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縮まない。縮みたくない。もう誰にも縮んでほしくない。これをみんなのポリシーにしたい。

少し前まで、25年間、コンサルティングという職業に向き合っていたが、いつの頃からだろうか、効率化というものがとても嫌いになった。コスト削減のプロジェクトも、特に相見積や競争入札、そして発注数量の増大とセットにした値引き要請がとにかく嫌だった。誰かの利益を減らして、その分で生きながらえる。確かに倒産寸前なら生き残りのためにコストを抑えるのは必然だろう。でも、コストをいじったところで、その会社の「生きる力」は本質的には何も変わらない。顧客に届ける価値を大きくする事や、その会社らしい価値を作り上げることが、何より必要なのは誰もが分かっていることだった。それなのに、コスト削減が優先され、コスト削減が目的になり、それを進めていく中で、価値創出の芽もムードも失われていってしまう。

仕方なくコスト削減を進める時は、自分の中では、単価削減より、個数削減に力を入れていた。無駄遣いはそもそもすべきではない、勿体ないという感覚だった。複数部署でシェアすればいいものを見つけ、数を減らすことを進めた。どうしても、単価削減を進めないといけない時は、忘れてはいけない大事なことを伝えるようにしていた。これはその商品を納めてくれている企業の胸を借りる行為である。のちのち恩返しをしなくてないけないものだと。残念ながらあまりその言葉は伝わることはなかったように思う。相手も商売なのだから、互いが納得して成立した契約であれば、特に気を使う必要はない。そんな寂しい反応が多かった。

ここまでの話は、「#仕事のポリシー」というお題を見つけて、真っ先に思い出した「自分のポリシー」を社会に突き通せなかった経験だ。そんな中でも、効率化のプロジェクトを始める時、それがどんなプロジェクトでも、ブレずに言い続けてきたことがある。それは、本当の目的が「同じ価値のものを少ないお金や人で生み出すこと」ではなく、「新たな価値を創り出すこと」だというものだ。効率化は悪ではないが、効率化したいなら、先に生み出したい新たな価値を決めてから、その価値の実現に役立てるお金と人を確保するために、効率化をしよう。こんな表現をすることもあった。要するに効率化自体を目的にしてしまうことに、大きな違和感を感じていたのだ。2015年頃に作り上げた「創造生産性」というコンセプトの起点となった考え方だ。

市場シェアを取りにいくために、マニュアルやアルバイトを駆使し、他が追従できないほどの徹底した効率化を進めて、一度極限まで原価を下げた上で、価値を上げるために少しだけお金を使うというやり方もある。こうすれば、顧客により良いものを安く提供することができるので、消費者なら誰でも喜ぶことだ。でも、実はここにも違和感を感じていた。「モノやサービスの対価」のレベルを能動的に押し下げて、ついて来れない企業を淘汰するという戦い方だからだ。これは、スケールを発揮できない多くの企業が退場していくきっかけになった。残ったのはスケールを勝ち取った企業とそこでマニュアル通りに働くアルバイトだ。

こうした効率化の発想は、企業の戦略としてはどれも間違っていることではない。むしろ、堅実だし、どの戦略の本にも載っているお手本というべきものだ。でも、この戦略では市場を取り切ったところで成長が止まってしまう。そして、その成長の裏で、社会には無数の縮んだ中小の企業や個人が生まれていく。もうそろそろ、こうした戦略の考え方を、社会を起点にしたものへと抜本的に変えるタイミングが来ていると思う。すべての個々人や企業がそれぞれの持つユニークな能力をリスペクトし合い、それらを組み合わせて新たな価値を紡ぐ。すべての人たちが供給者となって、より大きな価値を生み出すべく活動を続ける。そうした活動を盛んにするための、コーディネータ、価値の種や多様な能力の検索できるデータベース、さらには互いの能力や価値を買い合う文化を醸成するための通貨なども整えていくのが良いと感じている。

「#仕事のポリシー」に因んだ記事を検索していたら、伝説の投手、江川卓の戦い方が描かれている記事を見つけた。「早めに自分優位のカウントにし、そこからはボールゾーンへの誘い球で抑えるというのが一流投手の攻め方の一つだが、(江川卓のような)超一流になるとボールゾーンを使わなくても抑えられる」というものだ。どんな人でも、マニュアルで定義された業務に就けばアルバイトだ。でも、自分ならではのユニークな領域を定め、そこで常識や王道を超えて、こだわりをもって進んでいけば、その領域では一流どころか超一流を目指すことができると信じている。もちろん、それは野球のピッチャーという領域のような万人にとって分かり易い超一流ではないかもしれないが、必ずそれを超一流と感じる人が少なからず存在すると思う。以前ならその人と出会うことはほぼ不可能だったかもしれないが、今の世の中なら。その人とつながり、瞬時に対話を始めることも可能だ。

私のポリシーは「効率化をやめて誰も縮まない社会を作りたい」だ。こんなポリシーに溢れる社会を作るべく、これからも日々社会に向き合っていこうと思う。だいぶ仲間も集まってきた。ここから新たな日本が始まる。もう楽しみで仕方がない。


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