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ビリーアイリッシュと政治について

かなり反響をいただけたこのツイートを、改めてnoteでまとめます。追記もここで順次書き足して行こうと思ってます。

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2001年生まれの18歳、アーティストのビリーアイリッシュが民主党大会の3日目にゲストパフォーマーとして選ばれ、スピーチと新曲"my future"をライブで初披露しました。bad guyの大ヒットやグラミー賞5冠受賞で彼女を知る人が多いかもしれないが、音楽の実績以外でもアメリカのユースカルチャーやポップカルチャーを理解するのに重要なアクターであり、度々ツイッターや記事で取り上げています。

では今回、なぜビリーアイリッシュが選挙前にの民主党イベントに呼ばれることが理にかなっているのか?まず、ゲストパフォーマーと彼らの立ち位置を紹介しているVarietyの記事から見ていきましょう。


「(民主党全国大会のパフォーマー)のチョイスは、戦略的であると同時に、独自のメッセージを送っている。Dixieという言葉の南北戦争時代の意味合いを避けるために、最近改名したChicksが含まれているが特に顕著だ。CommonやJohn Legendは民主党の選挙運動に関して積極的に政治発言をしている。Billy Porterはオープンなゲイであり、Prince Royceはラテン系の音楽業界を代表し、平等な社会に向けて多く発言している。

18歳のビリーは政治的な発言は控えめだが、環境問題等の民主派の運動を積極的に支持してきた。アメリカのクラシック曲から新曲に至るまでのパフォーマンスは、これまでの大会に関心を持たなかった新しい視聴者を取り込むことが期待されており、2020年の民主党全国大会はこれまで以上に多くのアメリカ人を巻き込むことになるだろう。現時点では、出演者は半数以上が有色人種である。」


次に、ビリーがこのイベントでライブ初披露した新曲"my future"の歌詞を見てみよう。

"'Cause I, I'm in love
With my future
Can't wait to meet her
And I (I), I'm in love
But not with anybody else
Just wanna get to know myself"

「私は自分の将来に恋をしている

将来の自分に会うのが楽しみで仕方がない

恋をしているけど、他の誰とでもない

ただ自分のことを知りたいだけなんだ」

と、自分の将来の希望を未来へ託している。

新曲をリリースする前のファンへのメールでは、「私たちの周りで何が起こっているのか、自分自身を教育し、常に学ぶ姿勢を持ち、前を向き続ける必要がある。正義のために戦い続けなける必要がある。投票する必要がある。地球を大切にする必要がある。すべての黒人の命のために 戦う必要がある」と書いている。

さらに、リリースの一環として、 2ヶ月間限定でSpotifyのウェブ上で「未来の自分」に手紙を書けるというキャンペーンまで行っている。ポジティブな自己成長と、自分たちの未来に「恋をする」ことを推奨するようなキャンペーンだ。ユーザーは、書いた「手紙」を送信する前に、その手紙を受け取る未来の日付を選択することもできる。

今日のパフォーマンス前のスピーチを見ると、死んだ魚のような表情と目線で、ため息をつくように「今マジで最悪なのはさ、わざわざ私が言わなくたってみんなわかるよな」と、明確に同世代の視聴者に向けて語りかけているような出だしだ。

今までのアメリカの女性スーパースターはセクシーで、フェミニンで、いつも笑顔で、誰にでも好かれるような人が多かった。ビリーはその真逆だし、笑顔を見せることはほとんどない。まさに、Z世代が抱く絶望の鏡写しである。


「Z世代の絶望と孤独」をテーマにしたこの現代ビジネスの記事でも書いているけど、ビリーの曲は常に絶望に根付いた虚無感や孤独がテーマだ。トランプが謳う「グレイトなアメリカ」とは真逆の音楽的世界観で、トランプのことが大嫌いなような若い世代のエッジィで「意識の高い」ファンを集めてきた。さらに言えばその注目はファンに限ったことではなく、幅広い音楽性やジャンルを超越する能力、そして積極的かつリアルに社会問題に対して啓蒙し続けられる活動体制は、音楽業界の未来とさえ見られている。

嫌なことは忘れてパーテイーしよう!というのが今までのポップの主題だったが、ビリーはそのようなことは歌わない。大人に呆れ、自己嫌悪も激しく、「他人とは違う」ことを大事にする。ツアーではリスペクトしているブラックのアーティストを牽引する。本人は白人だけど、多様性と愛を持った人だというイメージが強い。

