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非プロが伝える日本酒の魅力【複業にトライ①】

「まずはビンのラベルを見て下さい。このお酒は特別純米、無濾過の原酒だとわかりますね」

平日の午後7時すぎ。東京・秋葉原にレンタルした部屋で、講師の原田裕一さん(32、左端)が、日本酒のラベルの情報をいかに読み解くか、10人の参加者に熱く語りかけていた。

原田さんはNTTドコモの社員。「日本酒の基礎知識を学ぶ」講座は、今年5月からはじめた複業だ。現在、およそ週1回のペースで、本業の仕事が終わった夜に、この講座を開催している。すでに18回を数えており、延べ参加者数は約130人にのぼる。

原田さんと日本酒の出合いは、大学院卒後に入社したNTTドコモの初任地、秋田だ。原田さんは学生時代はお酒嫌いだったという。特に日本酒を飲む、といえば「罰ゲームとしか思えなかった」。

ところが、酒所、秋田の居酒屋で会社の先輩に勧められてはじめておいしい日本酒と出会う。秋田を代表する銘酒の1つ、飛良泉(ひらいずみ)だ。「一口飲んで、日本酒の旨さに驚愕した」。壁一面に銘酒メニューが貼られる有名な居酒屋「永楽食堂」が自宅から近かったことなどもあり、日本酒の魅力にどんどんはまっていった。

東京に転勤になっても日本酒熱は冷めず、新しい銘柄を求めて酒店を回る日々。もともと「本業以外にも、何かにチャレンジしたい」と思っていたこともあり、今年4月にスキルシェアサービスのストリートアカデミー(ストアカ、東京・渋谷)の日本酒セミナーを受けると、「自分もやってみたい」という気持ちに。5月には自分がストアカで講座を開くことなるという急展開だった。

満を持して臨んだ最初の講座。フタを空けてみれば、受講生はたった1人。しかし、この最初の1人となる女性が「かなり喜んでくれた」ことから、大きな手応えを感じたという。2回目の参加者は4人に増え、以後は安定的に人が集まるようになった。意外なことに参加者の約7割が女性だ。原田さんが参加理由を尋ねると、返ってきた答えは「周りに日本酒好きな人がいないから」。日本酒を共通言語にして、初めて出会った参加者同士が仲良くなり、「日本酒の輪」が広がっていくのを目にするのが原田さんの楽しみだ。

© yamadayutaka

原田さんの講座は回を重ねるごとに人気を呼び、ストアカに1500近くあるグルメ講座のうち、何度も週間ランキング1位に輝いた。「オフ会」として、自分で買った酒を持ち寄る「日本酒持ち寄り会」を開いたところ、定員をオーバーする30人が集まった。12月には赤坂のスナックで開催する予定だという。

複業に興味を持つ人は多いが、本業を持つ会社員にとってハードルとなるのが、本業の会社との関係だ。原田さんの場合、NTTドコモに副業の制度があったため、申請するとすんなりOKが出て特に問題はなかった。複業(副業)を認めた会社はまだまだ少ないことを考えると、原田さんは恵まれたケースと言えるかもしれない。また、原田さんの場合は日本酒セミナーは就業後の平日夜か週末に開催しているため、休暇をとったり早退したりする必要もなく、本業にはまったく影響がないという。

複業の収入はどうなのか。講座の受講料はこれまで1人あたり2700円で、×人数が売上高に相当する。ここからストアカに支払う手数料、会場費、自分で用意する日本酒代といった経費を差し引いた額が利益となる。いまのところ経費は4割ほどで、最近では月々、10万円弱が手元に残るという。「儲け目的で始めたではないというのが前提にあり、ただ自分が好きでやっていることで喜んでくれる人がいるのが楽しい」と原田さん。

ただストアカで募集をかけたり、場所を確保したり、酒や水、コップを持ち込んだりといったことをすべて1人でやらなければならない。「稼ぐ目的だと長続きしないだろうというのはすごく感じる。すぐ稼げるわけではないので、そういう人は挫折しそう。雑誌にあるような『楽して稼げる!』みたいな始め方はダメですね」と手厳しい。

一方で「好きなことで稼ぐことにチャレンジもしてみたい気持ちもあるので、ある程度、利益は出せるようになってみたい」とも語る。原田さんは複業を始めてから、お金の使い方も変わってきたという。「これまではただ旨いもん食う、旅行行く、映画見るとかの『消費する』という形のお金の使い方しかなかったのですが、自分で場を作る楽しさを学んだので、これからは『作る』ことができるようになるために自分に投資していきたい」。複業で得たお金は本を買ったり、次のイベントの開催費用、別のセミナーへの参加費など、基本は自分への投資に消えるという。

© yamadayutaka

秋葉原での講座に戻ろう。日本酒の種類や酒米、オススメの秋田の日本酒について原田さんが1時間ほど説明した後、30分ほどの試飲タイムに移った。この日は、飛良泉(秋田)、山本(秋田)、亀泉(高知)、出羽桜(山形)、紀土(和歌山)というラインナップ。1本ずつ、自分のコップに適量を注ぎ、隣の人に回していくスタイル。「弱い人が飲み過ぎないように」との配慮だ。

「日本酒なのにパイナップルみたい」「貴腐ワインみたいな味わい」「いかにもお酒、という感じ。料理に合いそう」――。口々に感想が漏れる。参加者の女性に感想を聞くと「短時間だけどとても濃厚な時間だった。十分な知識を得た上で試飲できたので、日本酒の楽しみ方が変わった」と、笑顔で部屋を後にした。

本業は技術系で社内にいることが多く、普段は会えないようないろいろな人と会えるのも複業の楽しみの1つだ。日本酒のプロフェッショナルではない自分の講座は、果たして喜んでもらえているのか。はじめのころの心配はもはや消え去り、原田さんが考える「日本酒の輪」は着実に広がりつつある。

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【複業にトライ】シリーズでは、実際に複業に現実に取り組んでいる方を順次、紹介して行きます。

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山田豊(COMEMOスタッフ)

日本経済新聞社のCOMEMO担当。日経記者、デスクをへて2017年10月からCOMEMOスタッフ。※投稿する内容は個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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