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消費者を主語にする。(約10000字で理解する「ジョブ理論」)

このブログは「モバイルアプリマーケティングアドベントカレンダー2021」の25日目の投稿です。面白いと思っていただけたなら「#アプリマーケアドベント」をつけてシェア下さると嬉しいです。


「TikTok売れ」という供給者目線ワード

インスタグラムの普及によって「インスタ映え」する商品がヒットしたり、観光スポットに多くの人が集まるという現象が見られたが、それがTikTokにおいてはさらに加速しているということも言えるだろう。日本では、「SNS活用」というと企業の公式アカウントを作成して情報発信をすることをイメージする人がまだまだ多いようだが、「TikTok売れ」や「インスタ映え」において主役となるのは企業の公式アカウントの投稿ではなく、ユーザーの投稿というのがポイントだ。

先日、前職のデコム大松さんから「松本くん、"TikTok売れ"って言葉、おかしくないですか?」と連絡を貰いました。最初は意味が分からなかったのですが、説明を受けて、私も「あ、なるほど」とリアルに膝を打ちました。要約するとこんな会話をしました。

「TikTokが物やサービスが購入されるキッカケになっているのは分かった。実際、物やサービスは"売れている"のだろう。しかし、それは供給目線だ。需要目線なら"買っている"とならないか。したがって消費者目線に立つなら"TikTok買い"と言うべきではないか」

「TikTok売れ」という言葉を、いつ、どこで、誰が言い始めたのかは分かりませんが、確かに供給者サイドな発言だと思います。加えて、TikTokが「いやいや、"売れ"じゃありません。"買い"ですよ」と修正しないあたりが、彼らにとっての"顧客"が誰なのかを物語っています

日経トレンディが発表した「2021年ヒット商品ベスト30」によると「TikTok売れ」が1位に選ばれたそうです。さすが、日経。いつだって目線は供給者ですね。(皮肉です)

ビジネスに携わるなら、せめてマーケターであるならば、消費者を主語にしなければならないでしょう。なぜなら、物・サービスを買うと決めるのは消費者だからです。企業側が供給する物・サービスがどれほど高品質でイノベーティブだったとしても、買われなければビジネスは成立しません。

ドラッカー「マネジメント」(ダイヤモンド社)から引用します。太字強調は私になります。

真のマーケティングは、シアーズが顧客の人口構造、顧客の現実、顧客のニーズ、顧客の価値からスタートしたように、顧客からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を考える。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が見つけようとし、価値ありとし、必要としている満足はこれである」という。

めちゃくちゃ大事な内容なので、誤読の無いように原著「management:Tasks, Responsibilities, Practices」からも引用しておきましょう。太字強調は私になります。

True marketing starts out the way Sears starts out ー with the customer, his demographics, his realities, his needs, his values. It does not ask, "What do we want to sell?" It asks, "What does the customer want to buy?" It does not say, "This is what our product or service does." It says, "These are the satisfactions the customer looks for, values, and needs."

ドラッカーの言うように、私たちはついつい、企業側・供給者の目線で物事を判断しがちです。

その結果、消費者が買う理由になっていない新商品が発売され、使う理由になっていない新機能が搭載され、驚くほど消費者からスルーされて、企業にとって残念な黒歴史となるのです。

なぜ消費者目線に立てないか。理由は簡潔です。職場内で交わす言葉の主語が消費者では無いからです。頭の中が供給者目線なのですから、作る物・サービスも供給者都合に仕上がります。言い換えれば、主語を消費者にする限り、自然と目線は消費者に立たざるをえません。

音部さんの「The Art of Marketing マーケティングの技法」でも、冒頭に次のような言葉があります。

パーセプションフロー®︎・モデルは、製品や流通経路・販売の視点から「どのように売るか」という旧来型のアプローチではなく、消費者の視点から「どのように欲しくなり、満足するか」を考え、可視化します。

「あ、なるほど」とリアルに膝を打ちました第二弾。

(それだけでは無いのですが)見方は重要であり、それを言語化することで初めて気付くこともあります。視点はすごく大事だと思うのです。

私の勤めるJX通信社では、行動指針として「FOCuS」(社員の考えるJX通信社らしさ)を定めています。その中の1つが「Customer first」(常に顧客志向)なのです。私が「消費者を主語に…」と口にしても、受け入れて貰える素養がJX通信社にはあります。(それを期待されて入社させて頂いたとすら認識しています)

そこで今回は、JX通信社における経験を通じて得た「消費者を主語にする」仕事の進め方・考え方について、雑多ではありますがまとめました。理論的背景として「ジョブ理論」の影響を強く受けていますので、ところどころ引用しています。


顧客は価値を買っている

改めて自社の企画書を読み返して下さい。以下のような書き振りになっていないでしょうか?

