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ライドシェアを地方で解禁すれば、夜の街は必ず復活する

佐々木俊尚

ライドシェアは、一般の人が自分のマイカーの座席をシェア(共有)するというものです。グローバル企業のUberが最も有名で、米国など海外に出かけると、もはやUberなしには近距離移動は成り立たないぐらいになっています。スマホのアプリから自分の居場所を通知すれば、近所に住んでるおじさんとかが自分のクルマで迎えに来てくれる。料金はアプリで支払うので、トラブルになる心配もほとんどありません。

しかし日本ではライドシェアは解禁されていません。現状では「白タク」あつかいとなり、道路運送法違反になってしまいます。Uberは日本でもサービスを提供していますが、ライドシェアではなくタクシー会社が保有しているハイヤー車両による運用で、アプリでタクシーを呼ぶのと同じものでしかありません。

これは少し古い記事ですが、2019年の政府の規制改革方針は「ライドシェアに反対するタクシー業界の要望をほぼなぞったものになった」とあり、都市部でのライドシェアについては「検討会での議論や実証実験をする考えもない」(国交省自動車局旅客課)ということのようです。

都市部でのライドシェアは現時点では可能性ゼロ

たしかに東京のような大都市圏では、タクシー台数はほぼ飽和状態で、ライドシェア解禁はタクシー業界に大きな打撃を与えるのは間違いありません。

しかしそれはあくまでも大都市での話です。地方では、タクシーなど近距離交通をめぐる状況はまったく異なります。ここから、わたしが家を借りて月に1週間ほどは滞在している福井県の嶺南エリアでの実態を紹介してみましょう。

福井の地方都市で「近距離の足」はどうなっているか

嶺南の中心都市である敦賀市(人口6万3000人)は原子力発電で栄えてきた街で、それにともなって人口の割には繁華街が大きく、長大なアーケード商店街もあります。東日本大震災以降の稼働停止でかなりダメージを喰らっていますが、飲み屋街の規模は現在もそこそこ大きいと言えるでしょう。

近距離交通として駅前にはタクシー乗り場もありますが、大半の人は自動車通勤のため、運転代行が普及しています。本数の少ない路線バスに乗るのは通学の高校生とお年寄りだけです。このあたりの事情は他の地方都市とほぼ同じでしょう。

問題はコロナ禍です。以前は、夜8時か9時ごろまで敦賀の中心部で飲食して運転代行を電話で呼べば、おおむね10分から15分ぐらいで店まで来てもらうことができました。ところがコロナ禍で飲食店がダメージを受けたのとともに運転代行業者も客が激減してしまい、どこの業者さんも台数をかなり減らしているようです。結果として夜8時ぐらいに運転代行を呼ぼうとすると、1時間から1時間半ぐらいは待たされるという事態になっています。

客の側は、なじみの運転代行業者さんにあらかじめ時間を指定して予約しておくという対応策をとっている人もいるようです。いずれにしても、飲食の大事なインフラである運転代行の減少は飲食店へのダメージをさらに長らえさせてしまう結果になっています。

人口9000人の街には運転代行さえない

わたしが家を借りている美浜町になると、コロナ禍以前からそもそも飲食業が成り立ちにくいという問題がありました。美浜町は敦賀市の隣接で、人口は9000人。敦賀からJR小浜線というローカル鉄道が伸び「美浜駅」もありますが、本数は1時間に1本です。わたしの家は美浜町の中心部に近いところにありますが、それでも駅から徒歩25分。そもそも道路を歩いている人をほとんど見たことがありません。

敦賀に食事に行った時には運転代行を使えますが、美浜町中心部にある飲食店に行こうとすると、途方に暮れます。規模の小さな街で運転代行が存在しません。駅前にタクシーはいますが、地元タクシー会社の数台だけです。以前、夜8時ぐらいに試しに電話してみたところ、「18時ぐらいに営業は終わるので、もうタクシーは出せません」と言われてしまいました。

そうなると歩いて帰るという選択しかないのですが、そもそも歩道さえなく人影もない道路ばかりなので、けっこう危険です。おまけに日本海側の北陸地方は天気の急変が多く、さっきまで晴れていたのが急に雨が降り出したということが日常茶飯事です。

「運転できて酒を飲まない人」はすぐに友人ができる

家族にクルマを運転できる人がいて、夜になっても酒を飲まず自宅で待機してくれているのなら、迎えに来てもらうことができます。おそらくこのパターンがいちばん多いのかもしれません。酒を飲まない人はほんとうに重宝されます。以前、東京から若い人を4人ほど連れていったことがあります。地元の友人たちと酒席を一緒にしたときに、東京のひとりが「僕は酒を飲みません」とひと言口に出したところ、福井の地元の人たちからは「おお……」と声が上がりました。「素晴らしい人がいた……!」というニュアンスです。

福井のひとりがおずおずと聴きます。「で、運転免許はあるんですよね」

「あ……すみません免許は持っていないのです」。その瞬間、「ああ……」という声にならない嘆声が福井の全員から漏れました。残念すぎる。

田舎では、「酒は飲まないけど運転できる人」は友達がたくさんできるのです。移住を考えている人でこれに当てはまる人は、すぐに移住を実行に移した方がいいでしょう(笑)。

夜の街の発展を、「近距離の足」のなさが妨げている

話を戻せば、人口1万人ぐらいの街ではこのような実態なので、酒を飲む人は非常に多いのにもかかわらず「夜の街」は発展できません。街中に見るのは、昼のランチの店ばかりです。夜に酒を飲む人は自宅で楽しむか、そうでなければ泊まりがけ前提で友人宅に行くことが多く、飲食店は栄えることができません。

潜在的成長可能性が、クルマ社会であることによって遮断されているという実態があるのです。そして敦賀のような中核都市も、コロナ禍によって同じ状況に陥りつつあります。

この状況を打開し、飲食店が健全に発展するためには、地方でのライドシェアの解禁が絶好の可能性を持っているのではないでしょうか。ライドシェアが解禁されれば、観光客需要も含めた夜の街の大きな発展が見込まれるでしょう。

ライドシェアは経済を活性化し、生きがいもつくる

加えて、ライドシェアは利用されないまま駐車場に眠っているマイカーの有効活用になります。地方経済の凋落で仕事を失った人や、定年退職などで老後を持てあましている前期高齢者の人たちにとっても、お金を稼ぐことのできる良い機会になるはずです。生きがいにもつながるでしょう。これは地方の生産性を揚げ、経済にも良い影響を与えるのは間違いありません。

ぜひ政治の力で、地方のライドシェア解禁を進めていただければと思います。

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