欧州式“低炭素経済への移行促進”を ポストコロナの標準にできるか?
新型コロナウイルスの感染拡大により経済が悪化してしまう一方で、欧州の排出ガスが58%程度減少するとのデータがある。排出ガスが減少し、大気汚染や水質汚染が改善しているとの朗報もあるが、こうした改善は一時的なもので終わる可能性が高い。本来は「経済か、気候変動か」の二者択一ではない問いに、二者択一で答えてしまわざるを得ない状況が続く限り、地球温暖化の脅威は続いてしまうと言える。
ところで、5月19日にドイツとフランスの首脳が協調して5000億ユーロのEU復興基金で合意した後、下旬にはさらに踏み込んで7500億ユーロ規模の復興基金案が提案されている。もっとも、その後、財政健全な四か国の反対を受け、この合意に向けて不透明感が強まる中、ユーロ圏財務相会合議長の辞任騒動となっており、落としどころが見えなくなっているのは確かで、復興基金が定められるのか疑念が残ったままではあるのだが。
しかし、この経済復興を目的としている基金を構成する中心的要素の一部は、企業に対する支援の条件として排出ガスの削減を求めるなど、低炭素経済への移行を促進するものとなる可能性がある。フォンデアライエン欧州委員会委員長の肝いりである欧州グリーン・ニューディールを下敷きとした、ポストコロナを見据えたものであった点を見る限り、欧州の今後の流れを踏まえるものと見ておいてよいのではないか。経済復興基金に関する欧州委員会の案にはEU全域を対象とした最低炭素価格の設定、グリーン・ニューディールで設定された脱炭素目標の引き上げ、規制の緩い地域に排出ガスを移動させる「炭素リーケージ」を防止するための措置が組み込まれている。
総合的にみると、新型コロナウイルスは移行を加速させるショックになり、復興基金の構成は仮に変形を余儀なくされたとしても、2050年までのカーボン・ニュートラル目標の達成に向けて、EUが進み続けられることを念頭に置いたものになるのであろう。復興基金案がどうなるかの行方は政治がらみであり目先の波乱要因でも、米中間の対立がこれから進む場合、欧州が欧州色を出すためにも、欧州自身が捨てられないカードでもある。
ポストコロナの着地点としての一つの答えは低炭素経済への移行こそが握っている。そのリーダーシップを欧州が執り切れるかは不明だが、少なくとも欧州共同基金の成立くらいできないようでは、そうした野望を実現することなど到底できないであろう。