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「他者の知」に乗る経験学習とは

企業では新卒採用において、「学生時代に力を入れたこと」すなわち「ガクチカ」を問うようになっています。それは「経験学習をする力」を見ているからだと言われています。

就活、ガクチカで大切なのは 動機や得た学びを明確に:日本経済新聞

不確実で変化の大きな社会のなかで、特定の技術や職能に依拠しすぎることなく、経験から教訓を導き出し、変化・適応しながら発達することが期待されているのでしょう。

経験学習とは何か

ではその「経験学習」とはなんなのでしょうか。最も有名な図は、哲学者のジョン・デューイの理論をデイビッド・コルブがモデル化した「経験学習サイクル」ではないでしょうか。

MIMIGURIの実践知と最新理論を分かち合う、学習プラットフォーム「CULTIBASE」では、経験学習サイクルを以下の記事で紹介しています。

CULTIBASE リフレクションとは何か:連載「リフレクションの技法」第1回

たとえば、大学生の頃に企業でのインターンに力を注いでいたとします。チームと深夜まで議論を交わし、プロジェクトを成し遂げた経験が生まれたとします。これが「具体的経験」です。

その経験を俯瞰して行為や出来事の意味づけをするのが「省察的観察」です。インターンの活動を離れて振り返り、チームでプロジェクトの成果を作り上げたプロセスに対して意味づけをしていきます。

その観察を通じて他の状況で活用できる「抽象的概念」として知、教訓を導き出します。たとえば「チームで成果を作る上で、お互いに本音で話せる場がとてもよかった。だから、チームワークには対話が必要だということに気づいた」という教訓です。

今度はその教訓を生かし、対話が生まれるチームづくりを意図して、能動的に新たなチームワークに参加します。これが「能動的実験」です。

経験学習のなかで、他者の知を借りる術

この経験学習サイクルは良くも悪くも「持論」の形成につながります。

持論のみでは「自分の中での成功の知」に囚われてしまって新しい課題に適応できなくなったり、他者に伝わりにくくなってしまう場合もあります。

そこで、持論に閉じないためにぼくが「経験学習サイクル」を参照して学ぼうとするときに意識していることを書いておきます。

ポイントは教訓を導き出す「抽象的概念化」のフェーズで、他者の知を借りることです。

例えるなら、具体的経験は穴を掘る行為で、省察的観察は、掘って出た土を盛り山にする行為だととらえています。自分の経験のなかにあった良さや課題を見つめ、教訓を導き出す足場を固めるイメージです。

その後、その経験知の足場にしっかりと乗り、それまでは経験がなければ登れなかった「他者の知」の高台に乗り移ります。

経験を積まなければ見ることができなかった、他者の知識の上に乗って景色をながめることで、新しいひらめきとして教訓が得られます。

そこで生まれたひらめきをもとに「能動的実験」をするのです。

経験学習のポイントは、経験を足場に「他者の知」に乗ること

経験学習する力とは、経験を足場にしながら他者の知をうまく使う力だとも言えるかもしれません。

他者の知には、学問的な知もあれば、職能における専門知もあるでしょう。あるいは、先輩の独創的な格言もそうかもしれません。

それらの知を闇雲に借りるのではなく、自身の経験を省察し、足場を作って借りることで、持論と理論を混ぜたり、他者の持論を混ぜたりすることができます。

僕は企業で研修をする際も、頭ごなしに何かを教えようとすることはしません。丁寧に経験を振り返り、経験知をあしばにしながら足場にしながら、新しい知の高台に乗って社会を眺めることができるよう、プログラムを意識しています。

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臼井 隆志|Art Educator
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