胸が躍るような仕事と仲間でエンゲージメントは自然と上がる-心に火を灯そう
こんにちは。Funleash志水です。前回の記事もたくさんコメントやスキ!をいただきありがとうございました。とっても励みになります。
今日は「エンゲージメント」について書いてみます。先日、「従業員エンゲージメント」というテーマのセミナーに参加しました。
「エンゲージメント」と企業の業績、生産性との関連性を挙げながら、エンゲージメントの重要性について語られていました。けれども、失礼ながら「根拠のない、いかがわしい情報」に溢れており、ひっそりズームから退出してしまいました。欧米から輸入される人材マネジメント用語の偽物が拡がっているのは、これが原因なのかあと感じました。「本物」を見極めるために自身で判断することが求められる時代ですね。
2000年にある企業で人材獲得と高い退職率に悩まされていたため、人材戦略として「エンゲージメント」を掲げたところ、当時はポカンとされました。
その後大学院で「非正規社員のエンゲージメント」という論文を書いたときも同様の反応でした。
「社員から選ばれる会社」を目指すためにエンゲージメントを戦略の核にしたのですが、2010年頃までは日本では論文や本でもまだ紹介されていなかったようです。
エンゲージメントの正体を暴いてみる
欧米では90年代から「エンゲージメント」という言葉が使われ始めました。この概念が日本で展開されるようになったのは2010年頃。この10年で日本でもエンゲージメント経営が徐々に拡がってきました。人材の流動性が高まり、長期的な視点で「人を中心とする経営」に関心が高まってきたからでしょう。
エンゲージメントは、日本でいわれている「愛着」「ロイヤリティ」「帰属意識」などとは、大きく異なります。多くの意味を有する言葉を使うとピントがぼけてしまうので、一言でいいます。
エンゲージメントとは個人の「自発的な貢献意欲」を指します。
企業が目指す方向性を、社員が理解・共感している。
達成するために自分も努力して行動しようという意識を持っている状態。
組織やチームの目指す目標実現のために、よっしゃ頑張るぞー!その気持ちです。「仕事が最高に楽しい」「胸が躍るような気持ち」が自然に生まれていること。「心に火がついている」状態とも言えます。
40年以上の研究を実施しているウィリス・タワーズワトソン社の調査によると、エンゲージメントと企業の業績には一定程度の関連性があるそうです。他の研究でも、エンゲージメントが高い企業には業界の成長を上回る成長が見られるといわれています。ただ、この点については、実は学者の中ではまだコンセンサスは得られていません。(なので、サーベイや怪しいTechを導入すると業績が大幅に上昇、退職率が低下するなどの営業トークに騙されないことです。事実ならば全企業の業績が向上してるはずですね。)
少し専門的な話をすると・・・米国ではすでに1920年頃から社員の心構えや姿勢について意見を聞く何らかの「調査」が始まっていたようです。その後、モチベーションやロイヤリティなどについて質問する調査に変化しました。当時は、まだ企業にとって社員は「人件費」あるいは「資産」と見なされていました。投資している回収できる資産・コストなのだから、会社の裁量でコントロールできる「帰属物」だったのです。
流れが変わったのは90年代後半。社員は会社の「帰属物」ではなく、「有形・無形の資本」であり、個人が持っている技能や経験を企業の組織目標の実現に投入し、社員の力を最大化しようという意図から、「エンゲージメントを最優先すべである」と言い出したのは元GEのCEOであるジャック・ウェルチです。その後、先進企業が続々とこの新しい「エンゲージメント」経営を取り入れます。
「費用・資産」から「資本」へ。これは、かなり大きな方向変換であり、ウェルチの影響力は絶大だったことがわかります。
最近ではこのエンゲージメントという概念がさらに進化しています。「社員の心に火がついている状態」をより長く維持するために企業としてどんな支援をすべきだろうかということが議論されています。人材争奪戦が激化する中、良い人材を採用・維持して競争力を高める。これが「持続的可能なエンゲージメント」という概念です。すでに欧米では、多くの先進企業がここにお金やリソースを投入しています。これがエンゲージメントの世界的な潮流です。
日本のエンゲージメントが低すぎる理由
ここで気になるのが、各国と比較したときに日本のエンゲージメントサーベイの結果が極めて低いという事実です。有名なのは米ギャラップ社のエンゲージメント調査です。「熱意あふれる社員」の比率が日本はわずか6%であり、139カ国中132位という結果。この調査結果はかなり話題になりました。
グローバル企業においても、地域レベルで比較すると大抵の場合、日本が低い傾向にあります。どの国より日本人は真面目なのに(これが問題!)なぜだ?と経営者から人事が詰め寄られるケースもあります。
低さの原因については多くの識者が指摘しています。
最大の理由は、「職場も仕事も面白くないしワクワクしない」と感じている働き手が日本に多いからではないでしょうか。私が考える「エンゲージメントが低い」理由はこちらです。
・職場にブルシットジョブが溢れている(ブルシットジョブとは無意味・不必要で、ときに有害な仕事)
・個人がオーナーシップを持てない(権限付与)
・個の意見が尊重されない(多様性の受容)
記事にもあるように、「どうでもいいブルシットジョブ」は人間のやる気や意欲を一発で吹き飛ばします。それほど恐ろしい威力を持ちます。
ちなみに日本企業のエンゲージメントのキードライバー(主な動員)は、上記の「仕事の面白さ・やりがい」に続き、「成長機会」、「経営陣のリーダーシップ」、そして「多様性の受容」であることがわかっています。
『個人の能力や経験が生かされ、成果が賞賛され、自分の仕事が所属する組織に意味があり、社会に貢献している』このことを働き手が自ら実感すれば自然とエンゲージメント(内発的な意欲)は高まります。