〜という機能を実装し、ユーザーに課金してもらう。
〜をローンチし、大々的なマーケティング活動により10万DL /日を目指す。
〜ができるようになります。
〜を必要としているユーザーに使ってもらえる。

こうした表現は、いずれも供給者目線かもしれません。4行目は「なぜ必要としているかファクトを元に言語化してください」と依頼するでしょう。ファクトが無いなら、やっぱり供給者にとっての願望に過ぎません。

例えば、次のように書き換えられるでしょうか。

〜という悩みを抱えているユーザーは、代替手段として〜をしているけど、満足していない。〜という価値を実装できれば、今の代替手段として1度使ってくれるかもしれない。

消費者に、強制的に物やサービスを買わせることはできません。買ってみようと思わせ、かつ実際に行動してもらうしか、売上は作れません。そのためには、消費者の抱えている「問題」「悩み」を解決する物やサービスでなければいけないでしょう。

クリステンセン「ジョブ理論」では、次のように表現しています。太字強調は私になります。

私たちが商品を買うということは基本的に、なんらかのジョブを片づけるために何かを「雇用」するということである。その商品がジョブをうまく片づけてくれたら、同じジョブが発生したときに同じ商品を雇用するだろう。ジョブの片づけ方に不満があれば、その商品を「解雇」し、次回には別の何かを雇用するはずだ。

喉が渇いたなら、喉を潤すために商品を「雇用」する。ちょっとした隙間時間が出来たなら、暇を潰すために商品を「雇用」する。そうして自社の売上が作られていくのです。

単純な表現に見えて奥が深いのは、消費者は物やサービスを買っているのだけれど、それ自体を買っているわけでは無い点です。物やサービスの価値を買っているのであり、ジョブ理論で言うところの「雇用」しているのです。

クリステンセンはファストフードのプロジェクトで「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか」という答えを求めて調査を行なっていました。そこで「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを"雇用"させたのか」を考えることにしました。

これは面白い切り口だと感じた。来店客はたんにプロダクトを買っているのではない。彼らの生活に発生した具体的なジョブを、ミルクシェイクを雇用して片づけているのだ。特定の商品を買う、という行為を引き起こさせる原因は、われわれの誰にでも毎日起きている。日々の生活のなかで片づけたいジョブが発生し、それを解決するために何かを雇用する。

なぜ消費者はミルクシェイクを買うのか? それはミルクシェイクが欲しいからだ、では答えになっていません。ジョブ理論は「なぜ」に答える理論だと私は考えます。

ちなみに正解となるジョブは「朝の通勤のあいだ、ぼくの目を覚ませていてくれて、時間をつぶさせてほしい」だそうです。そのための競合としてバナナ、ベーグル、ドーナツ、栄養バー、スムージー、コーヒーが思い浮かびますが、ミルクシェイクが一番上手くジョブを片づけるのです。それこそがミルクシェイクの持つ価値の1つなのでしょう。

消費者は行動としてはミルクシェイクを買っているが、求めている価値としてはミルクシェイクを買っていないのです。

ドラッカーも似たような発言をしています。先ほどと同じく「マネジメント」(ダイヤモンド社)から引用します。太字強調は私になります。

 顧客は製品を買っていない。欲求の充足を買っている。彼らにとっての価値を買っている。
 メーカーは消費者を非合理的であるという。しかし常に原則とすべきは、非合理的な消費者など存在しないということである。消費者は、消費者にとっての現実に基づいて合理的に行動している。
 ファッションは、10代の女の子にとっては立派な合理性である。食と住のほうは親がかりである。ところがそのファッションが、もはや週末に遊びに行くことのない若い主婦にとっては二儀的な条件にすぎない。
 顧客が買うものは製品ではない。欲求の充足である。顧客が買うものは価値である。これに対し、メーカーが生産するものは価値ではない。製品を生産し販売するにすぎない。したがって、メーカーが価値と考えるものが、顧客にとっては意味のないムダであることが珍しくない。

「顧客が買うものは価値」と聞いて思い起こすのは、19年7月23日に公開された日経クロストレンド「「サントリー天然水」成長の原点は“首掛けPOP事件”の大失敗」です。この記事は非常にインサイトに満ちていて、自著「人は悪魔に熱狂する」でも引用させていただいたほどです。

