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ウクライナ危機で世界が動くエネルギー利権

 ロシアのウクライナ侵攻は世界から批判を浴びており、ロシアに対する経済制裁は長期化していくことが予測される。一方で、ロシアは中国との関係を深めており、新冷戦時代の到来という声も聞かれるようになってきた。この影響は、ビジネスと市民生活の両面で、少なからず出てくることになるだろう。

産業面からみたロシアは、世界有数の資源国であり、原油の生産量は世界で第3位、天然ガスは米国に次いで第2位となっている。ユーラシア大陸で繋がっている欧州では、天然ガス消費量の4割をロシアから輸入しているため、今後のエネルギー政策、脱炭素の取り組みにも影響が生じてくる可能性が高い。

脱炭素を進める欧州にとって、天然ガスは再生可能エネルギーを補完するクリーンエネルギーという位置付けになっている。石炭や石油と比較して、天然ガスは温室効果ガスに含まれる二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物などの排出が少ないためである。

※出所:日本ガス協会

欧州の電力消費量に占める再生エネルギーの比率は、2020年の時点で22.1%、それを2030年までには60%にまで増やす計画を立てている。しかし、太陽光や風力による再生エネルギーは気象条件による発電ロスが大きいため、それを補完する「移行期のエネルギー」として、欧州委員会では天然ガスと原子力を認めている。

しかし、ロシアと欧州の関係が悪化したことで、ロシアが天然ガスの供給をトップした場合、または欧州が「ロシアから天然ガスの供給を受けない」と決断した場合には、欧州の脱炭素計画に狂いが生じることとなり、その代替エネルギーとして石油や石炭の需要もひっ迫して、世界的なエネルギー価格の高騰が起きることが予測される。

ロイターの記事では、危機がエスカレートした場合には、パイプラインによって天然ガスを供給するインフラから、ロシアは物理的またはサイバー攻撃を仕掛けて兵器化できる可能性を指摘している。それを裏付けるように、ロシアからドイツへ直ルートで天然ガスを供給するパイプラインとして建設されていた「ノルドストリーム2」は、工事が完了しているにも関わらず、ドイツ政府が稼働を承認しない決定を早々に行った。

【天然ガス利権における米国の立ち位置】

また、米国にとっては、ロシアと欧州の関係悪化には経済的メリットがある。米国の天然ガス生産量は、2020年の時点で世界第2位のロシアよりも多く、世界1位となっている。米国産の天然ガスは8割が自国内で消費され、2割が輸出されている。

米国を天然ガス生産国トップの座に押し上げたのは、2000年頃から起きたシェールガス革命によるもので、2020年の時点では米国で生産される天然ガスの79%はシェールガスによるものとなっている。シェールガスは、地下2000m付近でガス成分が含まれている岩石層(シェール層)を探し出し、そこに砂と化学物質を混ぜた水圧をかけて周囲の岩を破砕してガスを採取する技術(水圧破砕法)が実用化されたことで、次々と小規模なシェール井戸を探し出し、天然ガスの生産量を飛躍的に伸ばすことができるようになった。


米国では天然ガスを掘削する井戸が50万ヶ所上ある。シェールガス井戸は、採掘から数年で枯れてしまうことが多く、次々と新しい井戸を開発していく必要があり、環境汚染や地震の誘発リスクが指摘されている。そのため、トランプからバイデン政権に変わってからは、シェールガスの新規掘削許可を出さない方針へと転換している。しかし、ウクライナ危機によってロシアからの供給ルートが遮断され、需給がひっ迫するようになると、米国がどれだけ輸出量を増やせるのかで、天然ガスの相場が変わってくる。

もともと、米国がシェールガスの開発に注力してきたのは、ロシアに依存しているエネルギー供給が、有事の際には遮断されてしまうリスクヘッジの側面があり、ここへきて、その先見性が見直されるようになってきている。米国以外の国は、環境汚染への配慮から、自国での掘削許可を出すことに躊躇していたが、今後はシェールガスの掘削技術が他国にも輸出されていく可能性が高い。

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