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DXは、人の自然な活動に、デジタルを組み込むこと。今からでも、ワクチン予約の方法にDXを。

自治体でワクチン接種のデジタル業務で混乱

 コロナ禍になり、私たちの生活のデジタル化は加速している。デジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉も一般的になってきた。私たちは、コロナから、このように「デジタル」について、理解して、学んでいる。

 まだ、デジタルについても学んでいる途中なので、失敗も多い。

 おそらく、この記事にある、ワクチン接種業務のデジタル化による混乱は、デジタルやデジタル・トランスフォーメーション(DX)を学んでいる時期だから起きる失敗事例だろう。失敗したら、学べば良いだけである。

 この事例は、本当に良い学びの材料である。ただしこの事例には、登場する関係者が多いので、もっと簡単な、シンプルな事例を使って、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の要になる考え方を整理したい。

 そして、最後に私たちのワクチン接種の予約方法についても、デジタル・トランスフォーメーション(DX)してみたい。

そもそも、DXとは、人の生活を便利にするもの

 デジタル・トランスフォーメーション(DX)提唱した人に、エリック・ストルターマン(Erik Stolterman)教授がいる。彼の論文「Information Technology and the Good Life」では、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と定義しており、これをデジタル・トランスフォーメーション(DX)の定義とすることがある。私も、この定義に賛同し、よく引用させてもらっている。

 この定義に基づくと、先の報道にある、ワクチン接種した個人の記録を全国で一元管理するシステム「VRS」は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)にはなっていない。むしろ、現場の仕事を増やしているだけにも思える。

 読者の中には、今までよりっも丁寧にデータを管理するには、データの入力や管理という業務が増えるので、現場の仕事が増えるのは当然だと思うかもしれない。それは、「紙」に記録という場合には、確かに業務は増える。私たちが使おうとしている、「デジタル」に記録する場合は、業務を増やさすにデータを管理することが可能だ。そして、今までよりも楽に多くのデータを管理することさえ、デジタル・トランスフォーメーション(DX)ではできるのだ。

 このことを2つの事例で学んでみよう。まずは、「デジタル」になったことで、私たちがデータを調べる行動がとても簡単になった例から考えよう。

例1:電話帳→検索エンジン

 最初の例は、電話帳の例だ。残念ながら、今年ビジネス・パーソンになった新入社員の方は、電話帳を正しく知らないかもしれない。電話帳とは皆さんの携帯電話に入っているソフトではなく、紙の本のことである。

 私が、会社に入社した1992年には、社内にも電話帳があった。例えば、隣の部署の方と打ち合わせをする時には、社内の紙の電話帳を使って、会議の時間を電話で調整をして、会議を行っていた。

 今は、多くの会社で、紙の電話帳はなくなっただろう。イントラネットに社員名簿が掲載されており、それを使ってメールや電話をするだろう。

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 この「紙電話帳」が、「デジタル電話帳(社員名簿)」になっただけで、私たちの検索行動は大きく変わった。

 「紙電話帳」は、例えば会議をしたい人の部署名や名前がわからないと調べられない。よく部署の上司に、「○○は誰に相談したらよいですか?」と聞いて、あたりをつけてから、恐る恐る電話をしたものだ。

 一方、「デジタル電話帳(社員名簿)」は、気の利いた会社だと、備考欄に「○○担当」と担当の仕事が書いてあり、この「仕事」の名前で検索できたりする。

 これは、格段に私たちの生活を便利にしており、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の例である。そして、少し冷静に考えれば、今までの「紙電話帳」が、とても不便だったかわかる。「紙電話帳」には、印刷・配布というオペレーションがつきもので、データの更新がリアルタイムにできない。そして、一番の問題は、電話帳を見やすくするために、定型の情報しか掲載できない。そして一番の問題は、社内の電話帳は、まったく新しい領域の仕事などに直面した時に活用するのだが、その時の検索方法が考え付かず、結果、電話した後に「〇〇の仕事の相談でこちらで良かったですか?」という会話から始まることが多かった。

 デジタル電話帳(社員名簿)は、更新したら、その時から新しい情報に一斉に変わるし、備考欄などを作れば非定型の情報も入れられる。そして、デジタルの検索機能のおかげで、入力しているデータのすべてが検索対象になるので、このような非定型の情報も、とても有効に使えるのである。

 このように考えれば、私たちの周りには、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の成功事例も多いのである。

