リモートワークを巡る議論の着地点
定期的にXで盛り上がる話題であるリモートワーク。周囲の状況を確認してもリモートワークと出社のハイブリッドを採用する企業も増えてきました。
東京都の資料によると2024年3月現在、43.4%がリモートワークを取り入れているというデータがあります。この数字2023年5月から横這いであり、当面は大きく増減はしないように思われます。
一方、そのリモートワーク実施頻度を見ると週3-5日と回答した企業は45.6%となっています。うち所謂フルリモートワークと呼ばれる週5日は18.1%となっています。かつてはニューノーマルと持て囃されたリモートワーク。今回はリモートワークを巡る議論の着地点について言及していきます。
リモートワークで難しかったこと
リモートワークを縮小したり、取りやめたりする企業から見えてきた傾向について整理します。リモートワークと出社を比べた時の難しさについてです。
ジュニア層育成
新卒を含めたジュニア層の育成は職種を問わず困難です。新卒であっても在学中にある程度ベンチャーなどでのコミット経験があり、中途のようなスキルセットであれば別ですが通常はそうではありません。
「先輩とのペアプログラミング以外で進捗が見られないジュニア層に手を焼いている」という話もあります。リモートワークで事業を進めるため、ジュニア層採用をしない組織もあります。
中途入社者のオンボーディング
ジュニア層のようにスキル上の問題は無いように見えるものの、オンボーディングがうまく行かないことでハレーションが起きることは多々あります。代表的な4点をご紹介します。
1点目はドキュメンテーションです。詳細は後述します。
2点目は人間関係の構築です。チャットやビデオ会議は基本的にタスクや要件を伝える場所です。出社が当たり前でオフラインで人間関係を構築済みだったコミュニティに対し、後から入社してきた人がオンラインのみで人間関係を構築するのは困難です。疎外感を感じやすく、直ぐに転職活動を再開したり、内定辞退した企業に連絡を取って入り直すという話はよくあります。
3点目はバリューについてです。スムーズにオンボーディングできればバリュー発揮もつつがなく行われますが、丁寧なオンボーディングプログラムが整っている組織はまだまだ少ないです。
バリューについては期待値のインフレが無視できません。給与に見合うバリューがシビアに求められる中、エンジニアバブルによる給与上昇により、受入企業側の期待値が上がってしまった方も居られます。高年収人材に対して自社の評価制度を当てはめたときのギャップから所謂「お手並み拝見」となりやすく、中途入社者が放置されているケースすらあります。何のために採用したのかよく分からないなと思うばかりです。
売上が低迷したときの経営層の焦りの共有
2024年4月現在、コンサル、スタートアップ、上場済みSaaSは不況感があります。特に2022年11月までのエンジニアバブル下のスタートアップについては、エクイティファイナンスを潤沢に受けつつ、それを「良い人を採用するために」と給与や福利厚生、ワークライフバランスをPMF前から打ち出していました。スタートアップ投資が加熱していた当時は正攻法でしたが、投資が渋った現在では苦しい状況です。
投資や特需の期待が厳しい今、とにかく売り上げを立てる、早めにM&Aをするといったことを選択する企業が見られます。起業家が焦っている状況に対し、従業員が呼応していないように感じられ、出社に戻すケースが見られます。そんな中、下記のようなXの投稿がバズっていました。社員の2割は自宅に仕事環境を整え「出社するよりも集中できる」と主張していたものの、残りの8割の生産性が低くて出社に戻ったというものです。
フルリモートワークをコロナ禍初期に導入した大手企業でも「実は働いて居ない人が多かった」として早々に出社に戻して居たケースもあるため、今に始まった問題ではありません。
家事、育児、介護などは従業員満足度に関連するところですが、売上を見ながら天秤にかけつつ、許容が難しくなったため今のタイミングでの出社判断になっているように考えています。
特に家事、育児、介護などで仕事を離れていた際に、どの程度休憩時間として勤怠申告していたのかが問題になっているように思われます。きちんと申告して居たら、それらに対するパフォーマンスはもっと以前から把握できて居たはずです。多くの企業で有耶無耶だったのではないかと考えられます。売上が危うくなり、言及せざるを得なくなったのではないかと推察しています。