当時指標にしていた一部コンビニでのシェアが約47%から約38%へ下落した理由を知るために「サントリー天然水が大好き」超ヘビーユーザー約300人の声を、片っ端から調べ始めたそうです。

その結果、「すごく涼しい」「ひんやり気持ちいい」「すがすがしくて、思わず深呼吸したくなる」など、水のことを聞いているのに水以外の回答が返ってくることに気付きました。そして担当者は気付きます。

「都会で満員電車から出て会社に向かう前のコンビニであの南アルプスの空気が吸えたら、さぞ気持ちいいだろうと。そこに天然水の本当の価値があると考えた」

消費者は行動としてはサントリー天然水を買っているが、求めている価値としてはサントリー天然水を買っていないのです。「南アルプスの冷たく澄んだ空気を体の中に取り込める気持ち良さ」を買っています。私たちメーカーは、物やサービスが売れているから「支持されている」と思い込むのですが実際には違うのです。

ちなみに、サントリー天然水の提供している価値が「南アルプスの冷たく澄んだ空気を体の中に取り込める気持ち良さ」なら、代替手段を提供する競合は例えば「登山」ではないでしょうか。しかし登山までは大半の人が辛いしダルいから、大勢の人がサントリー天然水を購入するのです。

競合を「同じ業界の他社」と見なすのは視野狭窄です。課長視野狭窄。

デジカメの競合はカメラ付きケータイでした。「これが良い」より「これで良い」と低機能・低画素を選択しました。小説やマンガの競合はインターネットで見れる無料のコンテンツでした。なんで「紙」にのみ固執してしまったのでしょうか。

JX通信社の開発するニュース速報アプリ「NewsDigest」の競合として、名前を聞くのは「SmartNews」「Yahoo!ニュース」です。確かに「ニュースアプリ」の側面がありますが、どのニュースアプリよりも速報を早く受け取れる機能がめちゃくちゃ刺さっており、ユーザーインタビューを通じて「世の中の出来事をいち早く知る手段」こそ競合であると感じています。

もっと言えば、なぜ消費者が「世の中の出来事をいち早く知りたい」と感じるのか、その欲求の源泉を「NewsDigest」は理解し、実践しています。

どれくらい速いかは、アプリをDLして体感してみて下さい。

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ジョブの定義、ニーズとの違い

マーケティングにおいて、見つけるべきは「消費者のジョブ」です。消費者が特定のプロダクト/サービスを購入して使用する行為を、ジョブ理論で読み解けます。

ジョブ理論の基本属性は「進歩」と「状況」で理解すると良いでしょう。

われわれはジョブを、"ある特定の状況で人が遂げようとする進歩"と定義する。重要なのは、顧客がなぜその選択をしたのかを理解することにある。ゴールへ向かう動きを表すため、あえて「進歩」ということばを選択した。
ジョブの定義には「状況」が含まれる。ジョブはそれが生じた特定の文脈に関連してのみ定義することができ、同じように、有効な解決策も特定の文脈に関連してのみもたらすことができる。

いずれも、ファクトであることが重要です。マーケターの願望は不要です。たまに「これって事実なの?」と聞くと「統計情報ではそう」「聞いてはないけどそう思う」という解答をくれる人がいますが、ここで求められる進歩や状況はN1レベルの解像度が求められるので統計は不要ですし、確認できないなら「捏造」です。1番やってはいけない。

ちなみにクリステンセンは「あなたが売るのはプログレス(進歩)であって、プロダクトではない」と表現しました。そりゃ、そうです。

例えば、数年前に「21世紀の資本」という超絶難しいバカ厚書籍がバカ売れました。最後まで読み終えた人は数%でしょう。それでも、みんな買っているからという理由や新幹線で移動中の暇つぶし、あるいは周囲から「賢い人物」と見られるために買われたのです。これこそがジョブです。

ただし、暇つぶしのために誰もが「21世紀の資本」を買うとは限りません。「賢い人物」と見られるために池上彰さんの書籍を選ぶ人もいるでしょう。消費者が行動に移るその瞬間の特定の状況にこそ、選択される確率が「21世紀の資本」に高まる理由があるのです。

ちなみに、私自身もよく誤解するのですが、クリステンセン曰く「ニーズ」と「ジョブ」は違うようです。

ニーズはつねに存在し、漠然としている。「私は食べる必要がある」という表明は、ほぼつねに真実である。「健康的でいたい」や「定年後に備えて貯蓄する必要がある」も同様だ。これらが消費者にとって重要なのはたしかだが、そのニーズをどのように満たすのかはぼんやりした方向性しか示されない。

