見出し画像

「静かな退職者」対策のポイント。社員のモチベーションを上げるのは上司の仕事ではない?

皆さん、こんにちは。今回は「モチベーション」について書かせていただきます。

仕事への「熱意」も「不満」も乏しい冷めた層を、「静かな退職者」とみなす考え方が出ているそうです。コロナ禍で在宅勤務が中心となり、誰かが自分を気にかけてくれるわけでもなく、さらに成長実感を得にくくなっていることから、会社に対する帰属意識が低下してしまっていることが理由です。

従業員と雇用主との間の“断絶”をこれ以上拡大させないためには、どのようにしていくべきなのでしょうか。

米国で「静かな退職(Quiet quitting)」と呼ばれる考え方が広がっている。実際に仕事を辞めるわけではなく、必要最低限の業務はこなすものの、仕事への熱意が低く会社への帰属意識も薄い会社員を指す。米調査会社ギャラップが6日公表した調査によると、こうした従業員の割合が半数以上を占めた。在宅勤務の広がりで、会社とのつながりが薄くなったことが背景にある。

■仕事への不満を吐き出すうちはまだ良い

引用した記事に、

「エンゲージメント(会社への帰属意識)」が高く、仕事にも熱意のある会社員の割合は32%と、2021年の調査(34%)より低下し、7年ぶりの低水準となった。一方で会社への不満を強く持つ人も18%と、前年比で2ポイント増加した。こういう層は動画投稿アプリのTikTok(ティックトック)などで仕事に対する不満を発信する傾向を持つ。

とある通り、働き方が変化したからといって、これまで通り会社への帰属意識が高く、仕事に対しての熱意を失っていない層もいます。一方で、会社に対する不満を強く持つようになった層もいます。

組織課題がない会社は存在しないはずなので、まだこういった“不満”を外に吐き出すうちは、改善の余地があると思います。従業員も不満に思っている内容について、誰かに理解・共感してほしいという “期待”があるからです。

企業側はその不満を正確に把握し、どのように改善していけば良いか従業員に歩み寄って考え、改善策を実行していける可能性が残されています。

大変なのは、それ以外です。「静かな退職(Quiet quitting)」と呼ばれる人たちは、実際に仕事を辞めるわけではなく、「必要最低限の業務はこなすものの、仕事への熱意が低く会社への帰属意識も薄い」層。

このような、いわゆる「ぶら下がり社員」や「フリーライダー」が増えれば増えるほど、組織に対して悪影響をもたらしてしまいます。

・職場全体のモチベーションが下がる
・優秀な人材の離職につながる
・新たな「ぶら下がり社員」を生み出してしまう

など、負のループを生み出してしまい、一生懸命やっている人にまでも多かれ少なかれ影響を与えてしまうのです。

■「働かないおじさん」だけでなく「働かない若者」の対策

こちらの記事には、

最近ネット上で「働かないおじさん」が話題になっている。勤務中に趣味のサイトばかりを見ているなど、サボる中高年を皮肉る内容の投稿だ。一部メディアで取り上げられ、「私の周囲にもいる」「単なる偏見だ」などとちょっとした論争になった。
「働かない」とは言い過ぎな面もあろうが、中高年社員について悩む企業は実際多い。パーソル総合研究所の2020年の調査によると、シニア人材の活用・活性化に課題を感じている企業は約5割に達した。モチベーションの低さを指摘する声が最多だ。

とありました。シニア人材の活用や活性化に課題を感じている企業は少なくありません。

こちらの記事には、

高齢・障害・求職者雇用支援機構の報告書(18年度)によると、役員や部長や課長などの管理職の役職を降りた後に59.2%が「会社に尽くそうとする意欲」が下がったと回答した。キャリアへのプライドと、モチベーションとの折り合いをつける難しさが浮かぶ。

とあり、「管理職の役職を降りた後の社員のモチベーションを保つ」ことだけでなく、さらに「長期に渡ってラーニングカーブを上げていく」ことの難しさが分かります。

ですが、モチベーションの低さは、一部の中高年社員だけに留まらず、若者にも広がっているというのは前述の通り。モチベーションを引き上げる対象は、全世代、年齢問わず必要なのです。

企業ができる、社員のモチベーションを向上させるための施策としては、以下の3つのポイントが重要だと考えます。

① コミュニケーションに投資する
→「コミュニケーション」は人のモチベーションを上げたり、逆に下げたりすることにもなる一番の要因です。誰かからの一言で仕事に前向きに取り組めるようになったり、自分の考えを共有できたことで悩みがスッキリしたりします。周囲の人と円滑にコミュニケーションが図れているうちは、組織も個人もモチベーションが高い状態を維持できるため、社員同士のコミュニケーションを活性化する工夫は、全て“投資”と捉えて積極的に行う必要があると思います。

② 目標の明確化と評価基準の明瞭化
→目標が明確でないとモチベーション低下やパフォーマンス低下に直結してしまいます。目標は高すぎても低すぎても社員のモチベーションを簡単に奪ってしまうもの。一度設定した目標も定期的に見直し、成果を出した社員はしっかりと褒めて評価していくことが大切です。またその際、評価基準を明確にした上で、本人と上司の評価のズレが少ないこと(またはズレがあった場合は率直に伝えること)がポイントになると思います。

③ 「モチベーションを奪っているもの」を排除する
→たとえば、「頑張っていない人や周囲からの評判が良くない人が評価される」という状態が起こった時に、人は一気にモチベーションが下がります。また、「誰も自分の頑張りを見てくれていない」とか、「意図や背景を伝えられないまま、指示や命令ばかりされる」、「どんなに頑張ってもその成果を横取りされる」などという状態もモチベーションを下げる要因です。こうした一つ一つの要因を正確に把握して、徹底的に排除していく必要があります。社員からの声に常日頃から声を傾けるような場所や仕組みがなければ、実態把握はなかなか難しいかもしれません。

■モチベーションは上げるもの?上がるもの?

