FEDに救われた新興市場~引き続き米中貿易協議が最大の動意に
新興国通貨は、昨年4月に米中間の関税引き上げ合戦が激化して以来、9-10月にかけて大きく下落した。米金利上昇とドル需給のタイト化観測が新興国市場の脅威となる局面は珍しいことではないが、昨年の第2-第3四半期の場合は、新興国経済の牽引役となる中国の成長減速観測を伴っただけに、直前までバリュエーションが高かったせいもあるが、数年ぶりにほぼすべての新興国通貨がレパトリ的な資金流出に見舞われた。メキシコやブラジルなど経済規模の大きい新興国で大統領選挙が行われたことも、ヘッジ売りの理由となった。
ただし10月には調整売りも一巡し、その後11月末の米中首脳会談で「90日間の休戦」が合意となったことから、新興国通貨全般の買戻しが進んだ。面白いことに、12月中の先進国株価の下落というリスクオフ材料にもかかわらず、新興国通貨の対ドルレートは12月を通じて反発しており、中国の成長見通しという要素がいかに新興国市場にとって重要であるかがわかる。
年明け以降も、新興国通貨は一部を除いて上昇が加速している。これには、先進国でリスク資産価格全般の下落が加速したことから、1月に入りFed首脳が先行きの利上げに対して慎重な姿勢を見せ始めたことが背景にある。脆弱な新興国通貨の代表とされたトルコリラでさえも、昨年8月の下落トレンドのピークから20%も反発している。
今回はFedのハト派転換に救われた格好の新興国だが、今年の最大のリスクはやはり米中貿易協議の進展となろう。米政権は、中国との貿易協議の目安を今年の2月末としているが、これ以上の関税引き上げを回避できるのであれば新興国通貨とコモディティ価格には安定が見込まれる。
それでも中国経済の減速トレンドは確実にやってくる。トランプ大統領の行く末はともかくとして、米国議会で勢力図がどう変化しようとも、中国の経済的・政治的な台頭に対する米国政府の警戒感が薄れることはないだろう。そのため、既存の関税引き上げが撤回される可能性は低く、中国の輸出主導の成長率は減速せざるを得ない。中国が成長の急速なペースダウンを回避できれば、グローバル金融市場に与える影響はほとんどないだろう。
リスクシナリオのうちで最大のものは、中国の成長が短期間で5%台まで落ち込むことであり、その際には人民元の切り下げを中国政府が画策する恐れがある。その場合、すでに人民元との連動性を増している新興国通貨全般が対ドルで急落する可能性が高い。もっともそうした結末となる場合、先進国の成長と資産価格も打撃を受け、先進国中銀がQEの復活を余儀なくされる事態も十分あり得る。つまり、金融チャンネルは緩和政策を通してリスク資産の下落を抑制するとみられる。
昨年4月から10月にかけての新興国市場全般の下落はすでに巻き戻しが始まっているが、Fedの利上げ休止とドル上昇モメンタムの後退から、向こう数カ月も緩やかな回復基調が続こう。米中貿易協議の決裂が最大のリスクとなろうし、甘すぎる見通しは避けるべきであるのはもっとも、なのだが。新興国全般でファンダメンタルズが改善していることからすれば、個別国で資産価格が突出して下落するケースは少なく、全体的に小幅下落にとどまる公算が大きくなってきている。