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プレイングマネジャー、どれだけプレイングします?

「マネジャーは、プレイヤーとして成果を出しつつ、管理職としてチームのマネジメントもすべき。」

このようなプレイングマネジャーの考え方は、いつの間にか日本で当たり前のように考えられています。

皆さんの会社や職場も、プレイングマネジャーであふれているのではないでしょうか?このプレイングマネジャーはカタカナ用語ではあるのですが、ビジネスの文脈で使うのは日本だけで和製英語です。英語の "Playing Manager" はスポーツ用語で、スポーツで選手と監督を兼任するポジションを指します。日本でも選手兼任監督として、ヤクルトスワローズの古田敦也選手や中日ドラゴンズの谷繁元信選手が務めました。米国では、野球だけではなく、アメリカンフットボールでも使われたりします。

このスポーツ用語は人に仕事を付ける(仕事内容と役職や組織内の地位は連動しておらず、できる人が職務をこなす)文化を持つ日本の商慣習と相性が良く広く普及してきました。欧米では、日本とは異なり、役職や組織内の地位に応じて仕事内容が変わるため、組織内の役割分担や責任範囲が不明瞭になりがちなプレイングマネジャーは商慣習との相性が悪いです。

このように日本的経営の特徴とも言えるプレイングマネジャーですが、広く普及されているからといってメリットばかりではないことは良く知られています。それに、現場で働く皆さんの実感するところでもあるでしょう。そのデメリットの最も大きなことは、管理職であるにも関わらず、プレイングのほうが大きくなりすぎてしまい、マネジメントが疎かになってしまうことです。

それでは、プレイングマネジャーの「プレイング」と「マネジメント」のバランスはどうすべきでしょうか?

この疑問に対して、リクルートワークス研究所が面白い調査報告書を公開しています。詳細は、下記リンク先を参照いただきたいのですが、プレイングマネジャーの実態と、成果を出すチームと出さないチームのプレイングマネジャーの行動の違いについて、よく分析されています。調査報告書では、日本企業の87.3%の管理職がプレイングマネジャーであり、大よそ3割の管理職が50%以上の業務時間をプレイングに割いていることがわかります。

しかし、チームの成果とプレイング業務の割合の関係性を見てみると、プレイング業務が長くなるほどチームの成果が低下する傾向にあることが分析によって示されています。そのため、報告書ではプレイング業務は30%未満に抑え、マネジャーであることで付加価値が高まる業務を担うこと、プレイング業務を戦略的に活用することなどの提案がなされています。

このように、プレイングマネジャーと言っても、勘と経験だけに頼って業務にあたるのはリスクが高く、チーム成果を上げるためにはマネジメント行動にセオリーを学ぶことが必要となっています。特に、世界的に見ても、現在のビジネス環境はマネジャーの行動や役割に変化が求められています。


変化するマネジャーの役割

欧米企業のマネジャーというと、どのようなイメージを持っているでしょう。成果に厳しく、処遇に差をつけ、低業績者に対しては「お前は首だ!(You are fired!)」と詰め寄る姿でしょうか?

アメリカンコミック『スパイダーマン』で主人公ピーター・パーカーが勤務する新聞社「デイリー・ビューグル」のJ・ジョナ・ジェイムソン社長の姿がイメージに近いかもしれません(よくわからないという方は、youtubeで検索するか、是非、USJの「アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド」をお試しください)。

このような成果主義で高圧的なマネジメント・スタイルは、欧米でも変化しようとしています。行き過ぎた成果主義では部署のメンバーが自分の意見や考えを出すことをためらうようになり、問題解決やイノベーションを成果として求める時には好ましくない行動様式であることがわかってきたためです。


マネジメント行動の基本の2軸

それでは、マネジメントの役割や行動とは、そもそもどのような行動様式を指すものでしょうか。経営学では、古典的に、マネジメント行動には基本となる普遍の2軸があると考えられてきました。この2軸はリーダーシップとよく似ており、「部署やチームの成果目標を達成することを促すタスク志向」と「部署やチーム内の人間関係を良好なものとして、メンバーのポテンシャルを最大限引き出すメンテナンス志向」の2つとなります。

この2軸はバランスを取りながら運用することが重要なのですが、決まったバランス配分があるわけではありません。組織の在り方や性格、求める成果目標によって、最適な配分が決まってきます。タスク志向が好ましいケースもあれば、メンテナンス志向が好ましいケースもあるのです。その中でも、時代の流れやビジネス環境の変化と共に、一種の傾向のようなものが見られます。


成果よりも、部下の育成が重視されるように

近年の動向では、タスク志向よりもメンテナンス志向が重視されるようになっています。特に、上司が部下のキャリアや能力開発に対して、積極的に関わっていくことが重要であると考えられています。

これだけを聞くと、「日本はもともと、成果主義ではなかったのだし、人材育成を強みとしてきたのだから、世界が日本に近づいてきた」と喜ぶ人がいます。たしかに、部分的にはそのような見方もできるのですが、本質的には全く異なるものです。

例えば、もしあなたが明日から毎月最低一回は業務時間内に部下との1対1の面談するように求められたとしたらどうでしょう?そんなに時間を割いていられる余裕はないと、戸惑うのではないでしょうか。しかし、Googleをはじめとした革新的なプロダクトを次々と生み出す企業は、月一回のような高頻度での面談を実施し、どのようなフィードバックがなされたのかデータベースで記録・管理するといったことがなされています。

同様の例としては、日本ではなぜか「ノーレーティング」と訳されてしまった「No Performance Rating(成果評価の廃止)」も上げられるでしょう。ハーバードビジネスレビューの記事で特集されているように、マネジャーは部下の成果を評価するのではなく、部下のキャリアや能力開発を支援する方向に変容しています。

最近、流行りの OKR(Objectives and Key Results)や心理的安全性の議論も、マネジャーが部下のキャリアや能力開発を支援すべきという流れの中であると捉えることもできます。

 先に紹介したリクルートワークス研究所の調査結果でも、部下の育成に関する問題が指摘されています。プレイングの割合が増大してしまう大きな要因が、部下の能力不足であり、マネジャーではないと遂行することができない代替不可能な仕事であると判断してしまうためです。たしかに、そのような職場や部署はあるでしょうし、仕事内容によってはマネジャーが行動したほうが好ましいこともあるでしょう。

しかし、調査結果ではプレイングの割合が大きなチームや組織はパフォーマンスが低い傾向にあります。そして、その原因として、マネジャーが部下を育成することができておらず、自分で動いてしまっているのではないかと容易に考えられます。そうすると、能力開発を重視すべきというグローバル規模のマネジャーの役割・行動の変化とも類似性を見出すことができてきます。

今、日本企業に求めれているのは、人手不足だからと諦めるのではなくプレイングマネジャーという在り方を見直し、人材育成を主な役割とする新たなマネジャー像を創り上げることなのかもしれません。自ら動くエースパイロットのようなマネジャーではなく、名伯楽と呼ばれる人材育成のプロフェッショナルが新しいマネジャーの在り方と言えるでしょう。




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