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「信条と利益」どちらが重要か?

ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の敗訴

2019年8月26日、処方鎮痛剤に含まれる医療用麻薬「オピオイド」中毒の責任を巡り、米オクラホマ州地方裁判所はJ&Jに、約600億円の制裁金を支払うよう命じました。

サド・バルクマン裁判長は、J&Jが中毒性の高い処方鎮痛剤について、事実誤認につながる形の宣伝を行い、「公的不法妨害」に寄与したことを検察が立証したことを認定しました。

米J&Jに600億円の制裁金、オピオイド中毒めぐる訴訟で

米国で広がる世界最悪の薬物オピオイド

米国において、1999年から2017年までにオピオイドが関係する薬物の過剰摂取で累積40万人、17年単年では7万人以上が死亡したと報告されています。そして、過剰摂取の患者数は年々増加傾向にあります。

7万人の死亡というのは、7万の家庭を破壊していることを意味しますし、死亡まで至らなくとも生活不能状態の患者数はさらにずっと多く、社会への影響は壮絶なものがあります。

オピオイド中毒蔓延は、1995年にパデュー・ファーマ社が、常習性が低く安全な鎮痛剤として積極的に広報・販売ことから始まりました。

その後、利益至上主義の医師による安易な処方によって、依存症になる人の数が徐々に増加していきました。

また、さらに問題が深刻になってきた背景には、処方された鎮痛剤がより重たい薬物への入口になってしまったことにあります。合法的に処方された鎮痛剤の継続的な摂取が常習性を生み出し、その後は非合法な薬物に手を染めるという流れを生み出しました。

トランプ氏、オピオイド中毒拡大で製薬業界を非難-献金拒否を表明

2019年4月24日に、トランプ大統領は全国で広がるオピオイド中毒を巡って製薬業界を非難し、同業界からの選挙献金を拒否する考えを表明しました。オピオイドが国を揺るがす問題になっており、製薬会社に非難が集まっていることが伺えます。

世界最高と評価されてきた経営理念

今から70年以上前の1943年に、J&Jは経営理念として「我が信条」を作成しました。そこでは、自分たちの存在意義を明確にし、活動と責任の優先順位を明確に示しています。

1.  顧客
2.  従業員
3.  地域社会
4.  株主

そして、この「我が信条」を行動で示した有名な事例として、タイレノール事件があります。

ビジネス史上最も優れた危機対応を実現。ジョンソン・エンド・ジョンソン「タイレノール事件」

1982年、J&Jの子会社が扱っている頭痛薬タイレノールに毒物が混入され、死亡者がでる事件が起きました。

毒物混入の原因がわからない段階で、当時のCEOのジェームズ・パーク氏は自社には責任がないと言い逃れをすることもなく、すぐにマスメディアを通じて「米国の消費者にタイレノールを一切服用しないこと」という旨の警告を何度も何度も発信し、多額の費用を掛けて自主的に商品の回収を行いました。

その後、外部の第三者の悪意に基づいた犯行であることがわかった後には、一度封が開けられると明確にわかるパッケージを迅速に開発し、問題の再発を防ぎました。

J&Jは、自社に責任がないのに売上を止め、在庫を抱え、回収費用を掛けたため、株主利益を毀損する活動だという批判的な声もありましたが、経営者は「我が信条」に従った活動を貫きました。

その結果、J&Jは短期的に失った売上や費用を補って余りあるほどの評価と信頼を獲得し、その後40年間、業績を飛躍的に拡大してきました。

そして現代に視点を戻してみると、J&Jのオピオイド問題への対応では、オピオイド系鎮痛薬市場に占める割合は1%以下と極わずかであることもあり、責任を否定し、控訴をしています。

そのこと自体の是非は、私にはわかりません。

ただ、経営理念が形骸化することなく、顧客への責任が果たされることが、全てのステークホルダーの明るい未来につながることだけは確信しています。

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遠藤 直紀(ビービット 代表)
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