ドコモ完全子会社化は「携帯料金4割下げ」の実現につながるのか
こんにちは、電脳コラムニストの村上です。
菅内閣による「携帯料金4割下げ」の圧力が、大きな山を動かしました。もちろんそれだけが理由ではないとのことですが、一体化による余力が値下げの原資確保にもつながりますし、NTTは政府が33.33%の株式を保有していますので先を見越した判断かと思われます。
NTTは29日、上場子会社のNTTドコモを完全子会社化すると正式発表した。30日からTOB(株式公開買い付け)を行い、他の株主から3割強の株式を取得する。取得価格は1株3900円で、28日終値(2775円)に4割のプレミアム(上乗せ幅)をつける。買収総額は約4兆2500億円と、国内企業へのTOBでは過去最大となる。
~筆者略~
完全子会社化により、グループ一体で次世代通信規格「5G」の分野に投資し、世界での成長につなげる。菅義偉首相が求める携帯電話料金の引き下げも見据え、経営を効率化する。
一方で、政府が民間事業に対して直接口をだすことの是非を考えなければなりません。大手携帯事業者(いわゆる3キャリア)はそれぞれが上場企業であり、適切なガバナンスと監督官庁の指示の元で健全な経営を続けています。政府の値下げ要請の発言な中には「寡占により大きな利益を上げている」ことを問題視するようなものもありますが、株主のために利益を伸ばすのは当然のことであり、政府自身もETF大量購入により日本株を買い支えていることを鑑みると、間接的にその恩恵にあずかっています。
値下げを実現するのにもっとも効果的なのは、市場の競争環境を確保することです。これについては長年監督官庁である総務省がさまざまな指導をしていますが、いずれも不発に終わっています。特に通信と端末の分離を推し進めるべくSIMロック解除の義務化のときには、大手キャリアからは「持ち逃げリスク」が指摘されました。
これはガラケーのときにはなかったリスクです。いまやiPhoneやAndroidのハイエンド機種は世界で大人気であり、どこでも転売可能な製品です。みなさんが思うよりもこのリスクは大きく、びっくりするくらいの被害額があります。これを最小限にするため、店頭での本人確認や与信の厳格化や一人あたりの契約数の上限等、持ち逃げリスクを減らすために各社とも投資を続けてきました。持ち逃げされた分を国が補助してくれるのであれば話は別ですが、この損失は巡り巡って利用者が負担することになるのです。これはそもそもの「通信と端末の分離」が目指すところである「携帯を頻繁に買い換える人がお得で、それ以外の人には不利であるという不平等」と同じ構図を生み出しかねません。
ここでインドの携帯事業者の変遷をみてみましょう。政府が競争戦略を過剰に推し進めた結果として携帯事業者が乱立し、結局中小が撤退や合併して市場が混乱。1年余りで大再編が進み大手3社に集約されました。
この場合は新規参入した「リライアンス・ジオ」が通話やデータ通信を無料にする破壊的なキャンペーンにより既存事業者からユーザーを奪い、また実質無料の端末によりユーザーの裾野を広げることに成功しました。これは目先の大赤字に耐えられる財閥のバックボーンがあってこそ実現可能だったアイデアですが、国内の携帯料金を大幅に引き下げる結果となりました。
そして、巨額な周波数帯オークションの落札額や電波利用料により、政府の収入を増やすことを目論んでいます。
これが大手3社のうちボーダフォン・アイデアを倒産に追い込みかねないと指摘されており、もし実際にそうなった場合は2社独占となり市場の健全性は損なわれる可能性が高いでしょう。
実効性のある値下げ要請のためには、まず総務省によるこれまでの競争促進施策が総括することからはじめる必要があります。そのうえで、必要であれば携帯電話事業の構造を変えるような大ナタを振るうべきでしょう。たとえば固定費を大きく下げる可能性がある上下分離を義務化し、第3セクター方式により携帯基地局のタワー事業を立ち上げて各キャリアでシェアする方式にする。また、この基地局シェアリングが促進するようなインセンティブ施策を進めるなどです。
結局のところ値下げには原資が必要です。大幅に既存事業のコストを下げるための抜本的な構造改革なしに、携帯料金4割下げは実現し得ないと考えています。(もしくは、再度国有化するかですね。。。)
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タイトル画像提供:清十郎 / PIXTA(ピクスタ)