例2:タイムカード→入退館管理による勤務管理

 さて、今回の接種情報一元管理システム(VRS)に近い、事例を考えようこのシステムは、どの国民が、どこで、どのワクチンを、いつ接種したのかなど管理するシステムだろう。

 これに近いシステムは、実はどの企業にも存在する。それは、従業員の出退勤管理システムである。多くの会社から、「タイムカードの打刻」がなくなり、「オフィスの入室・退室」と連携したり、業務用の「パソコンへのログイン」と連携したりして、タイムカードを使わない会社も、かなり増えただろう。

 なぜ、このような新しい出退勤管理システム、つまり勤務管理にデジタル・トランスフォーメーション(DX)が進んだかと言えば、理由は明確だ。「人は忘れる」という、人の本質が導入の理由だろう。

 少し私の「忘れる」経験を紹介しよう。私が新入社員として入社した会社は、タイムカードはすでになくて、勤務管理用のコンピューターに、自分で社員カードを使って出退勤を入力するシステムであった。しかし、この出退勤管理という行動には必然性はない。正しく言えば、従業員として行うべき業務ではあるが、「人は忘れる」のである。結果、勤務管理をまとめる日の近くに、よく上司に「本間君、また出退勤の入力忘れているよ!」と怒られるのである。

 だったら、その人が必ず行う行動をデータとして、活用すれば良いのではとして、出てきたのが、オフィス・フロアーに入るときのセキュリティ・システムとの連動である。多くの企業では、自分の執務フロアーに入るときに、社員カードを使わないと入れいないようになっていることが多い。また最近のビルでは、エレベーター・ホールに、電車の改札のようなゲートが設置されているビルも増えた。このゲートの「入る・出る」時間を社員ごとに整理すれば、出退勤の管理ができる。

 つまり、この例は、人の行動に合わせて、システム設計を行い、今まで行っていたタイムカードの打刻からの解放という、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の例なのである。

 今回の接種情報一元管理システム(VRS)も、本当は接種会場で行う必然的なオペレーションとデータ連携すれば、多くの業務は不要で、かつ精度の高いデータが集まるはずだ。

 このように、実はデジタル・トランスフォーメーション(DX)の成功の会議は、「人」の理解であり、高度なコンピューターの利用ではないのである。私が、多くのプロジェクトで、デジタル・ツールの導入では、必ずその業務の観察を行う。その行動の中に、デジタル・トランスフォーメーション(DX)のヒントがあり、コンピューターの中にはないのである。

では、ワクチン接種の予約システムは

 ところで、ワクチン接種情報一元管理システム(VRS)は、私たちが利用するシステムではない。私たちが使うのは、ワクチンの予約のシステムである。今からでも良い。これをデジタル・トランスフォーメーション(DX)してもらえないだろうか。

 今の予約は、自治体から送付された接種券と、その後自治体から公開される、接種日、接種会場を確認して、電話やインターネットから予約するシステムである。この方法は、実は今回の例1の「紙電話帳」の利用に限りなく近い。今は高齢者が多いので、この方法が良いのかもしれないが、「勤労者」「学生」が増えたなら、別の方法が良いのではないだろうか。

 例えば、接種券が届いたら、自分の住所、勤務地、学校の住所を入力し、そして、接種を受ける人が接種可能な時間を入力する方法である。そして、コンピューターの方で、空き時間と場所を組み合わせて、メールなどで、接種を受ける人に連絡すれば、今のようにワクチン接種争いのようなことは、起きにくいだろう。今の方法は、各自治体のワクチン接種予定と自分のカレンダーを見て、接種を受ける人が悩んでいる。カレンダーの空き時間の調整は、人よりコンピューターが得意な仕事だ。そして、ワクチン接種予約の日に、多くの人が電話やコンピューターの前に1時間も拘束されなんて、それこそ日本の経済活動の停滞を、推奨しているようなものだ。

 デジタルは、人が使うツールであり、人を支配するものではない。人が便利になる、楽になるために、デジタル・トランスフォーメーション(DX)はあるのである。人の自然な活動に、デジタルを組み合わせる。この視点は、とても重要なのである。

 

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本間 充 マーケティングサイエンスラボ所長/アビームコンサルティング顧問

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1992年花王入社、デジタル・マーケティングを牽引。以後、コンサルタントとしてマーケティングのデジタル化を支援。ビジネスブレークスルー大学講師、東京大学大学院数理科学研究科客員教授、事業構想大学院大学客員教授 マーケティングサイエンスラボ(mslabo.org)所長