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热辣滚烫。中国で公開された「百円の恋」のリメイク作品映画がヒットし過ぎで社会現象に。ネット民の考察が興味深い

中国は旧暦新年(春節)で大型連休の真っ最中です。ボクもすっかり休み気分で、noteの更新を怠けておりました。

春節の話題といえば、爆買いにインバウンドで来る観光客の報道が日本ではいつも話題かと思いますが、コロナも収まっている時代にもかかわらず今年の中国から日本への旅行者はあまり多くはなかったようですね。

一方中国国内では、帰省での激混みや旅行の盛況はもちろんですが、文化面では映画がネットで大きな話題となっています。春節シーズンに合わせて多くの話題作が公開され、興行ランキングが発表されていました↓

(画像:thepaper.cnから、データ:映画興行収入データベース灯塔专业版から)

映画興行収入データベースによると、2024年2月14日(連休の5日目)の午前11時48分まで、中国映画市場春節連休の合計興行収入はすでに50億元(約1000億円)を突破し、合計入場人数が1億人を超えました。

そして今日詳しく話をしたいのは、見事1位に輝いてる「热辣滚烫」(Rè là gǔntàng)。2月14日11時48分までの興行収入が17.21億元(約350億円)のメガヒットです。

日本のメディアでも一部報道されたように、この作品は安藤サクラ主演「百円の恋」のリメイクです。

Xなどでも、「日本映画のリメイク、中国の映画市場、夢ありますね」などの投稿を見かけました。

中国では日本作品をリメイクしてヒットしたものも数々あるのですが、今回の映画が大ヒットした理由は日本原作であることとほぼ無関係といっても過言ではありません。むしろ日本原作だから大ヒットとなった思考自体が勘違いです(怒る人いたらそっとこのページを去ってください)。

今日はこの映画が大ヒットとなった背景を徹底的に解説します。

◾️監督・主演となる「贾玲」(ジャー・リン)はとてつもない人気

まずは、この作品の監督と主演を担当する贾玲(ジャー・リン)について。15年以上、相声という中国漫才や舞台喜劇などで大活躍していて、あらゆる世代で認知されている最も活躍している女性芸人の一人。国民度と好感度がとにかく高い、とボクの周りでも絶賛されています。

宣材画像より

彼女の映画監督デビュー作「你好,李焕英」(こんにちは、私のお母さん)は2021年の春節映画として公開され、54.13億元の興行収入で中国の映画史上、女性監督で歴代最高記録となりました。コロナ禍の影響があるなかでの大ヒットで、当時社会現象になりました。

このデビュー作の名前の「李焕英」は彼女の実の母親の名前。自分の母親の姿を描いた映画で、当時の歴代興行収入2位の実績により、「彼女の作品のスタートラインがあまりにも高くプレッシャーが大きすぎる。これからは落ちていく一方ではないか?」とネット民たちに心配されるほどでした。

◾️なぜこの作品はここまで注目されているの?

そんな国民的スターの贾玲。ここ最近ほとんど露出してなくて、全く見かけないなと思っていた人も多かったのですが、1月11日に自身のWeiboで春節に新作映画を公開するお知らせを突然発表しました。

(画像:Weiboから)

簡単に訳すと「一年以上姿を見せてなかった原因は新作を撮るためでした。撮影にとても時間がかかった理由は、ボクシングの内容で、役作りで50キロ痩せたので。とても大変でしたが全力を尽くしました

これが「爆」をつけるほどバズり、中国全土が知ることになります。

(画像:Weiboから)

↑当時公開された宣伝用のポスターですが、「絶対ウソ」「どうせ加工だろう」との声も多かったです。

芸人としての贾玲さんは、デビュー同時の体型は痩せてはなかったが普通でした。

(画像:百度から)
(右から2番目、春晩(紅白的な)でコントをしたとき。かなり太っている 画像:百度)

売れっ子になるほど体型がぽっちゃりしていって、最終的にファンから健康状態を心配されるほどでした。デビュー映画が大ヒットした時、興行収入が30億元を超えたらダイエットすると公の場でファンと約束していて、その約束で2作目を作ったんじゃないかの展開でした。

本人への取材では、「可愛らしい芸人というイメージから脱却したくて、85キロから105キロまで増やして、必要なシーンを撮り終わってから50キロの減量をしてボクシングのシーンを撮った」そうです。

(上映直前に公開されたポスター 画像:百度から)

上映直前と直後には見たことのないほどのトレンドジャックでした。

(公開初日の2月10日(旧暦元日)の午後16時のWeiboトレンドTOP10)

上から順番に「贾玲腹筋」「現在の贾玲」「贾玲 化粧と衣装に頼らず爆改造」「贾玲ダイエット全記録」「『热辣滚烫』上映」の5つがトレンド上位TOP6をジャックしてました。

バズったのは「ぽっちゃり国民芸人の激痩せ大変身」だけで、「日本映画『百円の恋』のリメイク」は全く話題の中心ではなかったです(他意はありません)。

◾️属性ごとによる評価の割れが興味深い


「評判がいいから見に行かなきゃ」「痩せた贾玲を見に行きたい」と、社会現象となっているヒット作ですが、中国の口コミサイトやコミュニティーではとても異常な現象が起こっています、映画についての議論なんですが、ちょっと違った視点での議論も面白かったので紹介しましょう。

