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生産性をあげれば、人間は幸せになるわけじゃない【コラム16】

「生産性や効率性をあげろ! 」

よく言われることです。

人口減少が不可避で、借金だらけの日本は、この「生産性」や「効率性」をあげないと、将来立ち行かなくなると警鐘を鳴らす人が多いわけです。たとえば「日本人は無駄にだらだらと仕事しすぎだ」とか、長時間労働がやり玉にあげられます。政府が主導する働き方改革では、「働き方改革というより時短推進では?」と思いたくなるくらい、長時間労働の是正が叫ばれています。

しかし、多くの人が勘違いしていますが、日本人の労働時間は、90年代から一貫して下がり続けていますし、世界的に見ても、それほど突出して長いわけではありません。

2000年以降で見れば、アメリカやイタリアよりも年間労働時間は少ないのです。グラフにはありませんが、韓国やニュージーランドも日本より上に存在します。人生を謳歌してそうなイタリア人より、日本人の労働時間が少ないなんて意外ではないでしょうか?

© 荒川和久 無断転載禁止

「少ない労働時間で高い成果をあげる」ということもひとつの生産性向上だとは思います。要するに、「生産性をあげる」とは「無駄をなくす」という意味でもあります。

ですが、それって果たして本質的に正しいのでしょうか?

今回はそれについて考えてみたいと思います。

生産性もそうですが、効率化や合理化については、人類は長い歴史の中でそれを解決し続けていると思うんです。農業革命しかり、産業革命しかり、いま進行している情報革命もそうです。にも関わらず、無駄なモノや時間ってなくなりましたか?

なくなってないですよね。

効率化や合理化が失敗したわけじゃないんです。それ時点で生じた課題は、一旦解決されたとは思うんです。でも、俯瞰して見たら、無駄はなくなっていない。

これをキチンと認識すべきではないですか?

これは、無駄がなくならないというより、効率化されると、それまでになかった無駄が新たに創出されるという構造になっているからなんです。

例えば、かつて、文書は手書きでした。一文字間違ったら下手すれば全部やり直しとか、今から考えたら相当な無駄が発生していました。それがワープロやパソコンにより、文字校正とかは随分効率化されたはずなんです。だけど、だからといって仕事面の生産性があがったかというと意外にそうでもない。むしろ、いつでも、直前になっても直せるということから、ぎりぎりまで仕事をするっていう弊害も生んだことでしょう。

90年代、会議資料とかプレゼン資料の作成なんて、2日前くらいには完成していないといけなかった。なぜなら、当時大企業にさえカラーコピー機はなく、コピー作業自体を外部に依頼しなきゃいけなかったのです。そのため、その作業日分1日は必ずあけておく必要があった。だから、大事な会議の前の日は、案外早く帰れたわけです。

ところが、パワポなりで資料を自前で作成することができるようになると、前の日徹夜して作ることも可能になった。そうなると、結果、人間とはぎりぎりまで作業してしまったりするもんなんですよ。だって物理的にいつまでも修正できてしまうから。

単純に比較はできませんが、テクノロジーで便利になったからといって、無駄がすべて排除されるなんて簡単な問題じゃありません。むしろ、効率化・合理化を図ったがゆえに、新たな作業時間増という無駄を生んでしまった、とも言えるんです。

コンビニの24時間営業だってそうです。なまじ24時間開いているからこそ、実は時間当たりの生産性は悪くなっているんじゃないですか?限られた時間の中で売る、限られた時間の中で配送する。そういう制限があった方が、無駄が少なかったのかもしれない。

無駄をなくす。

一見、よさげに見えるんですけど、これって実は人間の生き方に対して逆らっていることなんじゃないですか?

無駄をなくそうとしても、どこかに新たな無駄が生まれる。いたちごっこです。それは、無駄をなくせない人間の限界のせいじゃなくて、無駄をなくすことそのものが人間として向いていないんですよ。無駄をなくそうとあがけばあがくほど、実は新たな無駄を生み出すのです。

大体において、「無駄をなくす」っていう言い方自体が上から目線なんです。資本家や支配者の論理なんですよね。労働者に対して「無駄なく働きやがれ」ってことですから。気持ちはわかりますが、無理です。ロボットじゃないんだから。

無駄をなくすってこと自体に、そもそも無理があるし、人間が生きるには、むしろ無駄が必要なんです。

無駄とは、「余白」です。余白のない絵、余白のない音楽、余白のない会話…。それってつまらなくないですか?そして、疲れてしまわないですか?

特に、「時間の無駄」ってやつ。あれこそ実は人が人らしく生きて行く上で必要なもんじゃないのかな、って思います。ドラえもんの「どこでもドア」があったら、一瞬便利かなって思いますが、あれによって、人は旅をするという喜びを喪失します。旅なんて壮大な時間の無駄使いですから。でも、その無駄な時間が心を豊かにしてくれているんじゃないですか?

※ソロ社会問題とどういう関係があるのか?というご指摘もいただきそうですが、「生産性」と言いたがる人たちは、往々にして、生涯独身や子無しの人たちを認めない発言をする傾向があります。子を産まない者は生産性のない人間とでも言いたいのでしょうか。そんなことは決してないわけで、人口減少や少子化問題にかこつけて、そうした人たちの人格否定や人生否定につながるような軽率な発言がなくなることを切に希望しています。

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