私は、ニーズを「誰もが否定しない欲求」だと定義し、社内でも「多くの人が首を縦に傾げる欲求を見つけたい」と訴えています。

例えば、楽をしたい、責任を負わずに大金を稼ぎたい、満腹になりたい等、いずれも「誰も否定しない欲求」です。しかし人は理不尽で、率先して苦労したり、義理人情で責任を負ったり、ダイエットのために食事を控えたり、何かしら行動に矛盾を抱えるものです。

「ジョブ」という行動の状況が見えない限り、ニーズだけでは行動を説明できないのです。

ここまでの説明を図で表現すると、以下のようになります。

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①消費者はいつもニーズの先にあるジョブを片付けるために、物・サービスを雇用している。

②私たち企業はジョブを完璧に片付ける提供価値を実装する。

③その機能からして、代替手段として雇用されている物・サービス全てが競合であり、カテゴリ軸・市場軸は意味が無い。

これで、私たちマーケターが主語を消費者にしなければならない理由が伝わるでしょうか。摂理は①から始まるのに、なぜか②から始まるから混乱するのです。しかも片付けるジョブを見ないで。

加えて、ジョブは変化しなくても、雇用される物・サービスは変化します。誰かに連絡したい時、昔は手紙でした。それが固定電話になり、携帯電話になり、メールになり、今やLINE、チャット、Slackと手段は様々です。

物やサービスを追う限り、本質を見失います。


ジョブを見つけるには?

ジョブの見つけ方は様々な流派があります。例えば、クリステンセンによると、ソニーの盛田昭夫は「人々の生活を注意深く観察して彼らの望みを直観し、それに従って進む」と言ったそうです。

このように「観察する」派のほか「自分と対話する」派、「インタビューする」派、「ビッグデータ」派などに分かれ、どれが良いかと優劣を付けることは宗教戦争を引き起こします。どれも良いのです。手法はともあれ、いずれもファクトをもとに、消費者の解像度を高める手法に変わりありません。

足立光さんと土合朋宏さんが訳したエリック・シュルツ「マーケティングゲーム」では、次のように表現しています。太字強調は私になります。

優れたマーケティングを行っている企業は、(略)一般的な調査方法よりも優れた方法を常に模索し、より深く広く消費者理解をしようと様々な試みを行っている。消費者理解に関するノウハウや手法を、競合に対する競争優位にしようとしているのである。(略)
あまりに当たり前のことかもしれないが、日常生活の中で少し注意を払うことで、50万ドルもかかるような調査(たいていは、マジックミラーのこちら側から消費者をのぞき見る経験と、数本の報告用ビデオテープが残るだけである)と同じくらい興味深い示唆を得ることができる。派手な消費者調査に惑わされてはいけない。優れたマーケティングを行っている企業は、「現実世界の理解は、現実世界の中でしかできない」と十分に理解しているため、その手法を独自に構築しようとしている。

ちなみに「NewsDigest」では、これまで何度も定性調査を実施しており、ユーザーインタビューを通じて様々なジョブを発見してきました。そこで最後に「ジョブを見つけるためのインタビュー方法」について書きましょう。

まず大前提ですが、事前のスクリーニング調査で「フアン」を集めたとしても、自社サービスについては1日5分も没頭して考えた人なんてまずいない、という事実を受け止めましょう。無印良品やスタバのような熱狂的なファンがいる物・サービスでも無い限り、自社サービスのことなんて、実際にはなーんとも思っていません。

実際、私は20代の頃、効果測定システム「アドエビス」の開発マネージャーだったのですが、「アドエビスのファンです」と言ってくれる人で似顔絵をちゃんと書けた人は5%もいませんでした。

アドテックの展示ブースを練り歩くエビスくんを広告代理店の人が「ほら、あれ、なんだっけ?」と言っている姿を見て「お前んトコの会社、Tier1やぞ!」と毒づきました。そんなものです。

消費者は、皆さんが思っている以上に、思い入れがありません。その前提に立たないとインタビューでガッカリします。質問を作るにしても「フアンの人だから」と作り込みすぎると、時間の無駄になるだけです。フアン=接触回数が多い、ぐらいに引いて考えましょう。

