2022年7月から半年にわたり開催されたGX実行会議。このレベルの会議にしては、かなりインテンシブに開催され、この会議に合わせて各省の審議会などの議論も進められたので、全体像が今一つ伝わっていないと感じます。これから何回かにわたってになると思いますが、少しずつ書いてみようと思います。

まずこの記事ですが、気候変動エディターの方から見ると、このように捉えられるのかもしれませんが、いくつか「おかしなところ」があります。

>基本方針では「再生エネを最大限活用」と明記した。ただ橘川武郎国際大学副学長は16日の経済産業省の有識者会議で「電力が足りないという危機になれば、主力電源の再生エネをどうするかとの話から入るのが普通だが、その話はわずかだった」と疑問を呈した。

これは記者さんではなく、橘川さんに申し上げるべきことでしょうが(NHK日曜討論でも同じことを仰ったので、指摘しようと思ったのですが機会が無かった)、「電力が足りないという危機」は現状、「太陽光が発電しないとき」に起きています。冬の曇天や降雪、夏の夕方です。こうしたタイミングで起きている電力危機に対して、「太陽光をもっと増やせ」という話をしても解決の手段になりません。橘川さんおよびこの記事は再エネという表現をしているので、太陽光だけでなく、風力や地熱なども含んだ発言ではありますが、大規模な風力や地熱が稼働開始できるのは環境アセスなども含めて8年はかかります。当面の電力供給ひっ迫の役には立ちません。
これくらいのことは再エネのことをずっと書いておられる記者さんなら当然気がつくべきことです。

蓄電池等の増強という手段も考えられますが、それは今回の計画に盛り込まれています。ただし、蓄電池もあとで書く送電線も、電気の「時間のシフト」と「場所のシフト」をするだけで、電気を生産する訳ではありません。費用対効果の分析をしながら、優先順位をつけて投資することが重要です。

再エネ政策の「遅れ」を日経新聞はじめ日本のメディアは必ず書くのですが、日本は電力需要が大きいので、電力需要に占める比率でいえば見劣りします。ただ、再エネ設備の導入量(kW)でいえば、世界第6位、太陽光は第3位です。
ここを必ず無視して、比率だけで遅れている、というのは、データの見方としてどうかと思うし、既に地方で多く発生している再エネと地域環境とのコンフリクトにも十分目配りしていないのではないかと思います。

そして、送電網の整備にも「ようやく」と言いますが、これまでの10年間相当の整備が進んでいます。東西の周波数調整設備も倍増されました。
再エネ導入のためには送電網を整備しなければなりませんが、稼働率の低い再エネを運ぶために送電網を整備すると、その送電網の稼働率は当然低いものになります。

送電線の整備は地図に線を引くように簡単なものではありません。用地交渉などは、発電所よりも難しい。そりゃそうです。先祖伝来の山なのに、鉄塔のための敷地だけ売ってくれと言われても抵抗があるのは当然ですし、送電線下の補償料など雀の涙です。そうした地権者への対応コストを引き上げることは、結局送電網整備費用を膨らませますので、限界があります。
厳しい山中で、高い鉄塔を建てるという工事そのものの難しさも加わって、時間はかかりますが、今まで何もやっていないかのような書きぶりは明らかな間違い。
11月に開催された広域系統整備委員会で報告された進捗状況はこちら。
広域系統整備計画の進捗状況について (報告)

読むほどにいろいろ書きたくなってくる(笑)。多様な考え方があるのは当然ですが、再エネ一神教的な思想に基づいてエネルギー政策論を書くと、バランスを失します。



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