を導入するだけでも、方針策定に1年、トライアルに1年、管理職から入れて1年、そうやって、全体に広がるまで悠に4-5年かかります。カルチャー全体をアップデートするには様々な手を打つ必要があるため、さらに長期化します。
5年、10年かかることを前提に、1日でも早くスタートしませんか?
(何から手をつけていいか悩ましいという方、Almoha LLCでは、簡易にできる「組織カルチャー診断サービス」の提供も始めたので、唐澤のTwitter、FBのDMへお気軽に!)
働く個人の方々へ
スタートアップで働くことで、スタートアップカルチャーでの働くスタイルを早めに身につけておくことは、これから先、大きなアドバンテージになると思います。
東京都とスタートアップエコシステム協会の共催にて、スタートアップキャリアフェアを行いますので、ぜひご参加ください!(個人の参加は無料)
スタートアップの出展も5万円ですのでそちらもぜひ!!
それでは、2023年は「組織カルチャーのアップデート元年」にしていきましょう!!