世界最古の英国歩兵連隊から学ぶ「ダイバーシティ&インクルージョン」

英国ロンドンで行われたエリザベス女王の92回目の誕生日を祝う英軍のパレードに、インド系イギリス人のチャランプリート・シン・ラルさんがターバンを巻いて参加した。英国の近衛歩兵連隊では、2012年からターバンを巻いて勤務することが認められているが、国威掲揚のパレードでのターバン姿は初のことだという。

今や、ロンドンは住民の半数以上がイギリス系白人以外という他民族都市であるが、それでも英国人の誇りある近衛歩兵連隊のパレードにターバン姿で参加することは驚くべきことだ。ラルさんが参加している近衛歩兵第2連隊(Cold-stream Guards)は、ピューリタン革命時代の1650年にイングランド共和国の歩兵連隊として発足し、継続して任務に就いている連隊としては世界最古である。このような変化は、伝統ある部隊でありながらも、ダイバーシティ&インクルージョンが着実に進められているのだとわかる。

多くの日本企業が、ダイバーシティ&インクルージョンに苦戦している中、350年以上も続く組織でなぜ上手くいくのだろうか。そこには、「異質性をありのままに受け入れる」という基本的なスタンスの違いに原因の1つがあるように思われる。イギリス陸軍は、シク教徒が髪と髭を切らないためにターバンを巻いて髪を抑えるという教義を尊重し、受け入れたのだ。

ダイバーシティ&インクルージョンとは、学術的に様々な定義があるが、ありていに言ってしまうと「異質性をありのままに受け入れ、建設的な成果を導くこと」だと言える。

日本で最もダイバーシティ&インクルージョンが成功している組織の1つは、間違いなく大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)だろう。総学生数の半数を88か国・地域の留学生が占める大学だが、ここでは留学生とは呼ばず、国際学生と呼ぶようにしている。これは「留学生」と呼ばれると、大学の主要な学生ではなく外部からの「お客さん」のように感じるためだ。細かいことのようだが、APUでは教育や学生生活、友人関係など、さまざまなところで国際学生が「APUの学生」として当事者意識を持てるように工夫がなされている。

そのような環境でいるため、APUの学内にいる間は、国際学生の多くは自分のことを「外人」(「外国人」と比べ、「外人」は「私たちと違う人(Alien)」という差別的なニュアンスを持つ)だと感じることがあまりない。このことは、国際学生の持つ「異質性」を大学やそこで学ぶ学生がありのままの個性として受け入れているためだ。

現状、残念ながら、多くの日本企業は「異質性」をありのままに受け入れることが苦手だ。これは、企業競争力の源泉を「一体感」だと信じ、新入社員のころから「わが社の社員」として染め上げていくように各種人事制度が設計されているためだ。

しかし、ダイバーシティ&インクルージョンは、「わが社の社員」として染め上げることをしていては上手く機能させることが難しい。たとえ留学生を採用し、定着させることができても、価値観が日本人側に依りすぎてしまった(畳化)がために、いざ国際舞台で活躍してもらおうとしたときに現地法人の社員から猛反発を食らうことがある。このことは、男性社会の中で自力でキャリアを切り開いたベテランの女性管理職が、男性的な働き方をすると若い女性社員から批判され、ロールモデルにならないことと似た現象でもある。デモグラフィーだけが外国人や女性というだけであり、価値観ベースでは多様性を活かすどころか殺していることになる。

ダイバーシティ&インクルージョンを成功させるためには、異質性をありのままに受け入れ、且つ自社の競争力を維持する方法を見つけることが、日本企業には求められている。

https://www.cnn.co.jp/world/35120608.html?ref=fb

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?