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小売の集客を決めるもの


筆者は今まで9つの企業でマーケティングの仕事に携わってきましたが、その中には、リテールが3社ありました。具体的には西友、ドミノ・ピザ、イトーヨーカ堂で、いずれも執行役員としてマーケティングの責任者を拝命していました。

業務の一環で「お客様が店舗を選んでくださる理由」の調査を行うことがしばしばありました。その結果は、店舗の立地・価格・品揃え・商品の品質(味)といった要素が並んだものでした。

今朝Webでニュースを見ていたら、これに関連する記事をいくつか見つけたので、雑感を記したいと思います。
まずはこの記事。

お客様が選んでくださる理由を満たす、というのはリテールビジネスで決定的に重要な客数を増やす鍵になることです。
しかし、立地が重要、と言っても一度作った店舗はおいそれとは動かせないし、価格と言われても、いたずらな値下げは(1)利益を直撃するし(2)価格と品質のイメージは原則比例することから簡単ではありません。

そうなると、自店でしか取り扱っていない人気商品を増やして、これを「お客様が選んでくださる理由」として確立していく、という機運は勢い上がってくるわけです。

この手法により確かに客数は上がるでしょうが、一つの商品が訴求力を持って集められるお客様の範囲は限定的なので、客数を恒常的に上げるためには、恒常的に新しい商品を導入していく必要があります。
言うは易し、行うは難し、です。

筆者はリテールに勤務している時、この独自商品による集客、という考え方を一般化して「New News」というテーマでマーケティング施策開発を行なっていました。
「New News」というのは、ちょっと変な英語なのですが、つまりは常に何か目新しいニュースを発信して話題を作り、それをもとに集客する、という考え方です。

このように考えると、集客にあたって商品開発は(非常に重要なものではあるものの)必須ではなくなり、マーケティング施策開発の自由度が上がります。

筆者のチームが展開し「New News」には、例えばこんなものがありました。

・価格を引き下げる商品の決定を、お客様の投票により決定する
・価格認知が足らないカテゴリーを強化するために、カテゴリー外の競合を引き合いに出す
・バスケットプライス、という耳慣れない概念を定着させるために、珍妙でインパクトのあるクリエイティブを使う
・PB商品とNB商品の人気投票・ガチンコ対決を行う(実施にあたっては店内の好位置で陳列を行うので、NBも売上が伸びるのがミソです)

ちなみに、現在、ニュースの発信により支持を集めている嚆矢はファミリーマートです。

https://comemo.nikkei.com/n/n6bfa35c86c04

筆者が取り上げたこの施策はほんの一例であり、同社は新商品、コラボ企画、価格強化など、本当に色々なニュースを矢継ぎ早に発信しており、上に指摘した「一つの商品が訴求力を持って集められるお客様の範囲は限定的なので、客数を恒常的に上げるためには、恒常的に新しい商品を導入していく必要がある」という点を見事に克服しています。

手数と話題性を高いレベルで維持し続けている同社のマーケティングに、大いに敬服するものです。

一方で、こういうニュースもありました。

オーケーは、低価格で定評のあるスーパーですが、PBなどの独自商品開発よりもNBの価格を下げることに注力する、と先ほどの記事と逆のことが主張されています。
同社はEDLPにより低価格を実現しています。
EDLPとは、一部の商品の値段を特売によって下げるのではなく、恒常的に全商品の値段を下げるやり方で、価格を変動させないのでオペレーションが安定しコストが下がる、一旦認知ができると客数・買い上げ点数ともに上がる、などの特徴があります。
「一旦認知ができると」というところが曲者で、赤字覚悟の目立つ値付けができないので、なかなか伝わらない、という難しさがあるのですが、これを我慢してやり切ると

(1)客数ベースや買い上げ点数が増加してくることによる売り上げを、価格に再投資(つまり更なるEDLP強化)することにより客数・買い上げ点数がさらに上がる
(2)販売点数が上がるので原価交渉力が上がる。下がった原価分は価格に再投資することにより客数・買い上げ点数がさらに上がる

というループが回り始め、ビジネスは好転しだします。
つまり、オーケーの値下げは、利益を直撃するようないたずらなものではなく、サスティナブルなビジネスモデルに基づいている、というわけです。
では「低価格は、品質イメージを毀損しかねない」というポイントはどうでしょうか?
オーケーでは、カテゴリごとに値付けと品質のポリシーを掲げており、例えば
・加工食品はどこで買っても同じなので、どこよりも安い値付けをする
・生鮮は安全性と味が第一なので、(1)品質(2)価格の順で大事にする
などのコミュニケーションを展開しています。
これらがきちんと伝われば、品質イメージの毀損は起きないか、最小限で留められ、低価格による強力な集客はより確実になるのではないか、と思われ、死角がありません。

さて。

顧客調査上では、あまり上位には上がってこない、しかし小売の売上を大きく左右するポイントがいくつかあります。

その筆頭は品切れです。
品切れは、当日の売上機会損失になるだけでなく、将来の自動発注における需要算定を下振れさせる(その結果少ない数量しか発注されず、店頭がどんどん品薄になる)という側面を持ちますので、小売としてはまずは回避すべき事態です。
品切れを回避するようにきちんとメンテナンスされたコンディションと、そうでないコンディションでは、直感的ですが2−3%程度は売り上げが変わってくるのではないかと思います。

商品の配置も重要です。
あるカテゴリーが店内のどこにあるのか(レイアウト)、それぞれの商品が棚の中のはどこに置かれているか(棚割り)、おすすめ商品がわかりやすく配置・説明されているか、といったことが、直感的に分かりやすくなっているかとそうでないのでは、やはり売り上げは数%変わってきます。

それから店内の温度・照明などの環境要因も重要です。

工夫により空調コストをコントロールするのは、やるべき施策だと思いますが、最近、時折什器の中の照明を落とし、商品の視認性や店内の明るさを落としているチェーンを最近見かけます。こちらは要注意だと考えます。

震災の直後、節電から通路や什器の照明を落とす、という動きがほぼ全チェーンで見られました。これは非常時の対応として好意的に受け入れられました。
それからしばらくし、電力がある程度安定すると、暗い状態を保ったままのチェーンと、明るい状態に戻したチェーンに二分されたのですが、筆者の感覚としては、暗いところでは買い物する気が起きませんでした。

これらの事象について、当時筆者は、照明ダウンが、結果的に水道光熱費の低減という小売として好ましい形で作用してしまったゆえに定常化しかけてしまったチェーンと、そうでないところがあった、ということだと解釈していました。

震災直後ではないにしろ、この夏は電力逼迫の状態にあったので、今現在の照明ダウンは好ましいものとして受け入れられると思いますが、安定後に同じ状態をつなげるかもしれません。各チェーンは目先のコストと集客力をおかしな形でトレードオフにすることの無いように、戦略的な判断を望むものです。

読者の皆様は、どうお感じになりますか?

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