タオバオの映画チケット販売プラットフォームでの評価は9.6点。チケット販売と興行収入データベースの猫眼では評価は9.5点。コンテンツ系口コミサイトのDoubanでは8点。知識人ユーザーの多いコミュニティーZhihuでは7.6点。そして、男性ユーザーがほとんどのコミュニティーHupuではまさかの3.8点。

(Hupuのキャプチャー)

興行収入2位となる「飞驰人生2」は、タオバオのプラットフォームでは9.6点で同点でしたが、Hupuでは9.6点の高得点となりました。春節映画は、家族全員が楽しめるジャンルのものがほとんどとなりますが、ターゲット層が異なる(飞驰人生はドライバーの話で男の子が好き)とはいえ、あまりにも差が大きいことが反響をよび議論されました。

Hupuでの書き込みでは、「(ボクシングの映画で)フェミニズムのパンチだ!」「ブスが100キロ痩せてもブスだ」「飞驰人生5回見ても热辣滚烫は1回も見たくない」「何でお金払って贾玲のダイエットを見なきゃならないの」など、友好的ではないものがけっこう目立ちます。

ちなみに中国のフェミニズム事情は日本とは大きくことなり特殊で、以前紹介しましたので興味がある方はどうぞ↓

性別による対立を煽る人は実際には一部で(それでもバズりすぎてて多いが)、男性視聴者からも「ダイエットしたことがあれば、どれほど大変なことだったくらいは想像がつくでしょう」「長年体づくりをしてきた経験からいうと、いくらプロのチームが付いてるとはいえ、女性でほぼ素人が1年ちょっとの時間でこんなに筋肉バキバキの体を作り上げたことはリスペクトしかないです」など高い評価も。

逆に、女性視聴者から「男の好みに媚びてダイエットするなんて最低」「彼女のせいで両親や親戚から色々言われました。こんな太ってる人がダイエットに成功できたのに、なんであなたは出来ないの?って」「億元単位のダイエットのモチベーションはさすが異なりますね」などに共感の声も。

このように、悪評ばっかり書き込む人について、「贾玲の頑張りは彼らの努力したくない心や人生にぶっ刺さったからだ」との意見にもたくさんのいいねが押されておりました。

ここまでのように、ネット民の投稿の数々は、一見すると評価は全部贾玲のダイエットに集中していて、全く映画の本質を評価してないじゃないかという状態ですが、映画の中身にもさまざまな評価があります。

(ここから若干ネタバレの内容が入ってます。閲覧注意ください)

◾️日本原作との比較(中国ネット民目線)

日本映画のリメイクという情報が出てきてから、原作を無断でアップする人がいて、アクセス数も結構ありました。これはちょっと残念な事象ですね、今頃は削除されてるかもです。

(画像:Bilibiliから)

これほどバズった作品なので、原作を見に行って、どっちも見ての感想を書いている視聴者もたくさんいます。日本版の方がいいと評価する人もいれば、中国版の方がいいと評価する人もいます。

日本版の物語では、安藤サクラさんが演じる一子が、勝負すらしなかったニートから、ボクシングで戦って輝いていくという前向きな映画。恋の結末では、一子は元彼と手を繋いで再び歩き出す。

一方、中国版で贾玲さんが演じた乐莹は、同じニートだったのですが、物語の衝突や人物関係などのローカル化されている内容が非常に多く、これが多くの人から評価されていました。恋の結末としては、元彼の再度の誘いに対して、「その気になったらね」とほぼ断りの返事。

原作のリメイクに対してどういった契約だったのかわかりませんが、細部もエンディングもかなり変わっています。東映がオリジナルの版権、ソニーがこの映画の海外配給権利を買っているのですが、出資もプロデュースも関与してないのに直接海外配給権を買った初めての中国映画だそうです。

ソニーの関わり方はメディアと映画関係者の間で話題に

中国映画の口コミサイトの大手Doubanでのとある書き込みが核心の異なりをまとめていて印象に残ったので最後に紹介しておきます。

如果说百元之恋是“我在一直被生活痛揍,中间揍了生活一拳,但还是被压着打,我之前都是loser明明努力了一回还是输了,我真的好想赢一回”,那么热辣滚烫就是“我之前一直被生活揍,我想赢一回但还是被一直压着揍,这个过程中我回击了一次,我就觉得我赢了”。内核是完全不一样的。

訳すと
「百円の恋」は『私はずっと人生に殴られていた。その途中で一発殴り返したけど、それでも押さえつけられたまま殴られ続けている。以前は努力せずで負けてしまったが、頑張っても結局負けました。1度だけでもいいから勝ちたい』というもの。一方、「热辣滚烫」は『私は以前ずっと人生に殴られていた。1度勝ちたいと思ったけど、それでもずっと押さえつけられて殴られ続けている。その過程で1度だけ反撃したら、私は勝ったと感じた』と2つの核心部分は全く違う。

この違い、伝わりますかね。

ボクもどちらも見たのですが、とても素晴らしい作品だったので、ぜひみなさんにも観ていただきたいです(中国版は日本語になって公開されるのだろうか。。)

(参考資料)


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