類似の事象として下記のようなフリーランスの話もあります。多くの場合、確保工数による準委任契約なので下回る前提の振る舞いは問題があります。
エンジニアバブル下、かつコロナ禍の金余り現象でバブル感があった時には、正社員の人数が重要だったため、社員の繋ぎ止めの観点から社内の満足度が重要視されていました。今はこうした厚遇するスタンスの企業が減り、売上や業務効率を重視するようになってきました。何より売上が厳しい企業は袖が振れず、多少の離職を覚悟の上での出社判断となっているようです。
フルリモートワークを成立させる条件
フルリモートワークの会社は存在します。下記の条件のうちいくつかを満たすことでフルリモートワークが可能になるようです。
しっかりと売上が立っており、仮に多少働かない人が居ても揺るがない財務状況
出社への回帰についての話をXでしていると、「お金のない企業が悪い」という治安の悪い煽りコメントが届きます。粗利の余裕は全てを癒すので、回答としては「はい」です。
「そう言えばあの人は何をしてるの?」と思わない、思われない環境
フルリモートワークを断念するキッカケとして、「働いているのかどうか誰も把握して居ない社員」があります。
勤怠連絡もなく、カレンダーも普通、周囲も状況は分からずにSlackステータスもインアクティブ…
任意に設定された出社に対し、「どうにもしていないっぽい」と思われるのもリスクが高いです。こうした状況が続くと「働いて居ない認定」がなされ、出社比率が増えて行きます。
ドキュメントがしっかりと整備されており、情報格差がない
フルリモートワークで求められる条件の一つが情報格差がないというものです。健全にフルリモートワークを実施している組織の話を聞くと、GitLabを目標とした細やかなドキュメンテーションとそのメンテナンスに腐心しています。
フルリモートワークには社員の努力が必要です。何となく仕事をするだけであれば、圧倒的に出社の方が情報伝達コスト、情報取得コストの観点から楽です。
タスクが細分化されており、ディスカッションやコミュニケーションが最小で済む状況
日系大手企業などでリモートワーク環境が進んでいる組織の場合、タスクの細分化とドキュメンテーションが進んでいるという特徴がある場合があります。ディスカッションが多く必要なスタートアップやスタートアップ事業よりも、リモートワークに向いているのではないかと考えています。
海外大手は先んじて出社に回帰
日本におけるリモートワークから出社への切り替えの話をすると、必ず「海外では〜」と言う出羽守が現れます。
少なくとも日本にもニュースが入ってくるような大企業については出社が求められています。
デルなどはフルリモートの社員に対しては厳しくするように切り替えており、緩やかなレイオフとも言える状況です。
前述したような条件が揃っていたりすれば特にですが、フルリモートワーク導入企業は東京都内にも冒頭で触れたように18%は存在しています。国内外は関係ないでしょう。
リモートワークの落とし所
現実的な解法として、週2-3日出社というのがそこそこの従業員満足度と、業務のバランスが取れるところではないかなと感じます。
問題はニューノーマルを信じて地方や、遠方に引っ越してしまった方です。都内に戻られる方も居られますが、家賃高騰に見舞われているので厳しいところです。支社があるような場合はそちらに出社して良いか交渉してみるのも一つの手段でしょう。
リモートワーク継続を理由にした転職はお勧めしかねる
リモートワークを理由に転職活動をする方も居られるのですが、市況感が良くないので待遇ダウンや業務委託契約になってしまうことも可能性としては見据えておくべきです。
現在でもフルリモートワークや、ほぼフルリモートワークの企業はあります。大手SIerなどであればまだしも、訴求できる要素がなく、あまりにも応募者が来ないのでフルリモートくらいしか掲げざるを得ないスタートアップもあります。利益がしっかりと確保できていなかったり、財政が危うかったりするとレイオフの憂き目にも遭います。結果としてスタートアップばかりジョブホップせざるを得ない方も出始めており、要注意です。