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経済の血液をサラサラに

「今まで一番つらかったのは何ですか?」

身一つで創業し、一代で大企業を築いた経営者に、そう聞いたことがあります。「創業したばかりの、中小零細の時の資金繰り」。それが答えでした。

いざとなったら保険金で借金を返済できるよう、自分自身に生命保険をかけていたそうです。「川べりまで行って、飛び込んでしまおうと思ったこともあった」といいます。

そんな苦しい時でしたが、融資を決断してくれた銀行の支店長や、地域の先輩経営者らリスクをとって自分に賭けてくれた人たちがいました。その恩は「一生忘れられない」と言います。

経済や社会の仕組みを大きく変えるディスラプション(創造的破壊)の最前線を追いかける日経電子版の連載企画「Disruption 断絶の先に」。10日公開の回では、融資の現場でいま起きている大変革を取り上げています。

中小企業にとっては、今でも最大の経営課題は「資金繰り」です。低金利が続くなか、金融機関は利益率が高い長期間の融資を重視し、中小企業の資金繰り対策に不可欠な短期で少額の融資が停滞しているというのです。

「金融」とはお金を余っているところから、必要とするところに「融通」するのが仕事。「経済の血液」と例えられる金融の停滞は、血液がドロドロになって血管が詰まってしまう「経済の動脈硬化」と言えるかもしれません。

そんな中で現れたのが、データを利用して融資先企業の信用力を見極めようとする、新たな融資形態です。取引履歴などを人工知能(AI)で分析し、無担保で小口のお金を貸す「トランザクションレンディング」と呼ばれます。

産業界でもデータの蓄積が進み、それを使えば融資先のリスクをこれまで以上に細かく把握できるようになっています。新たな金融サービスを提供する金融機関以外のプレーヤーたちは、経済の血管に目詰まりを起こした金融という血液を、サラサラにする役目を果たしているといえるかもしれません。

(日本経済新聞社デジタル編成ユニット 太田順尚)

先端技術から生まれた新サービスが既存の枠組みを壊すディスラプション(創造的破壊)。連載企画「Disruption 断絶の先に」は、従来の延長線上ではなく、不連続な変化が起きつつある現場を取材し、経済や社会、暮らしに及ぼす影響を探ります。