普段の活動の中で政治色が強いわけじゃないけど、選挙前の超重要イベントでライブして「選挙に行こう」とため息をつきながら、呆れた顔つきで言う。これは「若者の政治利用」ではなく、2020年の民主派のアメリカ、そして未来の世代にとって「全く普通のこと」なのだということを、改めてここで強調したい。


リベラル派の若者がTikTokで選挙に行くことを促し、トランプの選挙イベントでイタズラを仕掛ける。アーティストを応援するかどうかは、その人の政治的発言やモラルで決める。音楽の趣味や読書の趣味も、全て政治を含む「アイデンティティ」を基に形成する。自己ブランディングの一部に政治がある。


政治について議論できるほどの関心があるのはクールだ、と胸を張って言える若者がアメリカでは多い。特にSNS世代においては、環境保護、ヴィーガニズム、人権運動、差別反対運動、現代的なカルチャーを形成している概念全てが政治の延長線上にあるからだ。カルチャーをappreciateできない人は政治を理解する気がないのと同様で、逆も然りである。


ビリーの人物と音楽を支持している時点で、彼女の持つ思想(反ドラッグ、旧来的な”クール”への軽蔑、ヴィーガニズム、差別反対、人権意識、動物保護等)を支持しているのと同一で、モラルに厳しいリベラル派の若者にとって、「応援できるアーティスト」が見つかると全力で応援したいのである。


レイシストやセクシストな発言をするとキャリアが台無しになる「キャンセルカルチャー」の時代において、「人権的に正しい」言動をとることへの責任は重大だ。若いけど発言力があり、常に学びと問題提起を続けているビリーは、音楽的にも人物的にも、新時代における「ロールモデル」に近い。


もちろん、セレブ界や人間全般に対する不信感が強い若者世代は盲目に有名人を支持するわけではなく、あくまでも「イケてる価値観の友達」のような感覚と説得力を持ち合わせているのである。そして、トランプ支持者の保守派がいかにも嫌いそうなあの見た目(女の子らしくない、ゴリゴリの反骨精神)だ。


多様な社会において、「国民的人気アイドル」を作り出すのは非常に困難であり、理想的ではない。反トランプ派にとって大切なのは「元気と希望と笑顔!」という陳腐なものではなく、「差別や排除をせず、若者世代の未来への希望を消さない」こと。違和感なく当てはまる候補はビリーアイリッシュだろう。

今年の選挙に関しては、バイデンを積極的に支持したいというビリー世代の若者は多くなく、「トランプを落とすために投票しよう」という呼びかけに戦略キャンペーンは集中している。だからこそ無駄な逆撫ではなるべく避け、ビリーが「まあ世の中最悪だけどさ、トランプじゃ無理だから選挙行こうや」っていうことが大事なのである。

ビリーアイリッシュは、2001年生まれの18歳、まさに選挙に初めていける年齢。大人が若者に向かって「選挙に行ってください」というよりも、同世代のイケてる友達のような人が「仕方ないけど選挙行こうよ」っていう方がよほど説得力がある。いつまでも子供扱いをして、笑顔のアイドルや子役を使うことで「平和」と「楽しさ」を刷り込み、本質的な問題から目線をそらし続ける日本の政治やメディア、教育に慣れてしまっている人が多いからこそ、ビリーアイリッシュのこのような発言が新鮮に感じるのかもしれない。

アメリカは政治や社会に多く問題を抱えているし、当然日本とアメリカは文化や歴史的に大きな差異があるのは当然のことだ。しかし、環境問題や若者の未来への不安、そして「政治や社会問題に対する向き合い方」に関しては共通するものが多い。ポップカルチャーやニュースをそのまま娯楽や刺激として受け取るのではなく、「学び」として向き合う。それこそが「日本社会の孤立化」や「日本音楽業界の作り手と受け手のリテラシー」への長期的な打開方法であり、まさにこのようなアーティストの活動と言動をどのように解釈するかの根本的な部分が重要である。

「可愛いから!」「曲が売れるから!」という次元の話ではない。政治の延長線上に、社会の鏡写しとしてのカルチャーを軽視するべきではない。


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竹田ダニエル

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Daniel Takeda/米国在住のZ世代/Freelance音楽コンサル/日米カルチャーライター/AWA公式キュレーター/日英通訳・翻訳/執筆ジャンルは「音楽・カルチャーアイデンティティ x 社会」/翻訳・寄稿依頼等はdanieltakedacontact@gmail.com