見出し画像

本が読みたくなる、2021年の装丁トレンド

先日本屋に足を運んだら、新しく入荷された本たちの装丁があまりに素敵で、まるで美術館にいるかのような気分になった。絵画を用いたり、アブストラクトアートを用いたり、色合いもサイズもタイトルのフォントも、実にさまざまで見ているだけで楽しい。

2017年あたりには「ミレニアルピンク」の流行によって、本の装丁が一色淡いピンク色に染まったことが今でも度々話題になるが、今の「装丁トレンド」はどのようなものなのか?今年のベストブックランキングを眺めたり、ベストセラーリストを眺めていると、見えてくるものが多かった。気になって調べたところ、やはり毎年トレンドサイクルがしっかりとあるそうだ。

2021年のトレンド

今年のトレンドは"book blob"(blobとは輪郭が微妙な、球状の小さな塊のこと)であると主張し、「注目の新刊」と呼ばれる本たちが一斉にこのデザインを採用していることを問題視している記事が見つかった。

「きっと見たことのあるようなイメージを説明しましょう。それは、暖色系の明るい色の不定形な塊で埋め尽くされたキャンバスで、互いに交差しながら重なり合った部分で異なる色相を形成している。目を凝らしてみると、いくつかの塊が三つ編みや目、女性の顔の側面などの暗示的な形に収まっているかもしれない。キャンバスの上には、ブロック状の、しかし洗練されたサンセリフ体でタイトルと著者名が書かれており、手書きのスクリプトで書かれたもっと小さな文字には、"a novel"、あるいは "a memoir"、あるいは "a New York Times bestseller "と書かれている。

もちろん、私が言っているのは本の装丁のこと。今年注目の「あの装丁デザイン」は現在の文学的な流行を反映したもので、その抽象的な斑点は、近所の書店の新刊ディスプレーに至るまで、どこにでも存在している。

ブックデザインが非常に周期的な性質をもっていることは、もちろん、速報性のあるニュースではない。他の多くのデザイン分野と同様に、出版物はトレンドからトレンドへと移り変わり、躍進から遍歴を経て完全に使い果たされるという美的サイクルは、他の業界と同様に試行錯誤されている。特に、ロマンス、ホラー、ミステリー、ヤングアダルトなどのジャンル小説のカテゴリーでは、その傾向が顕著だ。これらのカテゴリーの中で、さまざまなサブジャンルの「効果的な」(売れ筋の)表紙デザインは、特定の再現可能な特性を持っていることが多く、実際のデザインプロセスは創造的なものというよりも、むしろアルゴリズムの演習に近いものとなっている。。

さらに、特に有色人種の女性やデビューしたばかりの作家に対して、このような「安全」なルートが取られていることにも違和感を覚える。白人や男性の文学者に与えられることが多い、作家のスタイルや関心事、一般的な倫理観を感じさせるデザイン、他の人のために作られたものではないカバーを、彼らだって与えられるべきだ。」

実際の2021年のトレンドについては、このまとめ記事などが詳しい。

2019年のトレンド

The Spinesというブログを執筆しているMegan氏が行った2019年のトレンド総括も非常に参考になる。

画像3

ミレニアルピンクの次には「イエロー」がトレンドになっている、ということを彼女も解説しているが、まさに昨年執筆した記事にも繋がる話だ。

画像4

「現代のルネッサンス絵画のような雰囲気」の表紙デザインも、とても美しいしユニーク。適度に感情移入できそうでできないような絶妙さも、読者の興味をそそる。

2018年のトレンド

1)大胆なタイポグラフィ

画像1

「2018年は”全大文字タイポグラフィ”の年だ。正確に言うと、大きなブロック状のサンセリフ体で、やや凝縮された(あるいは少なくとも水平方向よりも垂直方向が多い)タイプの処理で、白か黒(ただし暖色系の場合も)で、黒を基調とした華やかな背景かニュートラルな背景のどちらかを使用している。

このスタイルがなぜ今人気なのか、理由は簡単だ。まず、スキニージーンズのように、誰にでも似合うということ。さらに重要なのは、このスタイルが、文学性、重要性、そしてクールさを一度に宣言していること。大きな文字で”これは重要な本です”と伝えている。躍動感のある背景は、”今、最高にホットだ”と語っている。気づいたかもしれないが、以下の本のほとんどは女性によるもので、彼女たちの作品がこのような形で表象されるのはエキサイティングなことだ。ここ数年、女性による本は自動的に「女性小説」(嫌な言葉だが、ここでは関係ある)の扱いを受けることが多かった。

しかし、以下の本はそれを回避しており、少なくとも読者にとっては、物欲を掻き立てる、つまり”指が動く”という共通点がある。これらのデザインは、その本を手に取ってみたい(買ってみたい)と思わせるものであり、それこそが表紙処理の成功の真の尺度なのです。」

2)花柄

画像2

「ここ数年の間に、本屋が花屋になった。それは、手入れのされていない庭に草が生い茂るように、最初はゆっくりと、その後は一気に進んだ。新刊小説の表紙は、突然、花柄で埋め尽くされた。

これらのデザインは、出版社やジャンルを問わず、青々としたカラフルなもので、重要なのは、白いタイポグラフィがたっぷりと使われていること。

花柄は、読者の頭の中にイメージを押し込むことなく簡単に雰囲気を伝えることができるので、ブックカバーのデザイナーにとっては魅惑的なソリューションなのだ。ペンギンブックスのシニアデザイナーであるNayon Choは、Zinzi Clemmonsのデビュー作『What We Lose』の表紙を手がけた。彼女は、植物や花に「素晴らしいメタファー」を見出している。”花は、生命力と健康に満ち溢れていることもあれば、死に向かって垂れ下がっていることもあります。慰めにもなるし、脅威にもなるし、憂鬱にもなるし、人生を肯定するものでもある。信じられないほどの表現力を持つ略語によって、多くの人間ドラマを伝えることができるのです。”」


本と「インフルエンサーマーケティング」

サリー・ルーニーの爆発的人気によって、出版業界に変化が起き始めている。プレスキットには特徴的な装丁モチーフを用いたアパレルやグッズを起用し、「インフルエンサー」になるような人たちに配った。この記事で紹介されているのは、本が「体験」になっていること、そして本にまつわる総合的な「ブランディング」がいかにして読者層を左右するか、SNS時代独特のマーケティングやその弊害などについて。




記事を読んでくださりありがとうございます!いただけたサポートは、記事を書く際に参考しているNew York TimesやLA Times等の十数社のサブスクリプション費用にあてます。