社員のモチベーションが高い会社は、活気が溢れ、仕事のパフォーマンスは向上します。企業は、「仕事の面白さや楽しさ」「やりがい」などの内発的動機づけを社員に対して図り、モチベーションを維持、さらには向上させていかなくてはなりません

仮に「スキルが十分なのにモチベーションが低い社員」よりも、「スキルが足りなくてもモチベーションが高い社員」のどちらかを採用するとした場合、後者を選択する企業が多いのではないかと思います。

それだけ社員のモチベーションは重要で、モチベーションが高い社員が多い会社ほど業績がどんどん伸びていくと言っても決して大げさではないと思います。

では、「どのように内発的動機づけを行うのか」ですが、以下のような点がポイントになるのではないかと思います。

・経営方針、会社のビジョンや理念の浸透
・適切な目標設定と業務の意味付け
・評価基準の明瞭化とフィードバック
・自分で決める(選択する)機会の提供
・“主役感”や会社への“貢献実感”の醸成
・経営者や経営ボード、会社のキーマンとの接点作り
・会社全体や社員同士の一体感の醸成
・良好な人間関係や信頼関係の構築
・十分なコミュニケーション量と質の担保
・職場環境や待遇・評価に対する満足度向上
・社員のライフステージに合わせた働き方の選択肢の提供
・能力やスキル、専門性を深められる学習機会の提供
・社員の自主性やチャレンジ意欲を引き出す取り組みや施策の実行


ただ、ここで大事なのは、「社員のモチベーションを上げるのは上司や会社の仕事である」と捉えている人が多いと思いますが、それは実は大きな間違いではないかという点です。

上司がこれまでの社員の育成経験から、どのような場面でどのような対応をすれば社員のモチベーションを上げることにつながるか、実践を通して理解している人は多いかもしれません。ですが、多様な価値観が広がる中、その再現性をずっと誰に対しても高めていくことは極めて困難です。

先ほど述べたようなポイントを意識しながら、社員の内発的動機づけを行うことはある程度は可能ですが、本来は、社員一人ひとりの内側から自然に生まれてくるものであって、他人が操作できるものではないのです。モチベーションは本人にしか上げられませんが、上司や会社はそのための環境を整えることはできます

また、仮にモチベーションが上がらない状態があったとしても、「先に“行動”さえしてしまえば気持ちは後からついてくる」という考え方を個人として取り入れることも重要かと思います。

モチベーションを上げるための方法や手段論に終始せず、本来の目的を達成するために、個人のモチベーションに関係なく、結果を出すため、または理想の状態を実現するための“行動”こそが重要なのではないかと思います。それによって成果が伴えば、または失敗したとしてもそこからの学び(または危機感)を得ることができれば、自然とモチベーションも上がっていくはずです。

■ぶら下がり社員対策

米国で広がっている「静かな退職者」という考え方は、日本に当てはめると「ぶら下がり社員」に近しいのかもしれません。ぶら下がり社員とは、仕事に対するモチベーションや組織・チームへのコミットが弱く、与えられた仕事はこなすもののそれ以上の行動をしようとしない社員のことです。自分自身のキャリアについては無関心のまま、昇進を狙うことも、かといって退職をするといったこともないような層を指します。

ぶら下がり社員が生まれてしまう主な理由は、

・仕事内容に変化がない(何年も同じ仕事をしていて成長実感がない)
・仕事内容が細分化・分業化されすぎている(チームでのコミュニケーションが生まれにくく、スキルアップにも限界が見えている)
・時給という概念(成果を出そうが出すまいが時間当たりの報酬が一緒)
・居心地の良さ(必要最低限の仕事をしていれば、決められた給与が支払われることが多い)
・自分が評価されていないという諦めや自信の喪失(自分の成長を諦めている、または自己評価が低い)
・キャリアパスが明確でない(将来のキャリアを描く機会がなく、漠然とした不安を抱いてしまう)

などが挙げられます。

このような、いわゆる「ぶら下がり社員」を否定しているわけではありません。社員の“自主性”や“積極性”は一切求めずに、指示された仕事を粛々と対応してくれる社員を求めている会社もあると思います。

ただ、組織全体、会社全体の視点で考えた時に、このような社員が増えることで管理職を目指すような人材が生まれにくくなったり、“受動性”や“消極性”、さらには“モチベーションの低さ”が伝染し、組織にとって生産性や業績、企業風土にまで悪影響を及ぼしてしまう可能性があることを危惧しているのです。

コロナ禍で「エンゲージメント」や「モチベーション」を向上させるための取り組みに改めて注力してきた企業が多い印象ですが、その中で「働きがい」よりも「働きやすさ」を過度に追求し過ぎると、その居心地の良さから、ぶら下がり社員が必然的に生まれやすくなり、意図せず増加し続けてしまうと思います。

「働きやすさ」を重視し過ぎた結果、「働きがい」が失われて「ぶら下がり」または「消極的な定着」が起こりやすくなってしまうため、この双方のバランスを保つことは大きな組織課題の一つと言えるでしょう。

今一度、「働きがい」に直結する施策と、「働きやすさ」に直結する施策を整理した上で、そのバランスが適切に保たれているか、「働きがい」を生み出す施策が十分か、確認する必要があるのではないでしょうか。


#日経COMEMO #NIKKEI

いいなと思ったら応援しよう!