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インバウンドの本当の意味―みんな一緒から、みんないろいろ時代に(上)

30万円のフランス料理、10万円のお寿司、1万円の海鮮丼があらわれる。それでも「安くて美味しい」と日本に来た海外の人が嬉々として食べる。コロナ5類移行の昨年5月から、世界からの観光客が一気に戻ってきた。全国の観光地に訪ねて、どこもかしこもが観光客であふれ、「オーバーツーリズム」と呼ばれる現象をひきおこして、コロナ禍での低迷から一気にV字回復しようとしている

1室1泊30万円、50万円のホテルも出てきた。誰が、そんな高い部屋で泊まるのだろうかという心配はいらなかった。すぐに予約が埋まる。世界から来られる「富裕層」や日本の「金持ち」が泊まりたいと思う高級ホテルが足りない。日本の観光インフラ状況を踏まえ、欧米のみならずアジアのホテルチェーンがラグジュアリーホテルを次々と建てはじめた。世界からの動きに気がつき、日本企業も高級ホテル建設をはじめている


1 インバウンド≠観光

「観光客が消えてしまった」と嘆いていた観光事業者がまるで別人のようになった。1年前までが嘘のように、世界から観光客が来られる。諦めかけていた2030年「6000万人」という訪日外国人目標、消費額15兆円を若しかしたら実現できるかもしれないと意気込む。このように観光関連産業は盛りあがるが、インバウンド戦略の論点がズレている
 
日本のインバウンドは、世界から
観光旅行のお客さまが来られるというイメージ

 
経済界だけでなく、霞ヶ関も自治体も大学もマスコミも、そう捉えがち。世界から日本に来られる観光客をターゲットとした旅行会社、航空会社、鉄道会社、観光地、ホテルなどが展開する観光ビジネス=インバウンドだと捉えているが、それは狭義であって正確ではない。本当のインバウンドとは何かというと?
 
国内消費に、外国のお金が入ってくること
 
が、本来のインバウンドであり、国内観光はそのインバウンドの一形態にすぎない。世界から日本に来られた人が、日本でお金を使う。観光以外でも、日本でお金を使われる。そのお金が日本でまわる
 
インバウンドとは、そういうこと。世界から来られた人が、化粧品やお土産だけではなく、自分の衣服を日本で買うこと、これもインバウンドである。世界の人が日本の不動産を買うこと、これもインバウンドである

逆に日本人がニューヨークに行き、何かのファッションを買って、日本に帰る。それをお土産と言うだろうか?言わない。それはなにかというと
 
アメリカでファッション消費をした
 
日本で現在進んでいるインバウンド現象は、これである。世界から来られた人が、自分が着る服を日本で買う。これは観光とは関係ない。世界から来た人が、東京の港区で、タワーマンションを買う。これも、観光とは関係ない。国境を超えて、日本の国内消費に外国のお金が流れ込んでくることが、インバウンドである


2 日本人は3000円のラーメンを食べるか?

世界から観光客が増えて、ラーメンの値段がどんどん上がる。その現象は、観光とは本来関係がない。商品の値段は、需要と供給の関係で決まる。ラーメンが2000円でも3000円であろうとも、何時間も並んででも食べたい人がいれば、店は成り立つ。それを食べる、それを買う人がいて、それが良いと評判になり、食べたい・買いたい人が増えたら、その値段は上がる。そのなかインバウンドは
 
外国の物価を基準に、日本で消費が行われる
 
外国で食べたら10000円である寿司が、日本に来たら海外のお店以上の味の寿司を5000円で食べられる。外国よりも安くて、こんなに美味しい寿司が食べられるのだったら、当然、日本の寿司屋さんに食べにいきたくなる
 
その変化が日本で起こっている。歴然としているのは
 
日本の物価が安すぎる
 
世界でラーメンを食べると、3000円も4000円もする。日本なら700円、800円で食べられる。外国人はとても驚かれるほど日本の物価が安い

しかし日本の1杯900円のラーメンが2000円になったら、そんなに高くなったら食べられないわと思う日本人も出てくる。しかし海外の人が2000円ラーメンを食べに来ていただけるならば、お店は十分にまわる

今、そんなことが起こっている

世界で、日本の魅力的なモノを買ってくれている。その同じモノが日本に来ると、安く買える。外国人からしたら、ありがたい。世界から、日本に来て買ってくれるのは、日本にとっては願ったり叶ったりで、どんどん日本でお金を使ってもらいたい。このようにして、インバウンド消費がのびる

3 日本のサービス品質は高いのか?

このまま円安が続き、世界と日本の為替レート構造が続いたら、日本社会はどうなっていくだろうか?このままインバウンド消費が増えていくと、日本のサービス産業は復活していくだろうか?

日本社会には語学力の問題があるから限界はあるが、インバウンド消費はこれからも伸びるだろう
 
しかし気になることがある
 
日本は人手不足になって、賃金がどんどん上がっている。賃金があがるのは悪いことではない。しかしコロナ禍での業績低迷に伴い人員整理をしたところ、インバウンド需要が急復活したため人員不足、サービス力が低下しているという声を聴く。しかし日本のサービスは良いと前提だが
 
日本のサービス品質が高いというのは、本当?
 
都市伝説である可能性がある
海外から来て、限られた日本滞在期間のなかで、日本人のもてなしに感激したり、心地よかったという出来事からそういうイメージがつくられているのかもしれない。しかし日本人が3000円のラーメンを食べに行って、その店のサービスが高くないからダメだと思うだろうか?そもそもラーメン屋さんに行って、日本人は高いもてなしを求めるだろうか?多くの人は求めない
 
そこそこ金額が張る高級料理店に行って、料理の美味しさに加えて、それなりの「もてなし」を経験して、日本はサービスは良いのだと刷り込まれているだけで、普通の店は普通である。そもそも日本には
 
サービスはタダという都市伝説がある
 
サービスが良くて当たり前と日本人は思っている。その前提のなか、インバウンドのお客さまが増えて、商品・サービスの値段があがって、需要に供給が追いつかなくなり、人手不足になって、サービスがおちてきたというが、それは正しくない
 
日本人のサービスは安い値段で手に入るものと、これまで経営者が思い込んでいたが、日本のサービスには金がかかっていた。現場が努力していた。だから企業としてお客さまの期待に応えなければならないならば、サービス向上には金をかけなければいけない。提供サービスはタダではない

サービスには金がかかっている。これまで企業はそれをしなかったのであって、サービスにそれ相応の金を支払うのは当然である。世の中は人手不足というが、実質はえり好みである。人が殺到する業種とそうでない業種に分かれている

社会価値を追い求めていける仕事ができる会社なら、多様な働き方が選択できる会社なら、選択肢を自らが決定できる会社なら、やり甲斐・働き甲斐がある会社なら、成果に見合った給料がもらえる会社なら、人が集まる。そうではない会社、そうしない会社には、人は集まらない

 これまで、みんな同じだった会社、みんな一緒だった会社が、護送船団だった会社が、二極化どころか、みんないろいろ、みんなバラバラになった。観光需要の急増で飲食業・ホテルが、高齢者急増で介護が、2024年問題に突入した物流や建設などが、人が集まらなくなっている

このままいけば、お客さまの接客ができなくなる、モノが造れなくなる、モノが運べなくなる、家やビルが予定通り建てられなくなるかもしれない。赤字倒産どころか、労務倒産する会社が増えていくかもしれない。これから、どうなるのか?どう考えたらいいのかは、次回に考えたい

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