例えば、仕事の隙間を縫って1日1回はコンビニに行きます。何かを買いたいからではなく、短時間ながら周囲の景色も変わり気持ちの切り替えに効果的だからです(これは最近気付いたジョブです)。しかしデータ的には「月金で通うヘビーユーザー」のように見えるはずです。実際には、5分だけ立ち寄れるスタンディングコーヒーバーがあれば、むしろそちらに通うのですが。

したがって、残念ながら「あなたのジョブは何ですか?」と問われて、私たちマーケターに必要な答えを口にしてくれる可能性は0%に近いです。どうでもいい経験について理由を問われても、どうでもいいから、どうでもいい回答しか返ってきません。「NewsDigest」におけるユーザーインタビューでも「使ってくれる理由」は聞いても、真には受けませんでした。

クリステンセン「ジョブ理論」では、次のように表現しています。太字強調は私になります。

消費者が自分の望みをつねに明確に説明できるとは限らない。たとえできたとしても、彼らの行動と一致しないことがある。もし、環境にやさしい生活を心がけているかと訊かれたら、大半の人がイエスと答えるだろう。(略)環境にやさしくない生活をしたいとわざわざ望んではいなくても、現実に何かを生活に引き入れる場面となると、人はそのときの状況で自分にとって最も価値が高く、失うものが最も少ない解決策を選択する。

玉ねぎの皮を丁寧に剥くように、消費者の発言を寄り分けていけば真実にたどり着くこともあるでしょう。しかし、そこにリソースを割くなら、より手っ取り早い方法があります。

購入した後、使った瞬間の感想を聞くのです。ジョブを片付ける「雇用」をしたのですから、解決したかどうかを確認するのは当然です。物・サービスを試した(価値を感じた)瞬間と期待値の差分を知れば、消費者がどんなジョブを解決したがっていたかは自然と言語化できるでしょう。

クリステンセンは購入した瞬間を「ビッグ・ハイア」、実際に使う時を「リトル・ハイア」と名付けて「ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない」と言いました。

FB広告流入はGoogle広告流入よりCVRが0.5ポイント高かったとしても、そこからジョブが片付いたかどうかなんてわかりません。ましてや、ユーザーインタビューをしても、購入する瞬間の前後ばかり聞いていてはリトル・ハイアはさっぱりわかりません。

繰り返しですが、知るべきは「リトル・ハイア」です。その時に味わったベネフィットにこそ(期待通りにしろ期待外れにしろ)、ジョブが隠されています。


消費者を主語にする

最近社内で「供給者目線のまとめ方」と口にすることがあります。消費者が何を求めているか知るのに、供給者目線のカテゴリで区切ってラベルを付けても、何もわかりません。

何か新機能を作る、或いは新サービスを開発する時、すぐに「競合は?」と聞く人がいます。間違ってはいないのですが、上沼恵美子風に言うと「気絶をして」しまう発言ですし、はっきり言って「嫌い」です。

まずは、それを欲している人の確認、行動や態度の観察、それから競合なのです。順番の問題ではあるのですが、お尻を紙でふいた後、クソする人はいないでしょう。順番は大事なのです。

それでも心が挫けそうになったら、先行して活躍されている諸先輩に目を向けるようにしています。例えばキリンの山形さん。

「顧客が何を考えているのか、朝起きてから夜寝るまでの生活を何人にも、何人にも聞いて、その温度感を感覚として持つほかはない」(山形氏)と言う。そして、街を歩いていても、電車に乗っていても、人間に興味を持って観察を続ける中で太くて大きなニーズの形を探り出す。

「判断基軸をお客様に」で提示された「Before / After」図は最高にクレイジーです。しびれます。もちろん最終的にはクラスター分析なり何なりされているんでしょうが。

ドラッカーは「マーケティング」の発明は日本だと表現します。先ほどと同じく「マネジメント」(ダイヤモンド社)から引用します。太字強調は私になります。

1650年頃、今日の東京に進出してデパートの原型となるものを開店した三井の人間によって、マーケティングは発明された。シアーズの250年前に、顧客のためのバイヤーとなり、顧客のために製品をつくり、顧客のための仕入れ先を育てた。返金自由とし、多様な品揃えを旨とした。三井家は、当時の社会の変化が、新興ブルジョワジーという新たな顧客層を生んだことを知っていた。
こうして彼らは、今日まで続く日本一の百貨店チェーン三越をつくり、製造、商業、金融の一大財閥三井をつくりあげた。

なんやかんやあるのですが、今こそ改めて、消費者を原点に、消費者を主語にビジネスをしたいものです。

以上、お手数ですがよろしくお願いします。

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松本健太郎
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