マーケティングとブランディングの重なるところ
われわれオシロ社は、自社プロダクトである「OSIRO」の開発開始から換算すると、10年近くコミュニティが持つ力の解明に尽力し、さまざまなクリエイターやブランド、企業の方々にコミュニティをご導入いただいてきた。傾向としてコミュニティを「マーケティングの一環」もしくは「ブランディングの一環」と想起される方に分かれるように感じる。
しかし、われわれの視点から見ると、コミュニティはマーケティングとブランディングの両方の要素を兼ね備えた存在だったりする。では、実際にどのような部分がマーケティングの要素であり、どの部分がブランディングの要素なのかについて、今回は綴っていきたい。
ブランディングからマーケティングが滑らかにつながっているコミュニティ
実際に、コミュニティにはどのような「マーケティングの要素」と「ブランディングの要素」があるのか。以下に列挙してみたい。
マーケティングの場合、主眼に置かれるのは「顧客にどれだけ作品や商品を買ってもらえるか」だと思う。そのため、一番対象に刺さるところに予算を投入し、購買につながる施策をする領域。一方で、ブランディングは作品や商品に対して、「好き」という感情をつくっていく領域だ。コミュニティについてご相談をいただく際には、いずれかの領域に着目されている場合が多い。
しかし、コミュニティは「マーケティングか、ブランディングか」の二者択一で考えるのはとてももったいないと感じている。なぜなら、上記にあげたすべての施策ができるからだ。つまり、ファンの「好き」を醸成する営みが、そのまま売上へと直結するような仕組みになっているのだ。
量から質へ、短期から中長期へ
現在、「数万人規模のファンを抱えているコミュニティ」を運営しているが、盛り上がらないという相談を受けることがある。しかし、短期的に集まった数万人もの人々は果たして「ファン」なのだろうか。
コミュニティの主要KPIに会員数を掲げているところも多い。そのため、なるべく短期的に多くの「ファン」を集める施策をされる。しかし、コミュニティで最も大切なのはファンの数以上に「質」だといえる。数を追い求めるのでは、従来のマーケティングやメディアと大きく変わらなくなってしまう。
ファンがどれほどの「好き」を持っているかは、お金をいくら使ってくれたかという指標より、どれほどの「熱量」を持っているのかでしかわからない場合が多い。一方で、ファンのことを知る指標はSNSのフォロワーの数や、LTV(生涯価値)などに限定されていた。
しかし、定量的な指標だけでは見えてこないこともある。例えば、SNSでのフォロワーが3万人であるとしても、果たしてそれがどれだけ好意を持つファンであるかどうかはわからない。また、単純なLTVだけでもファンはクリエイターやブランドのどのような部分に「好き」と感じているのか、どれほどの熱量を持っているのかもわからないのが実情だろう。アンケートからもファンの本音は見えてこない。
OSIROを導入いただいているコミュニティでは、上記のような指数を計測できるだけでなく、ファンの「熱量」を測ることもできる。そもそも、クローズドなメンバーシップコミュニティに集まる人々は、純度100%のファンであり、当然ピュアなファンが集まるコミュニティでは、熱量も高く発信量や行動量も桁違いに高い。
コミュニティの良さは、そのようなファンとファンが同じ熱量で会話できることはもちろん、顧客という垣根を超えた本音のコミュニケーションが取れることにある。そのような交流が取れるからこそ、ファンはより深くクリエイターやブランドのことを知り、さらに熱量が高まっていく。こうした体験を通じてファンは日常がより豊かになり、購買だけでなく、他の人に口コミしたりと、推奨される行動となっていく。
そのような行動が、ごく自然に行われていく。これがコミュニティの「真の姿」だ。
好きになり、熱量が上がり、幸福度が高まると、売上は後からついてくる
OSIROを導入いただいているお客さまを見ると、やはりコミュニティには「好き」という感情や「熱量」が高まるのに適していると感じる。同時に、それがしっかりと売上にもつながっているのだ。例えば、世界中の美味しい食のセレクトショップであるDEAN & DELUCAさんのメンバーシップコミュニティでは、一人あたりの来店回数と購買がともに約3倍に増えたというデータも出ている。
昨今のマーケティング施策では「顧客体験」の向上が着目されている。下記の記事にあるように、ECが当たり前の時代であるからこそ、あえてお客さまが「その場でしか味わえない体験」「そのブランドが好きになるような体験」を提供し、ファンを獲得すると同時に売上も向上させている事例もある。
目先の売上を追って広告を打つマーケティング施策だけではなく、まずはブランドそのものを「好き」になってもらい、その「熱量」をちゃんと育んでいく場所があったほうがいいし、デジタルの場でも同じだろう。
大切なのは、短期的思考で売上向上を狙う施策ではなく、ファンの「熱量」を上げるだけでもなく、その両方が滑らかにつながる「場」を意識していくこと。そしてなによりもステップを考えることが大切だ。ファンの「好き」と「熱量」を育み、長期的な関係値を築いていく。結果売上に寄与するという循環。これが豊かなコミュニティを醸成することで生まれビジネスに貢献するポイントだ。