人はモチベーションを食べていきているといったのは山口周さんですが、組織の力は社員一人一人の「エンゲージメント」のカタマリです。どんなに優れた施策や仕組みを入れても、エンゲージメントが低ければ、つまり、社員の心に火がついてなければ効果はありません。
となると『組織の大切な資本である社員のエンゲージメントを高めるにはどうしたら良いのか?』という問いが浮かんできます。残念ながら正解はありません。課題や優先事項は、各社によってかなり異なるからです。
とはいえ、先ほど挙げた「原因」を解決するために最低限の普遍的なアプローチがあると考えています。
例えば、私自身は、エンゲージメントが極めて高い企業と恐ろしいほど低い企業のどちらも経験しました。後者の組織でやったことはとてもシンプル。
「ワクワクの阻害要因となる障害物」を取り除き、社員に「オーナーシップ」を持ってもらうために3つのことを行いました。
1)巻き込む:最悪のサーベイの結果をオープンに開示して、「協力してほしい」と嘆願しました。「やり甲斐のある職場と仕事」を実現するため、有志メンバーによる社内横断プロジェクトを設置しました。
2)任せる:「なぜここで働いているのか」「職場・仕事を面白くするにはどうしたら良いのか」をとことん考えてもらいました。斬新で面白い、時には耳の痛いアイデアが次々とでました。出てきたアイデアは受け入れること。
3)実行を支援する:当事者意識のあるメンバーに実行のリードをしてもらい、経営は支援にまわりました。
例えば、どうでもいい仕事(時間がかかりすぎる稟議書、誰も読まないレポートなどのブルシットジョブ)を廃止し、社員が発案した企画を実施しました。
もっと具体的なヒントがほしいという方には、神谷俊氏の「遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み 」をお勧めします。社員がポテンシャルを存分に発揮できるためには、自ら仕事の面白さを発見したときだと神谷さんは言います。エンゲージメントのみならず、成果をワンランクあげるための理論・事例が豊富に盛り込まれています。多くの示唆が得られること間違いなし。ぜひご覧下さい。(手厳しい読者からの評価が高いのも納得です)
サーベイの数字に振り回されないこと
企業の担当者の方から、時々「エンゲージメントのスコアを上げるためにはどうしたらいいですか?」というご相談をいただくことがあります。その時は次のようにお答えしています。
エンゲージメントのスコアは「上げる」のではなく、「上がる」ものです。「内発的に湧き出る貢献意欲」なのに、外部の力で「上げる」という発想がおかしい。さらにいうと、エンゲージメントサーベイのスコアを上げることは「手段」であって「目的」ではありません。
例を使って説明してみます。エンゲージメントサーベイのスコアは体温計で熱を測るようなもの。(実際に組織の脈拍を図るという意味で欧米ではPulseサーベイと呼びます)体温を「上げる」ことで健康にはなれません。体温を測るのは、病気なのかどうか、体の不調がどこにあるのか確認することです。不調があればその原因を取り除く治療をする。つまり、「健康な状態」を維持することが目的であり、仮に熱を下げても健康でなければ無意味です。
同様に、エンゲージメントサーベイも組織のどこに原因があるのかを探るためのツールです。5-60個程度の質問への回答からスコアが算出されますが、スコアは参考値にすぎません。あらかじめ仮説を持ち、異なるデータポイントを複数組み合わせて分析する。客観的にスコアを観察する。重要なのは背景にある組織や人のリアルな側面に目を向けて探求することです。体温だけではなく、食欲や睡眠など他の要素も加えて取り組まないと健康になれないのと同じです。
つまり、組織が健康であるかを測るにはデータと実際に組織や人に何が起こっているか本質的な理解。この両軸が不可欠なのです。スコアが上がったとか下がったとかで一喜一憂するのはやめましょう。
年中行事のように毎年エンゲージメントサーベイを実施している会社があります。部門長を集めて結果を共有し、アクションプランを立てて組織に伝達する。このような企業ありません?サーベイにかなり投資しているのですが、エンゲージメントは低いまま。社員の顔はどんより。せっかく高いお金を払ってエンゲージメントサーベイをやっても効果があるわけない。
ここまで読んで来られた方はお気づきだと思いますが、これ自体が「ブルシットジョブ」であり、意味がないので早くやめた方がいいです。
社員の意見も聞かないで上が決め、トップダウンで降りてきた「やらされ感」満載のアクションプランに社員がワクワクしますか?絶対しないと断言してもいいくらいです。
・自分の意見や考えが尊重されている
・組織の決定に自分が関与している
この感覚があってはじめて、当事者意識・やりがいが生まれます。それが内発的な意欲につながり、組織や人が変化するのです。
あらゆる人の心に、もともとは「火」が灯っていると私は信じています。
ごうごうと燃えている、ちらちらしている、消えかかえっている。状態が異なるだけなのです。いったん火が灯ると、火は周りに伝播していきます。
残念ながら、「個々の社員を尊重し、社員から選ばれる会社」にするという視点を持つ経営者や人事は日本においてはまだ少ないようです。
朗報は、経営者がやらなくても、自分たちでできることがあるということ。自分の仕事が持つ意味・意義を考えて、「少しだけ」でいいので取り組み方を変えてみる。これは誰でもできます。ワクワクするように自分で意識してみるのです。
あなたの心に火が灯る
その火は誰かの心に点火する
組織の中で火は広がっていく
大切なのは「心を燃やす」仕事を創り出せる「力」が自分にあると信じること。同じ想いを持って共に行動する「仲間」を見つけることです。
私と一緒に火を灯しましょう。
それでもなかなか火がつかない時は、着火ウーマンの私にご相談を!(笑)