見出し画像

ニュース消費のキーワードとしての「習慣化」&「パーソナライゼーション」

米国で最も多くの有料購読者を持つニューヨーク・タイムズ(330万部*)とウォール・ストリート・ジャーナル(250万部)。[*NYTはクロスワード・クッキングアプリの購読者を除く]。大手2紙による読者とのエンゲージメントを高めるための取り組み事例がちょうど同じタイミングで掲載されていたのをみつけ、興味を持って読んでみました。備忘録的にご紹介してみたいと思います。

▶読者のニュース消費習慣を把握して対策を講じるWSJ

「ニーマン・ラボ」というデジタルジャーナリズムについてのニュースサイトに掲載されたこちらの記事の著者は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)において、エンゲージメント、データサイエンス、プロダクト最適化というそれぞれの現場でプロダクト開発に取り組む3人により執筆されたものです。

250万人の読者を持つWSJが新規有料購読者の獲得、そして購読者の継続購読を目指すために、読者がどのようなニュースの消費行動を行っているかを分析する実験を行い、その結果をまとめた内容となっています。プロジェクトの名前は「Project Habit」(プロジェクト・習慣化)と名付けられています。

リサーチの内容は読者が起こすアクションをとにかく数多くリストアップし、それらを分析する、という作業からなります。メールニュースレターの登録、アプリのダウンロードにとどまらず、記事をSNSやメールでシェアしたか、クロスワードパズルを解いたか、コメントしたか、などをリストアップして、その結果購読開始から最初の100日の行動が1年間の購読期間中にどのように影響を与えたかをプロットする、というものです。

結果、得られたインサイトとして3つの点が挙げられています。

① Loyality(忠誠度): ある特定の興味のあるテーマ、或いは特定の記者に興味を持っている人は頻繁にサイトを訪れ、長く購読する傾向がある。
②    Cadence(リズム、タイミング):規則正しく、決まった時間に出版される記事を読む人は平均よりも高い率で購読を続けている。
③    Play(プレイ・遊び) :(WSJならではの)金融や政治に関する記事のみならず、リラックスした読み物は継続購読に貢献している。

更に得られた洞察として紹介されているのは、読者の習慣が形作られるのは早くて50日、長くても100日程度とのことです。WSJはこうして得られたインサイトにより、オンボーディングと呼ばれる購読開始後の読者向けのやり取りメールの送信を12日から100日に延長したそうです。あくまでまだ実験中とのことですが、サブスクリプションモデルの先駆けとしてのWSJの取り組みから学ぶことが出来る点は多くありそうです。

▶NYTが試みる、自分のためのニュース機能、「For You」

新聞の1面には通常その新聞がその日に最も重要と判断した記事が大きく掲載されていると思います。一方で以前から話題になり、そうしたサービスも数多く存在してきたアイディアの一つに、「自分新聞」という考え方があります。自分にとって最も興味がありそうな記事が抽出される、というものです。人工知能、或いは事前にトピックを選択することでそうしたフィルタリングを可能にするサービスは今も数多く存在することと思います(WSJではアプリ内に「MyWSJ」というタブがあり、日経新聞には「Myニュース」というコーナーがあります) 。

ニューヨーク・タイムズでも実はYour Feedという名前のサービスが存在してました(今も移行期のためサービスは提供中の模様です)。Your Feedはアプリの右上にアイコンがあり、お気に入りをトピック、記者の名前を登録することが可能でした。今回新しく登場した(する)「For You」という機能は、アプリの中央部の直下に位置し、今までよりもパーソナライズを消費体験の中心に据える、という意向があるようです。

「For You」は現在iOS 版のみ提供されていて、順次国内でも更新が反映されつつあるようです(私のアプリではまだ反映されていません)。実際に使ってみないと詳しいことはなんとも言えないのですが、編集部のオススメだけではなく、自分が気になるトピックについての記事を読みたいという要望に答えようとする一つの取り組みのように思えます。ニューヨークタイムズでは1日に250本もの記事が掲載されていて、ニュースの洪水に圧倒される、と感じる人が多いことも背景にあるのかもしれません。

今回の記事はデジタル・ジャーナリズム業界の専門家であるケン・ドクター氏により書かれているものですが、彼が数年前にニューヨークタイムズの担当者と話をした際のことを印象深く語っています。「2つか3つの明確なニューストピックに対する強い興味を持っている人は購読料の売上、そして購読の継続に大きく貢献する人たちです」と、ニューヨークタイムズの人はいち早く気づいていた、と語っています。

▶過去10年間で最悪の雇用状況にある米国ジャーナリズム業界

米国におけるジャーナリズム業界は今年に入って5ヶ月だけで3,000人が職を失い、過去10年で最悪のレベルに近い状況とのことです。NYT、WSJは既にブランドのある伝統的な大手企業の「勝ち組」の取り組み故、他の地方誌、日本国内のメディア運営に取り組んでいる方にとっては参考にならない部分もあるかもしれません。とはいえ、こうして継続的に読者を増やし続けているメディア企業が愚直に試行錯誤を繰り返し、そのプロセスもこうして公開されているところから大きな学びやヒントが得られるものと信じています。

さらには、こうしたメディアと付き合っていく上で、個人一人ひとりがどのようにニュース消費の習慣を形成していくべきなのか、一人の読者としても考えるよい機会なのではないかとも思い、今回記事を紹介させていただきました。今後もこうしたテーマを継続的に追いかけていきたいと思います。

先日「MediaxTech」というニュースブログに以下の記事を寄稿しました。よろしければ併せてご覧ください。


お読みくださってありがとうございます!国内外の気候変動、クライメートテック関連の情報をメディア目線で切り取って発信を試みてます。スキをクリックしてくださったり、シェア・コメントなどいただけたらとても嬉しいです